―――――――――― #4

 整備棟のハンガーで、鏡音レンはLat式ミクのコクピットで出撃前の調整をしていた。下から整備隊長が注意を叫んでいる。

 「いいか大佐ー。インターフェイスはちびミクと同じだから操縦は出来るだろうが、エンジンのリミッターはマニュアルでないと切り替えられないから気をつけろ」
 「分かりました。武器はサブマシンガンとマイクロミサイル……、すごいバランスですね」
 「本当はアサルトライフルと対戦車砲も載せたかったんだが、お前は使いこなせないからな。亞北准将が地上で火力支援するそうだから、訓練通りにやってくれりゃいい」
 「はい」

 さり気なく耳に痛い事を言ってくれる。攻響兵器「VOCALION」の整備を引き受ける整備隊長は、いわゆるいかついおっさんである。
 どちらかと言うと、それこそアサルトライフルと対戦車砲抱えて前線走ってる風貌だが、軍に入ってから火力と名の付く武器は殆ど触ったという、技術部界の猛将と呼ばれているらしい。

 「初日みたいに大技使ってくれるなよ。「VOCALOID」戦は隙が多いと瞬殺される。相手は重音テトなんだから、とにかく指示通り動け」
 「はい」
 「なあに、言っても相手は単騎。どうってことはないがな。はははは」
 「そうですね。絶対に基地は守ってみせます」
 「おうよ。その意気だ」

 ドラマや漫画で死亡フラグという言葉があるが、いざ戦場に出るとなるとやってしまう。

 「いいかー。死亡フラグなんて皆やってるし、俺の知る限り死ぬ奴と死なない奴は半々だ。しけた顔して出ようとしたらぶん殴ってやるぞ」
 「あはは。それ以上喋らないで貰えますか。不吉なんで」
 「言うじゃないか。死んだら化けて出てやるから、寂しがらなくていいぞ」

 突然異音を発して、Lat式が前に踏み出した。整備隊長のギリギリ前で、思い切り踏み込む。大きな音が響き渡ったが、整備隊長は爪先の前で全く身動ぎもしなかった。

 「おっと足が滑った」
 「やるじゃないか。次やったら殺すぞ♪」
 「伊達に一日中訓練してません」
 「やっぱりわざとか」
 「わかります?」

 整備隊長は忌々しげにLat式の爪先を蹴って、すぐに神妙な顔になった。

 「乱戦になったら味方を踏み潰しても気付かない事すらある。どんな気分の時でも「VOCALION」を思い通りに動かせよ」
 「はい」
 「よし、1800。亞北准将からの命令は伝えたな?」
 「Lat式による哨戒ですね」
 「おう。最悪はLat式をスクラップにしてもいいが、お前は生きて帰って来い。これは先任としての訓告だ。行ってこい!」
 「はい!Lat式初音ミクMMD、鏡音レン出撃します!」

 ハンガー庫の搬出入扉は開きっ放しで、レンはLat式を外に向けて前進させた。差し当たりの行動は、正面の離着陸場で、待機。

 「これから一晩中待機か……」

 出撃という勇ましい言葉で忘れそうになったが、重音テトがいつ襲撃してくるかなど分からない。正式な初陣は、これ以上ない位に地味な新参にふさわしい任務だった。
 通信機が鳴り、応答すると相手は亞北ネルだった。

 『おう、予定通りにやってるな。2600までに来なけりゃ一旦退避な。分かってるか』
 「はい。襲撃がないのを祈ってます」
 『そうだな。本当は逃げるための時間稼ぎとかだったら、どんなにいいだろうな』
 「ははは」
 『ま、お前がボーっとしてて撃たれても、囮の役には立つ。気楽にやれ』
 「了解」

 ふと思ったが、何故か亞北准将はおっさんくさいなと思う。整備隊長と張り合うレベルだ。

 『最長で8時間ぶっとおしの待機だが、集中力を切らすなよ。フォローはする。以上』

 通信が一方的に切られる。手持ち無沙汰になったレンは、インターフェイス系の確認をして時間を潰す事にした。

 「長い夜になりそうだな……」

 整備部の連中が、シートの下に雑誌を突っ込んでいた。差し入れのつもりらしい。後で読むことにして、とりあえずコンソールを弄る。

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機動攻響兵「VOCALOID」 3章#4

出撃。

閲覧数:75

投稿日:2012/11/20 00:30:03

文字数:1,688文字

カテゴリ:小説

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