──翌日の朝──
はじめての宿屋で、一夜を明かしたパーティーメンバーは各人、朝陽とともに目覚めていく。ただし…リーダーを除いての話しではあるが。
「朝か……っ」
まず、初めに起きたのはフーガだった。ここは年長者たる大人の意地とも言うべきか、未成年よりも早起きして自分が仲間を起こしてあげなければならない…と云う使命感がある。
フーガは窓辺に向かい部屋のなかへ、お日様の光りを入れようと白の遮光カーテンに手を掛けた。シャーッと言う、効果音とともに開いたカーテンから眩しい太陽光が入った。
「ヌゥあーっ!?」
「zzz……!?!?」
部屋中に響く仲間の断末魔にレンが反応した。なにが起きてしまったのかと思ったからだ。
まさか、自分たちの泊まる宿屋にモンスターが襲撃にきて、仲間が攻撃を受けたのかと想像すると不安になってしまう。
「フーガさん!」
仲間の名前を叫びながら、レンはベッドから飛び上がった。断末魔が聞こえる方へ向き、戦闘態勢になって不測の事態に備えようとする。
「ううっ……」
フーガのことを見てみると窓から降りそそぐ、太陽の光りに悶えているのがわかる。その悶えかたも、彼が上着の胸元を開いた状態で、太陽がする厭らしいイタズラで虐められているのでは無いかとレンに思わせていた。
おまけにその背景には、少女マンガのセカイで使用される“ときめきの効果”が出現しており、薄ら涙で苦しむ顔も煌びやかで華がある。
黒混じりの青き髪を持つ、フーガの雪肌のように麗しい“ほほ”が日光により火照ってしまい、アブない雰囲気をよけいに演出しているのだ。
「あの〜っ、フーガさん。いったい…なにがあったんッスか?」
「あ…ああっ、ボーイ…ぼくはお日様が苦手だってことを忘れていたよ……。この身体に流れる血には…ヴァンパイアの成分があるからね…あぁっ! うっ……」
甘く取り繕った艶のある声から漏れる吐息も、朝から艶やかになっている。
「いや、紛らわしいッスから。マジでヘンな方向になっちゃうから!?」
「朝から、うるさいわね!」
部屋内が賑やかになってきたところで、もう一人の仲間が起きてしまった。リンは、無理やり起こされたので機嫌が悪い。眉を尖らせたまま、声のするほうに目を向けると……。
「うわっ……あんたたち、そんな趣味あったの……」
ここまでの状況を知らないリンが見た光景は、窓辺に手をついたまま悶える“いい青年”を戦闘態勢になった弟が後ろから……。
文章で表現するとバラライカならぬヤ ラ ナ イ カな誤解を姉に与えている。
「いや、違うからっ! このヒトが太陽苦手なだけだから!」
なんで、旅の二日目からこんな展開になるのだろうとレンは思った。
「それで、ミクちゃんは起きてないのかしら?」
リンは隣のベッドで眠るミクを確認した。
「zzz…zzz……」
「ヤングレディは、まだ、セリフがzzz…のままみたいだね」
騒がしい状況にも関わらずリーダーはまだ、夢のセカイを楽しく旅しているようだ。
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誤解を解くには時間が必要だ……。
次話
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