短くなり、ただの灰となった煙草の吸殻を携帯灰皿に入れ、俺は再び林を中を歩いた。
 見上げれば目標地点である通信連は目の前。俺とシックス達がたった二人の人質をつれて脱出するリカバリーポイントだ。
 あのヘリポートにたどり着けば、すぐさまシックスの操作するブラックホークが駆けつけ、俺を迎えに来てくれる。そうすればとりあえず今回の任務は終了だ。
 とはいえ、残された課題は多く一度帰投しても再び出撃することは明らかだ。奴らの手元には、日本の未来を左右する重要なプログラムがあるのだから。
 しかし今の俺にとっては、そんなことはどうでもいい。
 この不可思議な一日に一刻も早く終止符を打ちたい。
 ヘリの中でもいいからゆっくりと体を休めたい。
 とにかく精神的に疲れたのだ。
 次の課題が与えられれば、そのときに意識すればいい。
 そう思いながら歩みを進めていたが、突然、それを止まらざるを得なくなった。
 ふと、頭の中に雑音ミクの言っていた言葉が浮かんだ。
 施設の周囲にはクレイモア地雷が設置されている、と。
 レーダーを見ると、案の定、黄色い網のようなものが施設周囲を覆いつくしている。
 これはレーダーにクレイモアのセンサーが観賞したときに起こる現象だ。
 このレーダーは電波に対しても多少反応を示すらしいが、確かなものはなく表示も曖昧。網と言うより煙だ。
 こういう問題を解消するには、あの優秀で美声なメカニカルアドバイザーに頼るしかない。
 俺は彼女に相談するべく無線を入れた。
 「ヤミ。」
 『どうしたの。』
 「さっきの話、聞いていたか。」
 『ミクの?』
 「そうだ。施設手前まで来たが、レーダーにクレイモアのセンサーが表示されている。このままでは近寄れそうにない。そっちで位置を特定できるか?」
 『地面に接している極小の物体だと検出が難しいよ。衛星じゃまず無理だし・・・・・・あ、待ってて。』
 「どうした?」
 と言いながら、俺は機体に胸を膨らませた。
 最初は変なヤツだと思っていたが、思いのほか頼れる。
 『その地雷が照射するセンサーを正確に表示できるレーダー用のカスタムプログラムが、偶然軍で開発中なの。まだ試作段階だけど使ってみる。』
 「頼れるものなら何でも頼ってみるさ。」
 『分かった・・・・・・PLGでそちらにプログラムを送信させる。』
 『PLGです。プログラムを送信しています・・・・・・完了しました。』
 レーダーに表示されていた黄色い煙は、いつの何か正確な扇形にまとまっていた。これがセンサーの照射範囲か。
 「なかなか役立ってくれそうだ。ありがとう。」
 『そう。良かった。じゃあ、早く・・・・・・。』
 「早く?」
 冷静な彼女が珍しく言葉を詰まらせたので、俺はすかさず追求する。
 『ワラと・・・・・・話をさせて・・・・・・。』
 「了解。」 
 無線を終えると、俺は先程と同じく悠々と林の中を歩いていった。
 黄色い煙は扇の中に収束されている。ならその扇に触れなければいい話だ。
 センサーの感覚は広く、伏せて行けと言われたが、俺は悠々と地雷原の中を突き進んだ。
 着きついた先で、遂に通信連を取り囲む金網を目の当たりにした。
 当然ながら有刺鉄線の電撃和え。
 俺は木に登り、金網を越えた場所で飛び降りることで見事にこれをやり過ごした。
 見渡したところ、施設を巡回している兵士は一人。
 裏側に回ると、内部に侵入できそうな扉を見つけた。
 雑草の茂る中を進みながら、兵士の視線に全く触れることなく、俺は扉のノブに手を掛けた。
 通信連に進入し、先ずは周囲とレーダーの確認をする。
 この施設はただ外部との通信のために設けられたものだから、他の三連と違い極めて小規模だ。  
 なら、迷いようもない。
 俺は兵士の目を欺き階段を上りつつ、シックスへの無線を入れた。
 「シックス。通信連に到着した。そろそろ迎えのヘリを頼む。」
 『分かっている。今ヘリのチェックを終えた。ヘリポートに到着と同時に脱出できるようタイミングを合わせる。』
 「脱出後のウェイポイントは?」
 『とりあえず敵のレーダー圏内を抜けよう。それ以上の命令はない。あとはお前次第だ。』
 「何?」
 シックスは、意味深な言葉を口走った。
 俺に全てを打ち明ける覚悟の表れとでも言うのだろうか。
 『俺達の任務はあくまでお前の援護だ。』
 「どういう意味だ。」
 『ヘリで詳しく話すが、俺達の所属は正確には陸軍だ。経歴や個人情報を隠蔽し政府機関に紛れ込み更に情報を改竄し、特殊部隊隊員として今回の任務に介入したのだ。』
 「・・・・・・。」
 俺は言い返す言葉さえ失った。
 そんなことを唐突に言われても、理解するには時間が掛かる。
 情報、改竄。そんなワードが頭の中で何度も駆け巡った。
 『俺達の任務は、お前の援護。お前の資料は前々から目を通してある。』
 「どうしてそんなことを?」 
 俺はやっと言葉を見つけたが、そんな言葉しか吐き出せない自分に嫌気が差す。
