-LETTER-
 ある日届いたのは緑色の封筒に入った、一枚の地図と走り書きの便箋だった。宛名もなければ差出人すらも書いておらず、切手も貼っていなかったのだから、自分でわざわざ郵便受けに入れて行ったのだろう。
「何だよ、これ。メイコさん?変な手紙来てますけど」
「えー?ちょっとルカ、何か見てきて」
「分かりました、主。レン、見せて。…誰から?」
「書いてないんだったらわかんないだろ」
「まぁね。それはそうだけど、悪魔だったらもっとなにか出来るのかと思って」
「無茶言うなよ。出来たとしてもまだ傷も治りかけで、そんな能力に力使うほど余裕もないからな」
 そういってリンを起こしに行くレンのパジャマの裾をわざとつま先で踏みつけて、ルカが封筒を開いた。中から出てきた地図はスーパーへの地図のように適当な書き方ではあったが、どうにか内容を読み取ることは出来る程度に整ってはいた。
『来てよ』
 ただそれだけ、たった三文字をこの差出人は走り書きで書いているのかは不明だったが、その辺は流しておくとしてルカは何となく嫌な予感というか、悪寒に似たような何かを感じた。
「何だよ、何が書いてあったんだ?見せろ」
 そういってぼうっとしているルカの手から便箋を奪い取ると、レンは目を丸くして便箋を見た。無論、何かへんなものが見えたわけではなく、たった三文字だけだったことに驚いているのだ。
 しかしよく見てみれば、右下のほうにうっすらと何かがかいてあったようなあとが見られた。レンが鉛筆で優しくこすると、何やら文字が浮かび上がった。
『鏡音リン レン リン』
 多分、この三人を招待するという意味なのだろう。
「リーン!起きろ、なあ、お前こんな手紙もらう覚え、あるか?」
「ふぬぅ…あとごふ…」
 お決まりのセリフも言わずにリンは寝返りを打ってレンに背を向け、布団の中へともぐりこんだ。
「おーい」
 まるくまとまった布団をはだしで踏みつけて前へ後ろへぐりぐりと動かして、軽い嫌がらせをしたがリンはおきようとはしない。痺れを切らせ、頬をつねるとリンは不機嫌そうな顔で飛び起きてレンを睨んだ。
 仕方がないというようにレンはため息をついて、便箋と顔を突き出してリンを挑発するように聞いた。
「リーンー。こんなのもらう覚えなんて、ありますー?」
 その動きに驚いたんだかときめいたんだか、一瞬顔を赤くしてちょっと後ろへ下がったリンは便箋を見て、首を横に振った。
 実はあのキスのことを、リンはまだ引きずっていた。すでにレンは吹っ切れた様子で特に今までと違う態度をとることはないし、周りもそんなことは忘れたのか冷やかしも来ない。まあ、冷やかすといえばリンしかいないが。
「何?これ」
「郵便受けに入ってたんだよ。宛名も差出人も書いてない」
「へえ。不思議だね。便箋も封筒も何だかメカチックだし」
「どうでもいいけどとりあえず着替えて下りて来いよ。下にいるから」
「あ、うん」

 どうにか制服に着替えて、リンは階段を駆け下りリビングへと下りてきた。
 リビングでは笑顔で料理をしているメイコや、その手伝いをするルカ、少し眠そうに朝食をとる、レンの姿があった。すでにリン以外の面々はとっくのとうに起きて、朝食をとっていた、ということだろう。
「レン、リボンがうまく結べないの。後で結んで」
「分かったから食え。俺は今食い終わったから…そのままなら今、やってやる」
「あいあろー(ありがとう)!」
 風呂の辺りに昨日、リンが風呂に入った際に脱ぎ捨てられた白いリボンを持ってくると、レンは器用にリンの頭にリボンをつけた。きれいに結び目を作って、完成だ。
「レン、上手だよね。凄い。…ね、可愛い?」
「あー聞こえない」
「なによぅ答えるくらい、いいじゃない」
「うるせぇ」
 露骨に嫌な顔をして見せ、レンはスクールバッグを肩にかけた。この間、回復祝いにとメイコが買ってくれたばかり、ぴかぴか新品の藍色の格好いいスクールバッグだ。
 それを見てリンはおかしそうに笑うと、玄関でメイコたちに挨拶をして学校へと向かう。
 このところ、ミクたちには会っても話しかけることが出来ない。あんなことがあって話しかけにくいのと、二人が逃げるように走ってしまって話しかける隙がないのだ。
「…やっぱり、ミクちゃんもアンちゃんも私とは話したくないのかなぁ」
「気にすんなよ。そのうちどうにかなるって。それに友達ならもっといるんだろ」
「そうだけど…。ミクちゃんは特に仲好しだと思ってたから、なんだかショック…」
 落ち込むリンを励まそうと声をかけるレンの言葉は、なんだかやる気のないようにも見えたが、彼なりに励まそうとした結果だ。
「…あ、そ、そういえばあの手紙はなんだったんだ?」
「知らない。でも楽しそうじゃない?新しいアトクションとかじゃないの?」
「でもそんなのだったらもっと話題になるんじゃないか?ほら、何かが建設中とか」
「考えすぎじゃない?」
 能天気に言うリンを見て呆れたようにレンは頭を抱えた。
 しかしそれならそれでもいいか、と思わせる笑顔と口調がリンの長所と言えるであろう部分だ。
「…そうか?」
「そうだよ!」

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鏡の悪魔Ⅱ 1

今回から一応新シリーズですが、話は前作とつながっているので新シリーズという感じではないですね。
なんでわざわざ新シリーズってことにしたかといえば、初めの色のところがあったじゃないですか。「-橙-」みたいなの。
あれの色が、想定だとかぶるところが出るんですよね。つまりネタ切れ?
だから今回からかぶるのを防ぐため、新シリーズということにして逃げたわけですね。
今回からはキーワードみたいなのを英語でカッコよく!やっていこうかと。

閲覧数:812

投稿日:2009/07/14 22:15:43

文字数:2,160文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    Ж周Ж さん、どうも、始めまして!
    コメントの返事が遅れましたが、親戚の家に遊びに行っていたので…。お許しくださいませ。
    メールの受信欄がこんな一気にコメントでいっぱいになることがなかったので、ちょっと驚いてます(汗)
    全然急がなくていいですよ!
    私のモン(?)なんかにコメントは一個か二個あれば十分ですから!!
    それでは、忙しいかと思いますが、ぐだぐだな『鏡の悪魔Ⅱ』も見てやってくださいね。

    2009/10/12 19:29:53

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