第六十七話 光の中のあなた
『こっちよ、ついておいでなさい』
そう懐かしい声に言われるがまま、私は歩いていた。
どこに向かっているのかは知らない。
けれど確実に闇は仄かに明るくなってきている。
ここから出られるのだろうか。
こんなに孤独でさびしい場所、出られるならどんなところだっていい。
もう私には何もないから、もうどうなったっていいわ。
ただ、誰かの笑顔が、涙が、胸につっかえて消えてくれないけれど。
『着きましたよ、るかさん』
るかさん。
私は、そんな名前だったのね。
それすら忘れていたなんて、笑えるわ。
そう思いながら声のした方に目を向けると、眩しい光が私に目に刺さった。
鋭い、それでも暖かい光。
『行きなさい』
声に、そう告げられた。
「そうね、せっかくだし行こうかしら。でも、不思議ね」
そう、不思議だわ。
どうしてこんなに落ち着いているのかしら。
『何が不思議なんだい?』
「ええ。私にはもう何もないのよ。なのにまだ――――明日が来ると思ってるの―――」
―――どくん、と胸が大きくざわついた。
自分が言ったせりふをどこかで聞いたことがあるような気がしたから。
それも大事な人だ。
綺麗な、儚げな人だ。
『そうね。でも、それでいいと思うのだけれど』
声は、少しうれしそうだった。
私はそんな些細なことには目を向けず、光のほうへ踏み出した。
何かが溢れそうに痛いけれど。
何か伝えなければいけないことが――――あるのだけれど。
「るかさんっ!」
先ほどまでの声と同じ【声】が、後ろから、今度は私の耳にしっかり響いた。
まるで誰かがいるように。
ゆっくり振り返ると、誰かが泣きながら笑っていた。
綺麗で、儚げだった。
「―――生きて―――」
その人がそう呟いたとたん、小さかった光は膨張し、私を包み込みだした。
「あ……っ」
何かを伝えなきゃいけない。
あなたは誰なの……?
完全に光に包まれる刹那、私は脳裏に浮かんだ大切な一人の名前を叫んでいた。
「お依亜さんッ!!!」
彼女は、また、泣きながら優しく微笑んでくれた。
そして、目の前は白く染まる―――。
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胸がズキンと痛んだ
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けんはる
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ご意見・ご感想
ハル
ご意見・ご感想
お依亜さん・・・
丁度親に死んだ人の話を聞いたのですが、死んでしまいそうな人には、二つの道があって。
その人は前に進むんです。前に、前に。
だけれども、後ろから声を呼ばれる。自分の名前を。
だから、そっちの方向に行くと、また生きれるという話もありますが、
逆に前に行こうとしたら前に死んだお母さんが「来ないで 戻って」と
言って、その人は戻り、生きる選択をしたということもあることを聞きました。
その他の説もありますが・・
どっちにしろ、「生きて・・」は、変わらなかったんですね。
私が教えてもらったこの中の二つは関係ないと思いますがw
ルカさん・・・ お依亜さんはどこまでも優しいんだなあ・・
生きる・・・・のだろうか ・・・
2013/04/29 11:58:50
イズミ草
ああ、なんだか聞いたことがあります。
そのことは全然気にしてなかったですが、なんだか偶然ですねww
優しい、それ以上のものを感じますね……。
2013/04/29 18:02:22