異国の弧を描くサーベルのような月が静かな泉に浮かぶ。
たおやかな波は月明かりを拾い、ひだのように漂う
その中を緑色の髪をした少女が裸で浮かんでいた。
少女は瞳を開け、その泉の先にある大きな屋敷を見つめる。
屋敷は窓という窓から蝋燭の光が零れ、とても美しかった。
再び少女は瞳を閉じて、その身を波に任せていた。
【図書館の騎士】第1話
「……よい。思いっきりやってくれ」
高級そうな黒いペチコートとキャミソール。
下着姿のまま、リンはカイトに尻を突き出した。
「かしこまりましたリン様。では……、お覚悟を!」
カイトは意を決し、リンの尻に革靴のまま足を乗せて
思いっきり腰のコルセットの紐を引っ張っぱる。
「んがっ☆」
リンは悶絶しそうな表情で悲鳴を上げるのを無視してカイトは
もう一度、紐を引いた。
「―――んむぅ☆」
リンは口を手で抑えながら嗚咽のような声を殺すのを見て
後の木の椅子に腰掛けているレンはくすくすと笑うのであった。
「おばあ様に悲鳴を上げさせるなんて……、カイトはすごいな」
「レン様、勘弁してください。後が怖いので……」
「ぬかせ。レンや、ハンカチを取ってくれ」
目尻に浮いた涙をハンカチでふき取り、リンは化粧を直す。
化粧室は豪華な内装がされており、扉の外では
楽士たちの弦楽楽器の演奏や、客品たちの声が騒々しかった。
貴族達の舞踏会は満月の夜、ループ家主催。
王国の主席魔導師である主は、娘であるルカの婚約を
祝う為、今回の宴をもうけたのであった。
「どうか?その辺の小娘達より細く見えるだろ?
小鹿のように細いのが今の流行らしい」
リンはくるりと向きを変え、カイトとレンにコルセットで
先程より締まったような気がする腰を見せた。
カイトはキャミソールの胸当てがあるとはいえ
女性の下着姿を見て、顔が赤くなる。
「ばかもの!乳を見るでない!」
リンは胸元を手で隠した。
「は、いえ、あの……」
しどろもどろに慌てるカイトをよそに、レンは
笑顔で言った。
「おばあ様はいつも、綺麗だよ」
「おお!我が孫よ!
お前はどうして、いつのまに女を喜ばせる
作法を見につけたのか」
リンはレンの元によろよろと駆け寄り抱きしめる。
「ん?お前、熱が出てきてるな……」
リンはレンの額に手をあてるとカイトに目配せした。
カイトは上着の内ポケットから皮の袋と竹で出来た
手の平ほどの大きさの水筒を取り出し
レンの口に流し込ませる。
「夜風に当たりすぎたのかもしれぬな。
カイト、この子を寝室に。わしもすぐに行く」
「大丈夫だよ、おばあ様。挨拶をしなくちゃならない
方々がまだ沢山いるのでしょう?。まだ、頑張れるよ……」
「お前はもう、充分にミラー家の当主としての勤めを
果たした。先程の堂々とした挨拶はなかなかの
ものだったしな……。旅先で無理をすると体を悪くする。
それでなくてもお前は体が人より弱いのだから」
「左様です。レン様、寝室へ」
カイトはレンの肩に手を回し、ドアの方へいざなう。
レンは立ち止まり、リンに背を向けて言った。
「お母様……。お母様も、おばあ様の様に綺麗だったの?」
「……、お前の母は、お前によく似ていてね……。
とても美人で、よく男共の誘いが鬱陶しくて
いつも困った顔をしていたよ。
お前のその綺麗な金の髪も、陶器のような白い肌も、
ターコイズ石のような瞳も―――。母親譲りなのだよ」
「まるで、おばあ様の様だね」
レンは笑顔で振り向き、リンを安心させた。
「ふむ。そういう事に―――なるかな」
リンとレンは声を合わせて笑い
その様子を見たカイトはほっとしたようで
レンをつれて化粧室から出て行くのを見届けると
瞳を閉じ、リンは小さな手を強く握った。
流行り病であっけなく亡くなった夫。
魔物に倒された自分の娘。
そして、人の手にかかり魔女狩りと称して
残虐に殺された孫娘。
その孫娘の一粒種が、レンであった。
幼い赤子を胸に、自分の一族の呪われた運命を
いくら悲観しようとも失った子供達は帰ってはこない。
『血には。血を』
リンはその度に、魔物や魔女狩りの一味に血の報復を
行ってきた。
人を傷つけ、時に殺め、魔物に引導を渡す。
これらの繰り返される連鎖に終わりは来るのだろうか?
リンは常々、そんな事を考えていた。
世界最強とまで言わしめた彼女の魔法力も
ここ数年、衰えを見せている。
このまま、強大な力を持つ魔物と戦い続ければ
いつかは敗れてしまうだろう。
そうなる前に、レンを連れて片田舎で
ひっそりと暮らす事も良いのかもと考える。
小さな畑で薬草を作り、アヒルや鶏も放し飼いに
して、新鮮な卵をレンに毎日食べさせようか。
財産も名誉も、与えられた領土も全て投げ捨てて
余生を静かに過ごす。悪くは無い。
瞳をゆっくり開けて自分の前の鏡を見る。
鏡に映る自分を見て、リンは呼吸を止めた。
今まで倒してきた魔物、人の亡霊が
物も言わず恨めしそうに自分を取り囲んでいる。
リンは厳しい目つきで亡霊を睨み返し
鏡に映る邪を払う。
「……そうだな。今更、勝ち逃げは……、卑怯だな」
鏡にはもう亡霊は居なかった。
ドアをノックしてカイトが戻ってきた。
レンを寝室まで送った事を伝え、リンは頷いた。
そして、ドレスを被り、カイトに背を向ける。
「カイトや、背中のボタンを閉めておくれ」
カイトはドレスにあしらわれている華奢なレースを
傷つけないよう慎重にボタンを下から閉めた。
紫色のサテンの生地に黒いレースのドレスは金色の髪が
よく映えた。彼女がニコリと笑顔を振り向けば
気難しい紳士も目尻を下げてしまうだろう。
「―――なかなかの美人だろう?」
カイトの視線に気づき、照れも無くリンは言った。
「……はい。正直、見とれてしまいます」
「ふふっ。これも魔女の資質でね。
見惚れさせる事により、相手に魔法をかけるが
容易になるのだな」
「な、なるほど」
頷くカイトの顔をじっと眺め、呆れたように
溜め息をつき、リンは手招きをした。
「ちと、しゃがめカイト」
「はい?」
身を屈めると突然リンの顔が近づいてカイトは
ドキリとした。
「はぁ~……、それでも騎士か己は!
顔が汚れておる!身だしなみも騎士の務めじゃ」
そう言うとリンは胸元からハンカチを出し
ぺろりと舌で舐めてカイトの顔についていた
汚れをふき取った。
「まだまだ子供じゃの」
「ははは……、お恥ずかしい限りです」
カイトの蝶ネクタイを直し、頬を優しく叩く。
「お前、見栄えは悪くないのだ。もっと
採れたてのセロリのようにしゃきっとせんかい。
”図書館の騎士”様よ?」
カイトは苦笑いする。
「その名で呼ばれるのは、少しばかり恥ずかしいです」
「何お言うか!剣を使わぬ、知恵と知識で戦う
現代の騎士。わしは力馬鹿の剣士共なんかより
このご時勢、とても頼もしく思うがの?」
「世間では剣も使えぬのに騎士の名ばかりだと
笑われているという話です」
「ふむ、世間などどうでも良いわい。
自分の仕事に、誇りを持て」
「そう言って下さるのは、リン様とレン様だけです」
リンは小さく頷くと、レースの手袋をはめた。
「ルカのところまでエスコートしろ」
「かしこまりました」
カイトはひじを曲げてリンに差し出し
リンの細い手が差し込まれた。
「どこぞの伯爵だか、子爵だかのガキ共が
わしをダンスに誘おうと狙っておる……。
いちいち相手にするのも面倒だ。
カイト、ルカと話が終わったら、速やかにわしをダンスに誘え」
「うえっ!私はダンスが苦手でして……」
「ばかもの!ダンスも騎士の嗜みだ!
……仕方ない、今回はわしがリードしてやる。
下手くそなコマのように回されても構わぬが
私の足だけは踏むな」
「ご、ご指導、よろしくお願いしたします」
「よろしい。さて、ホールに出ようか。
胸を張れよカイト、魔法使いの名門ミラー家の美しき
”娘”をエスコート出来る事を」
「100歳超えているのに、”娘”ですか?」
思わず噴出すカイトの足をリンは尖ったヒールの踵で
思い切りふんづけるのであった。
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