藤林孝則34歳。最近8年間の片思いを遂に成就させた、新婚ほやほやの幸運男だ。幸せいっぱいの日々の中で、最近では更に妻の妊娠がわかり、正に幸せの真っ只中である。
 仕事場でも開発チーフというポジションを先月拝命し、部下との仲も良好。開発中の試作品も順調に完成へと近づいている。ATDという大きな企業の中で、確実に積みあがっていく自分の実績。仕事も私生活も順風満帆な毎日の中、藤林は自分が人生の出世街道をまっしぐらに駆け抜けている事を確信していた。
 例えるなら某髭のキノコのおじさんがスターを食べた状態の自分に恐れるものなど何もない。
 ・・・・・はずが。
(・・・・・なんだ?)
 仕事場である格納庫の扉を意気揚々と開けた瞬間に襲ってきた黒い何か。それのせいで、記憶が一時的に飛んでしまった。挙句に殴られたと思われる頭が未だに痛い。
(なんなんだ・・・・これは?)
 状況についていけず、困惑と苛立ちから藤林のこめかみに血管が浮き上がる。
 それはあまりに想定外の状況。藤林は体を縄で何重にも巻かれて蓑虫のようにされ、猿轡(さるぐつわ)をされて床に転がされていた。 
「ふまへははふほふほひほぁあああああッ!(お前ら何のつもりだああああッ!)」
 のた打ち回るように体を動かし、時々跳ねたりして必死に抗議をする。よく見れば他の部下達も同じように蓑虫&猿轡をされて床に転がっていた。あるものは藤林のように飛び跳ね、あるものは既にぐったりとして涙で床を塗らしていた。
「ほふはほほひへゆふはへふほほほっへひふほはーー!?(こんなことして許されると思っているのかーー!?)」
「ええい、黙らっしゃいおっさん!!」
 ゴスッ!
「はひばッ!!」
 藤林の腹に深々と天高く飛んだ少女の足が突き刺さった。みずおちに入っ
たらしく泡を吹いて藤林は気絶した。
 蹴りを繰り出した金髪の少女は、短く切られたその髪の襟足を片手で軽く払って藤林に背を向ける。
「許せ、これも我が覇道の為。諸君らの死は決して忘れん」
 堂々とした立ち姿で少女はそれだけを言い、背中でその生き様を語る。表面上では凛々しい表情をしているが、その裏では自分のかっこよさに有頂天になっていた。
 そんな少女には歓声も声援もなく、ただひたすらに周囲から言葉にもならないうめき声が木霊すばかりである。
 その声さえも無視し、自己陶酔に浸っている少女にどこからともなく声が響いた。
「・・・・いったい今度はなんの漫画読んだんだよ、リン」
 リンと呼ばれた少女の目の前にある、大きなの黒い塊の中からその声は聞こえてきた。
 具体的な大きさはカバーがかかっているためよくわからないが、少なくともリンを縦に二人並べても少し足りないくらい大きい。
 その塊を覆うカバーの中から、ごそごそと何かが動いている音が聞こえてくる。
「うん?北○の拳。めっちゃ面白いよ、レンも今度貸したげるから!」
「いや、いらんからその気遣い」
「照れるな照れるなぁ、お姉ちゃんの言うことは素直に聞きなさい」
「いつ姉ちゃんになったんだよ妹。それよりも早くしてくれ、こっちは準備できたよ」
「オッケー、弟!それじゃあ・・・・」
 リンは軽い足取りで大きな鉄の塊を包んでいたカバーを勢いよく剥がす。そこには眩しいばかりに光り輝く新品ボディーの不思議な形をした車が一台。全身黄色と黒に塗装されたその車は、ジープのように見えるが、それにしてもいたるところが角ばり、余分としか思えないパーツが多くついていた。
 そしてへんてこな車のオープンウィンドウの運転席には、リンそっくりの少年がいた。
 リンは勢いそのままで少年の隣の座席に座る。
 それと同時に、少年がエンジンキーを回してマシンに命を吹き込む。大型マシン特有の深く響くようなエンジン音が心地いい。
 ふんぞり返った体勢から、リンはポケットから小さなリモコンを出してスイッチを押す。すると目の前にあったシャッターがゆっくりと上がっていき、外の蒸し暑い熱気と刺すような光が格納庫内部に入り込んできた。
 夏も真っ只中の光景に、リンは高鳴る胸を押さえきれず、満面の笑みで光の差し込む格納庫の向こう側へと高らかに指を差す。
「よっしゃ、テンション上がってきたわ!行くわよレン、ピリオドの向こうへ!!目指すは敵の本城!」
「はいよ」
 レンと呼ばれた少年がエンジンを一気に吹かし、ギアを入れて一気に加速。マシンもまるで喜んでいるかのように唸りを上げ、そのまま格納庫を飛び出していった。
 轟音と排気ガスの中で、あっという間の出来事を誰もが呆然と見送るしかな
かった。
 それから1分もしない後。
「すいません、第3開発部のものなんですけど。ちょっとこの書類に目を通して・・・ってなんですかこれ?!」
 メガネをかけた小柄で童顔の青年が入り口から入ってくると、あまりの参上に目をむいた。
 そんな青年に誰もが悲鳴にも似た声で叫びのた打ち回っている。若干その光景に引きつつも、青年は泡を吹いて痙攣している藤林を見つけた。
「ふ、ふご・・・ふご・・・・」
「ふ、藤林チーフ!大丈夫ですか?!」
 体に巻かれた縄はあまりに稚拙かつ乱暴に巻かれているせいでうまく解けない。仕方ないので猿轡だけ外してやると、藤林の意識が急遽復活した。
「ぷはっ!た、大変だ!」
 顔に唾がかかりそうなくらいの勢いで藤林は叫ぶ。
「早く本社に連絡をしてくれ!ウチの試作機が・・・・ビリーがあの暴走超特急の双子にパクられた!!」
 その一言から約15分後。
 ATD栃木支部に警報が鳴り響き、あっという間に社内が慌しくなった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(1)