 『上層部の命令だ。それ以上は俺にもわからない。とにかく、それが俺と部下二名に下された指令だ。』
 その瞬間、あの新しい疑問が脳裏をよぎった。
 「シックス、お前も陸軍だと・・・・・・。」
 『ああ。』
 「どこの部隊だ。唯一アンドロイドを使用している部隊は俺のいる部隊だけのはずだ。」 
 『俺達は言わば影の存在だ。素性を偽り続け事件の裏で暗躍する。誰にもその正体を知られてはいけないはずだった。』
 「では、何故俺にそのことを?!」
 『・・・・・・俺にもわからん。ただ、お前に俺と同じものを感じたからかも知れない・・・・・・。』
 「・・・・・・。」
 俺にはこれ以上、シックスとまともな会話ができる自信がない。
 後はヘリで話すべきことか。
 『・・・・・・変なことを言ってすまない。さあ、ヘリポートへ急いでくれ。すぐに迎えに行こう。こちらには網走博士ともう一人、セリカという少女もいる。』
 「分かった。すぐ行く。」
 無線を終えた頃には階段を昇りきり、目の前にヘリポートへの自動扉がそびえていた。
 扉には、キーカードを認証するためのセンサーがある。
 所長から受け取ったキーカードをセンサーにかざすと、自動扉は鈍い作動音を響かせて両側に開いた。 
 その先へ一歩踏み出した瞬間、俺の視界一面に曇り一つない蒼天が広がった。
 ヘリどころか戦闘機が三機ほど置けそうなこのヘリポートからは、技術研究連、総合実験連、そして、大爆発を起こし鎮火した無残な姿の倉庫連が一望できた。
 総合実験連の滋養空に、一機の黒いヘリが浮遊しているのが見える。
 アレだな・・・・・・。
 『デル。お前の姿が見えた。今向かう。』
 「ああ。」
 無線と同時に陽光に反射する黒々としたブラックホークがヘリポートに近づいた。
 『デルさん・・・・・・デルさん!』
 突如、ヤミの緊迫した声が無線に無線に舞い込んだ。
 「どうした?」
 『ヘリポートに向かって高速熱源が急速に接近してる!ミサイルだよ!!避けて!!』
 クソッ・・・・・・。
 ヤミが言い切る頃には、俺の背後から噴射煙を撒き散らして接近する飛行物体、ミサイルの存在に気付いていた。
 「・・・・・・。」
 背後を振り向いた瞬間、一瞬思考が停止した。
 「うおぁああああッ!!!」
 背後で凄まじい爆音が鳴り響き、何の影響か瞬間的に世界から全ての音が消え去った。
 だが、考える余裕もないまま俺の体は反射的に行動を起こしていた。 
 ミサイルの着弾地点からなるべく離れた場所に、俺はうつぶせになっていた。
 呆然と振り向くと今来た道、自動扉が崩れ去り逃げ出すことは不可能な状態だ。
 耳が音を取り戻したこと、そして自分が生きていることを確認すると、俺は立ち上がり銃を抜いた。
 今のミサイル、間違いなく上空からの攻撃だ。
 だとすれば、敵は航空機か、あるいは・・・・・・。
 突然、俺の耳に聞き覚えのある音が近づいた。
 チェーンソーの音と、ジェットエンジンを掛け合わせたような、この音。
 この音は・・・・・・。
 そして、ヘリポートの下から、それの正体は現れた。 
 猛禽類のような飛行用ウイング。
 重厚な鎧のアーマースーツ。
 空中戦闘用アンドロイド・・・・・・。
 紅の光を放つ蜘蛛のような複眼方のセンサーは完全に俺を補足し、その両手には身の丈もあるほどの巨大な大剣が握られている。
 俺は一瞬、紅と白の美しい翼と、バイザーの後でたおやかに靡く真紅の髪に見とれていたが、無論そんな場合ではない。 
 この天子の如く美しいアンドロイドは、今まさに、間違いなく俺の命を奪わんとする、敵。 
 ならば、俺は自分の命を護るべく、そして任務を完了させるべく、反撃するのみだ。
 「来いよ・・・・・・付き合ってやる!」
 








































 


 

 「ねぇどーすんの?!離れないとヤバいんじゃない?!」
 「・・・・・・。」
 「ねぇったら!!」
 「・・・・・・やめさせる!」
 「へ?!」
 「俺が行く!!ヘリを近づけろ!!!」 
 「そんな、無茶だよ!あの様子だと絶対・・・。」
 「うるさいッッッ!!!」
  
 
 どうして・・・・・・。
 何故・・・・・・君は・・・・・・。
 やっと・・・・・・やっと会えたのに・・・・・・。
 キク・・・・・・! 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第三十二話「強襲」

キタァ――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!

閲覧数:148

投稿日:2009/07/15 17:54:25

文字数:3,935文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました