今、皆さんが百物語をされているので、ふと昔のことを思い出してしまいました。
昔と言ってもほんの2・3年前のことなのですが…実は、私、以前にも百物語をしたことがあるんです。
その時のことを、少し、お話したいと思います。
当時、私は映画部に所属していました。夏休みに皆で作品を撮ろうと、その時はある山の中のキャンプ場で合宿をしていたんです。8月の真ん中…お盆の前あたりでしょうか。キャンプ場と言っても、コテージの貸し出しをしている山荘のようなところで、環境はそんなに悪くありませんでした。
5・6人が寝泊まりできるコテージを3つ借りて、昼間は到着早々に撮影を行って、夜ごはんはバーベキューをしました。花火もやったのかな。とにかく、ごく普通の、学生らしい合宿をしていたんです。
そして夜も更け、誰が言い出したのか、百物語をすることになりました。百物語と言っても、みんなそんなにたくさん話ができる訳はないし、1人2つ話せばいいや、みたいな。そんな呑気な雰囲気でした。
コテージの2階、まだ荷物も何も置かれていなかった部屋に、私を含めて7人で入りました。部屋の電気を消して、みんなで適当に間隔を開けて、車座に座りました。
私は左手に窓を、右手に押し入れと1階に降りる階段がある壁際に座りました。それだけで何となく、落ちつかないようなワクワクするような…そんな気持ちになったのを覚えています。
さぁ、それでは誰から始めようか、という時に、1人の先輩が待ったをかけました。
「押し入れ閉めた方がよくない?何か怖いんだけど」
見てみると、確かに押し入れは少し開いていました。布団が入っているだけの小さな押し入れは、でも、部屋の中よりも真っ暗で、中は何も見えなくて、ひどく不吉な感じがしました。
みんな同じことを感じたのでしょう。その先輩と、もう1人の先輩ですぐに押し入れをぴったり閉めてしまいました。
準備は整いました。私達は、じゃんけんで順番を決めると、百物語を始めました。
そこで語られた話は、実話あり、テレビからの引用あり、オリジナルありで、予想していたものよりもとても本格的な雰囲気になりました。
そこで語られた話もいつか話したいものですが…ここでは語らないことにします。本当にたくさんありますし、それに、今話したいのはその途中に起こったことの方ですから。
全員が1回話し終わり、2回目の私の順番がやってきた時でした。
窓際、つまり、押し入れの正面に座っていた男子が、声を上げたのです。
「なぁ…押し入れ開いてるんだけど」
全員が一斉に押し入れを見ました。押し入れの両隣りに座っていた先輩達は、特にぎょっとした顔をしていました。
押し入れは…確かに、開いていました。
それも、先輩達が閉めた時と同じくらいの幅に。
まるで、内側から誰かが開けて、顔を覗かせているかのように。
押し入れの奥から、冷やりとした風が吹いてくるような錯覚を覚えました。
先輩が、固い声で呟きました。
「俺、閉めたよな?」
「閉めたよ…絶対閉めたよ!なぁ?」
「閉めました。見てましたよ」
同じくらい固い声で私が答えると、その場の空気が完全に凍りつきました。
誰も押し入れから視線を外せないまま、みんなで示し合わせたようにそろそろと立ち上がって。
「…出ましょう」
私が言った瞬間、私達は一目散にその部屋から飛び出しました。
…私達の百物語は、こうして尻切れトンボに終わりました。
あの時はむやみやたらと怖かったのですが、今思い出すと、少しだけ興味も湧くのです。
あの時、私達は「全員が2回話す」という目標を達成することなく、部屋を飛び出してしまったのですが。
もしも、あの場で、誰も押し入れが開いていることに気付かず、百物語を続けていたのなら、どうなっていたのでしょうか。
二度と、あの場所で百物語をやりたいとは思いませんが…私は時折、そんなことを考えるのです。
<FIN>
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