俺は連日の食中毒にゲッソリとして朝を迎えた。
今日はミクと曲を作る予定だ。
元気を出さなくては……と考えていた時、ミクが部屋に入ってきた。
 


「マスターおはようございます。身体は大丈夫ですか?」
 
「あぁおはようミク。多分もう大丈夫だ」
 
「そうですか、良かった」
 
「昨日、一昨日と心配ばかりかけて悪いな」
 
「いえっ、そんな事ないです!」
 


ミクは慌てたように両手をブンブンと左右に振って、
恥ずかしそうに否定する。
俺はそれが可愛くて思わず笑った。



「あ、ちょっと待ってて下さいねマスター」
 


ミクはそう言うと寝室をパタパタと出て行き、
暫くするとまたパタパタと帰ってきた。
その手には器があった。
 


「朝ご飯はお粥が良いかなぁ、と思って作ったんです。
お粥ならその……失敗もないですから」
 


そう言ってミクが差し出した器を、
俺は受け取って布団に零さない様一口食べた。
お粥が荒れた俺の胃を癒す様に染み込む。
ミクは言わなかったが、きっと俺を気遣ってくれたのだろう。
俺はミクの優しさに、ついホロリとなった。
 


「ありがとうな、ミク」
 
「はい」
 


俺は照れくさいので聞こえない様に小さくそう言ったが
どうやらミクは聞こえていた様で、
それがなんだか気まずくて俺はそっぽを向いて無言でまた一口食べた。
お粥を食べて暫く、俺はミクと歌の練習を始めた。
曲作りの仕方はある程度覚えたので、今度は詞という事になったのだ。
そこで俺のミクの歌唱力はどの程度かと適当な曲を歌わせてみたのだが……。
 


「……ミク」
 
「……はいマスター」
 
「今日一日……練習するか」
 
「はい……」
 


ミクは前のマスターは何をしていたのかと思うほど明らかに調教不足で、要するに音痴だった。
本人も歌ってて気付いていたのか素直に頷き、俺達はすぐさま練習を始めた。
練習を終えたのが夕方を過ぎて夜の闇が落ちた頃だった。
半日以上練習したお陰でミクの音痴は随分とマシになり、
また上手く歌うコツも掴み出していた様だった。
ミクは飲み込みも早い様で、俺は教えるのにそれほどの苦労もなく、
ミクの目覚ましい成長に満足していた。
 


「マスター、ご飯出来ましたよ!」
 


練習を終えて一段落。
休憩をしようかという事で俺は寝室にあるパソコンでネットを見ていた。
しかし夕飯の時間が近かったのでそろそろ準備を始めようと思い、
ネットを閉じた瞬間、ミクのそんな声がかけられた。
俺は驚いて後ろを振り返る。
と、同時に脳内を過ぎるあの味付け。
前回は俺の指導があったから良かったが、今回は違う。
ミクを信じてない訳ではないが……俺はコッソリ心の中で腹を壊す覚悟をして部屋を出た。
1LDKのボロアパートの寝室を出て、直結したリビングに足を踏み入れる。
するとミクがニコニコと笑顔で俺を迎え入れた。
俺は食卓について、とりあえず並べられた見た目が綺麗で匂いの良い夕飯を見つめる。
 


「どうぞマスター」
 


ミクのその言葉を聞いた俺の額に、じんわりと冷や汗が浮かんだ。
だがすぐに覚悟を決めて、飯に手を付けおかずをほうばった。
 


「!!!!」
 
「どうですかマスター?」
 
「……美味い」
 
「本当ですか?!」
 
「あぁ!」
 


お世辞でもなく普通に美味い。
俺はガツガツと目の前の飯を平らげる。
そうして全て平らげると、俺は満足して食事を終えた。
 


「ミク、料理上手くなったな」
 
「マスターの好みが分かったからですよ!
べ……別に練習した訳じゃありませんからっ」
 


わかりやすい奴だな……こいつツンデレだな。
きっと俺が寝た深夜とかに練習したんだろうな。
俺はそんなミクを想像して微笑ましくなりながら
「そうか」と返事してミクの頭を撫でた。
もうすっかり癖になったコレは、俺の中でミクを褒める時の恒例になった様だ。
 


「明日は詞を作ろうな」
 
「はい!」
 
 
 
―そしてその夜
俺は久々に静かな夜を過ごしたのだった。

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Song of happiness - 第4話【3日目】

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投稿日:2010/09/28 16:24:40

文字数:1,711文字

カテゴリ:小説

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