今から9年前、メイは父親のロアを亡くした。当時16歳だった彼女はロアの死後、父の遺言にしぶしぶ従ってフォレスタ・キングダムの騎士団へと入団する。このとき、メイが父から引き継いだのは、自身の背丈ほどある無骨な大剣と真紅に輝くト音記号の首飾りこと、クリムゾン・ジークレフである。

 英雄であった父を象徴する大剣を背負い、騎士団へ入団した当初は、周りの騎士たちから英雄の娘である彼女に大きな期待を寄せられていたが、まだ戦闘経験のない少女がすぐに大剣を扱える筈は無かった。

 メイが16歳の頃、まだ振ることも儘ならなかった大剣の名は、ブレイズ・オブ・クレイトスと云う。彼女は騎士団のなかで嗤われていた。いくら英雄の血を引いていても、女ではその剣を扱う事などできないと笑われていた。

 ──無力な女だ──16歳だった頃の彼女は、初めて人生の挫折を味わってしまう。それでもメイは、父が残したブレイズ・オブ・クレイトスを装備することは止めなかった。当然、先輩騎士たちから「片手で持てる剣を使え」と言われていたが、彼女は頑なにそれを拒んだ。

 ある日、16歳のメイは剣技の訓練中に先輩となる騎士と喧嘩をしてしまった。些細な口論から発展した、拳でお互いを殴り合う喧嘩だ。喧嘩をしたあと、当時の騎士団を率いる団長の部屋へ、メイは呼ばれてしまう。

「どうしてお前は、先輩と殴りあったんだ?。しかも殴った相手は、うちでも屈強な男騎士だぞ」

「それは、あの先輩が女である私に“ショートソードを使え”と馬鹿にしてきたからです」

「馬鹿にしたと言うより、それは先輩からのアドバイスだと思うぞ。では、団長である俺が命令で“ショートソードを使え”と言ったら、なんて答える?」

「私には将来、父が遺言で言った未来を護る日が来るのです。その時までに、この剣を振れるようにならなければなりません。これは団長命令であっても、私は大剣を使います」

「なるほどな。いちど決めたら変えない、頑固なところも英雄譲りだな。ロアは頑固なヒトだったけど、部下からの信頼は厚かったんだ。メイ、お前もロアのようになってくれよ」

 団長は、メイの固める決意に賛同し励ますのだった。しかし、当の本人は…………。

「父のことを国の皆が良く思われるのが、私には理解できません。あの者は旅から帰ってきたあと、自棄になり酒浸りの男となりました。娘である私が、お酒を止めてと父に言っても、独り嘆くだけで聞き入れなかったのです」

「メイ……お前、自分の父上が嫌いか?」

「嫌いです。死んでしまったのも、家族を顧みなかったので自業自得だと思っています……」

「じゃあなぜ、お前はその剣を振ろうとしているんだ?」

「それはまだ……今の私には、答えが見つかっていません」

「その答えは、将来のお前が護るっていう未来にあるんじゃないか?。このホーランド・デ・パルマには、そう思えてくるぞ」

「…………」
メイは団長からの言葉に俯くだけだった。

「わかったら早く行け。フォレスタ・キングダムに所属する騎士は、訓練中も秩序を護るんだ」

「わかりました……」

 嫌ってしまった父の遺言を深く理解していなかったが、メイは大剣を扱おうとする意思を変えなかった。騎士団に入ってから2年後の18歳になった時、彼女は若くして団長を任命される。フォレスタ・キングダムの騎士団は、前選任者から選抜された騎士が次の長となる伝統があるのだ。

 伝統で団長に選ばれたが勿論、18歳になったメイの実力は騎士団で最も強い剣士であると仲間たちから認められている。
 このとき既に、彼女は重い大剣を軽々と自在に操れるようになり、実戦を意識した模擬の立ち合いでも対戦相手の武器を破壊し、相手を無力化できる腕前になっていた。

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ハイパークールな姉さん

閲覧数:108

投稿日:2020/02/22 06:28:33

文字数:1,573文字

カテゴリ:小説

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