人間は呼吸をしている。

生きるうえで必須なもの。なければいけないもの。それを確認したければ水に入ればわかる。しばらくたつと肺から白い泡が逃げて、苦しくて、苦しくて、その体は空気を求める。あたりまえ。それが人間ならばわたしは何になりえるのか。溺死することはできても苦しくなることはない。唇から漏れ出すのは明確な音だけ。マスターと口が動いた。この言葉は、誰から知ったのだろう。わたしは誰だった?

ゆるり

目を開ければ、壁だらけの狭い世界があった。目だけを動かしてみると、かなり汚い事が伺えた。所々に落ち葉やゴミが散漫している。この狭い世界の中で揺らめくものをわたしは知っていた。所々それはきらりきらりと光る。おかげでここがどんな場所か把握できた。なぜわたしはここにいるかまでは、わからないけれど。浮遊したままわたしは泣いた。雫はこの水と一緒になってどれが涙か分からなくなった。それはとろけてどこかへ消えうせた。それはもう、どこにもない。
浮いていた足を地面にしっかりと着けてわたしは立ち上がった。飛沫が空を飛び、わたしに降りかかった。皮膚は雫を弾き、中途半端な液体だけがわたしの体に残った。においがする、知っているようなにおい。マスターと呼んだ人物からいつもこの匂いがしていたのをわたしの脳は確かに記憶していた。そして都合のいい想像だけ、を。
わたしの主人は遠いところへ行ったの。
わたしの歌を置いてどこかへ行ったの。
わたしが絶対にいけない場所へ。
だからわたし、人間になろうとしたのに。


充満する塩素、消失した呼吸。

最初からなかった、そんなもの。そう、はじめからわたし、知ってたの。あなたがいないこともわたしが人間になれないことも。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

充満する塩素、消失した呼吸

暗いです、なんか。支離滅裂。

閲覧数:290

投稿日:2009/01/05 16:08:13

文字数:726文字

カテゴリ:小説

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  • 酢いか

    酢いか

    ご意見・ご感想

    ううっなんて切なくて素敵なんだ…(T0T)
    うわあああアァ・・ミク~~っ(黙r
    これはもう、ブクマさせていただくしかない!!

    2009/02/07 22:39:34

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