第3話始めました。とりあえずまた序章みたいな形の書き出しにしてみました。
前回の反省を生かし、少しでも簡潔に文章をまとめられるよう頑張っていこうと思います。
ちょっと遅くなってしまいましたが、また引き続き読んでいただいたり、興味を持っていただいたら幸いです。

閲覧数:260

投稿日:2009/09/24 01:17:31

文字数:2,326文字

カテゴリ:小説

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  • warashi

    warashi

    ご意見・ご感想

    どうもこんばんわです^^
    お忙しい中読んで頂いてありがとうございます!
    一人暮らしですか、私も去年まで学校の都合で一時期一人暮らししていたので、大変さは少しわかると思います。
    おかげで料理と洗濯は随分と腕が上がったと思います。いろいろと苦労はあると思いますが、その分とても楽しいですから頑張ってください!^^
    姉妹に憧れている私としては一度書いてみたかった光景だったりします^^;
    ちょっとずつですが、見えないところでいろんなものが多分動き始めている・・・という感じの雰囲気が出ていたら私的に成功だったりします。興味を持っていただてたらもっと大成功です!
    応援していただける限り全力でお話も絵も頑張っていこうと思います!よろしくお願いします!
    それでは改めて、読んで頂いてありがとうございます。

    2009/04/11 01:33:04

  • @たあ

    @たあ

    ご意見・ご感想

    こんにちわー。新生活が始まり慣れない環境でなかなか作品を読ませていただける時間がとれなかったのですが、やっと追いつきましたw

    メイコからの質問に赤くなってるミクや、それを見て笑ってるメイコは、なんだかいいですね⌒~⌒

    それにしても不穏な展開ですね…組織が動いてる気配がします。卓がマスターに選ばれた訳や、たぶんあるであろうミクたちの過去…早く知りたくてうずうずしてますw

    これからも頑張って下さい。応援しています。

    2009/04/10 17:20:16

  • warashi

    warashi

    ご意見・ご感想

    こんばんはです~^^
    いつもコメントを書いていただいてありがとうございます!
    こんなに早くコメントをいただけると思ってなかったのでとても嬉しいです。
    そうですね、一応関連性みたいなものをなるべく持たせたいと思っていますが、ちゃんとできるかちょっと自信ないです^^;
    双子は書きたいキャラだったのでちょっとこれからそれこそ暴走しそうです。
    ミクの写真はいつか関連ファイルとして絵に起こしてみようかと思ってたり(苦笑
    おお!トレインさんの小説再開!楽しみにしていますので、お互い頑張りましょう!^^
    トレインさんの期待に応えられるように早速下書きをチェックしておきます!
    また続きが書けて読んで頂けたら幸いです、よろしくお願いします!

    2009/04/10 02:45:58

  • トレイン

    トレイン

    ご意見・ご感想

    こんばんは~
    Part2(4)から一気に読んできましたが、
    どうやら関連性がありそうな感じがします。
    これから何が起きるのか。双子さんは何者なのか。
    それとミクの写s(ry
    いろいろ気になってしまいます^^
    自分も滞ってしまった小説を再開したい気分になりました。
    次回楽しみにしています。

    2009/04/09 22:14:03

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