「カイトー♪」
マスターの可愛い声で呼ばれて、果てまた抱きつかれるのは全くいやじゃない。苦手でもない。むしろ嬉しい。
「ねねー、カイトはさ、」
僕の腕の中にいるマスターは、にこにこ笑顔で、
「ネギとか、みかんとか、食べないの?」
と、聞いてきた。
「ちゃんと調理されていれば、食べますよ?」
「焼く?」
「それは、ちょっと風味が強すぎて食べれません」
「じゃあ、寒天とかと混ぜ合わせて固めた、寄せ物は?」
「ちょっと風味が強すぎますね、無理です」
「んじゃあさ、ゆでゆでする?」
「ほとんど変わりありませんよ」
ちょっと可愛らしく思うも、首を横に振る僕。
「じゃあ、お味噌汁は? ネギとか入ってるじゃんか」
「ネギはいいですけど、」
僕はそこで一拍置いて、
「・・・みかんは合いますか?」
「うわぁーっ!!」
「合いませんよね?」
優しく言うと、
「そ、そうだね・・・。みかんにはとてもじゃないけど合わないね、危ないよ」
珍しく顔をひきつらせて頷くマスターの表情も逃さず僕のメモリーに記録する。一瞬で終わる。僕はつくづくVOCALIDで良かったなぁと、心の中で実感する。
「んー、じゃあ、煮物はどう?」
「煮物ですか・・・」
これはさすがに考えざるを得ない。僕は考えた。
「煮物だったら、問題ないよね? ネギはもちろん、みかんもさ」
「好みにもよりますけどね」
一応、煮物なみかんがきらいな人のためにも言っておいた。
「でもさ、すんごくおいしくないってことは、ないと思うよ??」
可愛い笑顔で首を傾げるマスター。・・・僕の腕の中にいるってこと、ちゃんと分かっているのだろうか? なんだか襲いたくなってくる。
「一応の一応、煮物は保留ってことで、あとで試してみよう!」
「え・・・」
なんだかきっぱり断言するマスターに、僕は目を丸くする。
「次は、蒸し物はどう??」
「これは、あんまり変わってないですよ」
僕は少しでも、試す調理方法候補を減らすため否定する。
「そう来ると思ったけど、・・・茶わん蒸しならどうだ!」
「!!!」
僕はなんだか衝撃を受けた。そうか、茶わん蒸しか・・・。
「じゃあ、蒸し物(茶わん蒸し)も、試そ試そー!!」
楽しそうにはしゃぐマスター。・・・何度も思うんだけど、僕の腕の中にいるってこと、ちゃーんと分かっててそうやってはしゃいだりしているのだろうか? 襲いたくなってくる。
「次は、炒め物! これも、いいと思うけどね?」
「だめですよ、火の少ない物なんて」
「・・・カイト」
「何ですか? マスター」
名前を呼ばれる。僕は首をひねる。
「何気漢字分かるんだね」
「分かりますよ、炒めものぐらい。なんてったって僕は、僕だけのマスターがいますからね」
そう言って、にっこり笑いかける僕。そんな僕の表情を、真っ向から見たマスターは目を少しだけ丸くして、心なしか頬も少し赤く染めて僕から目を離せないでいた。・・・どうやら、抱きしめ返して大正解だったようだ。僕は心の中でガッツポーズをする。もう少し、といわず、もうずっとずっと、このままでよかったし実際そうしても良かった。何しろ、時間は無限にあるからだ。でも、
「どうしました、マスター?」
あえて何事もなかったかのように、マスターの顔を覗き込む僕。
「なっ、なんでもない! なんでもないよ、カイト」
そうやって、そっぽを向くマスターのほっぺたは、赤に染まっていた。やっぱり、ますたーは僕のものだ。絶対、誰にも僕のマスターを渡さない。たとえ住む世界がちがくても、ますたーと僕の関係は決して壊れることはない。僕がマスターを幸せにしてみせる。
うたかたの夢に過ぎない幻想だとしても。僕が真実にしてみせる。だからこそ、
「・・・どうしたの? 真剣な顔しちゃってさー?」
心配しているような、それほど心配して無さそうなマスターの顔が僕を覗き込んでいた。
「だからこそ、一緒にいるんですよ・・・」
そっと抱きしめる僕。そして言う。
「マスター、・・・いつでも、僕のことばかり想って下さいね? 僕も、マスターのことばかり想ってますから・・・」
ぎゅっと抱きしめる。これ以上、何も言えなかった。マスターが何て答えるかは、マスターの自由だ。
「・・・カイトの本気の告白みたいな感じがするなー」
重々しくないマスターの声。今の僕には、心地いいとさえ感じられた。
「でも・・・そっか」
何がそっかなのか問えないまま、僕はマスターの体温を感じていた。
「そんなに本気の言葉をカイトが言ってるんだもんね。私も・・・想うよ、ちゃんとさ」
僕は、マスターを見る。マスターは、とっても嬉しそうだった。と同時に・・・僕と同じように成長してるんだなぁと思った。だからつい、
「マスターも、成長したんですね」
って、言ってしまった。でも、
「変わってないよ・・・何にもね」
何も怒らずに、ただぽつんとそれだけ呟くだけだった。妙な切なさを漂わせて。
「変わり・・・ましたよ、マスター」
僕は息が詰まりそうになりながら、反論する。
「誰かが変わったと思うことは、その人が変わったって言うことなんだよ。・・・さてと、」
マスターは、いつもの表情に戻って、
「次は、ネギとみかんの揚げ物は、どう?」
にっこり笑って、僕に聞いたのだった。
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