「ミク姉、そっち!」
 鏡音リンがブラス・バズーカで狂音獣マッド・リズムを追撃する。マッド・リズムは、腰から頭の上まで長い棒のようなものがあり、さながら、メトロノームのようなのような上半身であった。
「行くわよ……ソニック・アーム、キーボード・グローブ!」
 初音ミクの拳がマッド・リズムの腹部をとらえようとしていた。
「BPM60」
 マッド・リズムがそう言うと突然、ミクの動きがスローになってしまった。

「あれ……うそ!?」
 ミクの拳は、そのまま空を切った。
「くっ、ソング・ウェイブ」
 咲音メイコの歌声が、剣となってマッド・メトロンに襲いかかる。しかし、またしても途中から動きがスローになり、軽々とかわされた。追い打ちをかけようとした途端、メイコはひざから崩れ落ちた。

「メイコ!」
 離れた位置でザツオンと戦っていたカイトは、メイコの異常に思わず声を出した。メイコはもう一度立ち上がろうとしたが、今度は自分の意思に反して、変身が解除されてしまった。
「どうして、体力が続かないの……」
「メイコさん、とにかく下がって! 生身の体じゃ危ないわ!」
 ミクの指示を受ける形で、メイコは後方へ下がっていった。


「どうなってるんだ!?」
 腰から頭にかけての振り子がゆっくりと動く。それに合わせるように、全員の動きがスローになってしまった。
「……だったら、あの棒を……」
「BPM300」
 雅音カイトが弓を引こうとした時、何かが目の前を高速で移動した。ザツオンの数体が、超高速で移動を始めたのだ。
「ルカさん、危ない!」
 カイトが声をかけた時には、もう巡音ルカはザツオンの体当たりで吹き飛ばされた後だった。

「くそっ! どうして当たらない」
 鏡音レンはブレイブ・ロッドで攻撃しているが、ザツオンにかすりもしない。カナデンジャーの中で1,2を争うスピードを誇るレンがザツオンの動きに反応できていなかった。
 カイトがマッド・リズムの姿を見ると、今度は先ほどとは逆に振り子が忙しそうに左右に激しく動いていた。

「……あ、逃がすか!!」
「BPM30」
 逃げようとしたマッド・メトロンに向かって矢を放つが、今度は矢が異常に遅くなり、狂音獣は簡単にそれをかわした。そして、ザツオンによって、煙幕が張られ、前が全く見えなくなった。煙がなくなった後には、マッド・メトロンはおろか、ザツオンの群れもいなくなってしまった。
「…………くそっ!」
 カイトは目の前に広がる廃墟を目にし、自らのふがいなさを恥じた。

「逃げられたか……あっ」
 カイトはそのまま膝をついてしまった。そして、自分の意図しない形で変身が解除された。前を見ると、メイコも同じように疲労困憊で動きが取れない状況であった。4人がいる場所に移動するために、ミクに肩を借りなければならない状況であった。

「メイコさん、大丈夫ですか?」
 ザツオンの体当たりを受け、腕をケガをしたルカは、自分の事を気にするそぶりを見せず、メイコに声をかけた。
「カイトさん、どうしちゃったの? この前もこんな風になっちゃったけど……」
 レンは少し呆れたように声をかけた。ミクは何も言わなかったが、2人を見下していた。
『エビル・マニュピレーター』との戦いが始まった当初から、メイコとカイトは長時間の変身ができない状況になっていた。戦いが終わると、2人とも完全に体力を使い果たしたように、その場に座り込み、動けなくなっていた。

「……ごめんなさい」
「もしかして、年のせい?」
 リンはいつものようにメイコを茶化すが、今度ばかりはそうは言ってられない状況であった。
「どうして、体力が続かないの」
 メイコは怒りにまかせて地面を叩いた。


 カナデンジャーの秘密基地、『オクトパス』に戻ったメイコはすぐにトレーニングルームに向かった。
「どうして、あのスーツを着た時に体力が持たないの」
 ひとしきり体を動かし、イスに座って休憩をする。
「……体力的に不安があるわけじゃない。体力が落ちてるとは思わない。でも、どうして!」
 3年前と比べて体力が落ちているわけではない。大規模なライブが終わった後でも、立てなくなるような事は一度もなかった。
「……まだ、足りない」
 メイコは近くにあった木刀を手にし、勢いに任せて振り回した。
「まだ、まだ、まだ!!」
 叫び声をあげながら、メイコは木刀を怒りにまかせて振り続けた。


「何してるの? 悔しいから特訓してるの?」
 リンは射撃場で弓の訓練を行うカイトと会った。
「弓の訓練場がないから、ここに来ただけだよ」
 弓を引くとゆっくりと手を放す。射撃用の的ではあるが、狙い違わず的の中心に矢が刺さった。リンはゆっくりと銃を構えると、一撃を放った。
「……ふう。で、あいつを倒す手立てを考えたの?」
「まあ、今それを考えてる」
「……随分のんきね」
 リンはもう一度銃を構える。それに合わせるように、カイトも弓を引いた。


 一方、弱音ハクはルカのケガの治療を行っていた。
「ありがとうございます、ハクさん」
「いえ……私もよくケガをしましたから……こういうのは得意なんですよ」
 幸い、傷はそれほど深くなく、試しに腕を動かしたが問題はなかった。
「さ、これで私は……」
「待って下さい。ハクさん」
 ルカに呼び止められ、ハクは歩みを止めた。

「ハクさん、メイコさんとカイトさんの変身中の体力が持たない事、どう思われます。いち、科学者、メロチェンジャーの共同開発者の一人としての意見をお聞かせ下さい」
 ルカの言葉に、ハクの心は揺さぶられた。
「お願いです。一人の科学者として、そして、カナデホワイトとしてのご意見をお願いします」
「ルカさん……」
 ハクはそう呟いて、次につなげる言葉を出せないでいた。

「私達4人のメロチェンジャーは、実は貴方のよくご存じの方から頂いたものです。その方は……」
「やめて」
 ハクは強い調子でルカに言い放った。
「ハクさん、私は悪気があって言ってるわけではありません。私も貴方と同じように科学者の一人として、『エビル・マニュピレーター』と戦いながら、いかにして彼らを倒す事が出来るかを研究しています。ですから、私にも、力を貸して下さい」
「科学者? 貴方が?」
 ハクは意外だと言わんばかりに、ルカを見た。

「はい。私がこの秘密基地や、ハープマリーナをはじめとする戦闘マシーン、カナデモービルを開発しました。でも、メロチェンジャーだけは、自力で作る事が出来なかった……」
「…………」
「グラビアアイドルは仮の姿、本当は……」
「そうね。ちょっと前まではバーの店長だったけど」
「……一度、調べさせてもらえませんか、メイコさんのメロチェンジャーと、私のメロチェンジャー、何が違うのか」
「いいわ。でも、私は手伝わない」
「わかりました」
 ルカは部屋から去っていくハクの後ろ姿をじっと見ていた。


 翌日、メイコとカイトはルカの指示のもと、メロチェンジャーを渡した。目的は、メロチェンジャーが壊れていないかチェックする事だった。
「意外だなぁ。ルカさんは、メカの開発までしてただなんて」
 カイトは研究室の中に入っていったルカの姿をまじまじと見つめていた。
「頭もよくて、美人でスタイルもよくて……なかなかそんな人いないわよ」
 メイコは久々にトレーニングルームを出て、共用スペースに来てカイトと雑談をしていた。
「で、何か名案が浮かんだ? あの、ふざけた狂音獣を倒すための方策」
「……それなんだが、実は昨日、リンちゃんと相談をして、作戦を立ててみた」
「さすがね。『自称』カナデンジャーの参謀」
「『自称』は余計だ。メイコ」
 3年前は、参謀役を買って出たのはハクだった。その補助という形でカイトは作戦を立案していた。彼は、頭は悪くないのだが、どうにも作戦が見当違いで、空回りすることが多かった。

「まあ、あんまりいい作戦じゃないけど……」
 カイトはその作戦をメイコに伝えると、
「正気なの?」
 という答えが返ってきた。
「ああ、正気だよ」
 カイトはメイコの問いかけを意に介さず、弓を引く恰好を見せた。
「ミクさんとリンちゃん、レン君は同意してくれた。後は、メイコ、君だけだ」
「…………」
 この男は本当にバカかもしれないし、天才かも知れない。メイコはそう思って、大きくため息をついた。


「どうかしら、私の推測が正しければ……」
 ルカは研究室で自分の持つメロチェンジャーとメイコの持つメロチェンジャーの違いを詳しく調べていた。3年前に作られたメロチェンジャーは損傷や劣化はあまり見られなかった。
 ルカは始め、どこかが壊れているのではないかと疑っていたが、その推測は外れていた。次に疑ったのは、メロチェンジャーからエネルギーが正しく供給されていないという事であったが、それも外れていた。
「やはり、私達の持つメロチェンジャーと根本的な違いがあるとすれば……」
 ルカはパソコンのキーボードをたたき、もう一度内部構造をチェックする。

「……これは……やっぱり、ここが違ったから……」
 それは、メロチェンジャーの核となるヴォイスエナジーシステムであった。メイコとカイトが使っていた物は、明らかに旧式のものであった。
「……出力は……私達の使っているものの3分の1ですって!」
 普通であれば、4人の動きに付いて行くだけでも至難の技であった。
「あの2人、本当は弱いんじゃないの?」
 ミクはそう言って、2人の事をけなしていた。リンとレン、それにルカ自身も口に出さなくても心の中ではそう思っていた。だが、結果は全く逆で、本当は自分達の方が力がなかったという事を思い知らされたのだ。そして、3倍のハンデをものともせず戦っていた2人の姿に、思わず胸が熱くなった。
 その時だった。
「ルカ姉! また、狂音獣が!!」
 ノックもせずに研究室に飛び込んできたのは、レンだった。

「マッド・リズムが現れたのですね」
「うん。とにかく急いで行かないと」
「……ミクとリンと貴方で向かってください」
「ルカ姉は?」
「私は、メイコさんとカイトさんのメロチェンジャーを改造します」
「ちょっと、そんな」
「私は、必ず2人と一緒に加勢しに行きます。ですから、それまで3人で持ちこたえて下さい」
「……わかったよ。ルカ姉」
 レンは研究室から出ようとした。
「その前にレン」
「何?」
「部屋に入るときは、ノック位するものですよ。特に、女性の部屋に入るときは」
「はーい」
 レンはすぐさま部屋を出ていった。ルカは目の前にある分解されたメロチェンジャーを見ていた。
「ミク、リン、レン……私達が来るまで、どうか持ちこたえて」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー Song-07 Power up MEIKO Aパート

カナデンジャー第7話です。
内容はコラボにアップした作品と同じです。

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閲覧数:143

投稿日:2013/05/28 23:30:45

文字数:4,439文字

カテゴリ:小説

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