告白されて、手紙を渡されて、返事を返す前に逃げられたことがきっかけだった。
 

 ――さて、どうしたものか。

 放課後に呼び出されたかと思えば、突然の愛の告白と共に手紙を渡されてしまった。桜の縁取られた封に、桜柄の便箋。何度か下書きをしたのか、ボールペンで長々とした文が書かれており、誤字は一つもない。

 好意を寄せられているのはなんとなくわかっていたが、まさか手紙付きで告白されるとは思わなかった。

 返事はその場で出してもよかったのだが、言い逃げのように去っていった彼に声をかけることができなかった。

 さて、初めてもらったラブレター。スマホが当然の時代に産まれた私たちにとっては少し物珍しい一品だし、堪能してやることとしよう。

 手紙に書いてある内容は、私を好きになったきっかけ、私の好きなところ、どうしても思いを伝えたくなったこと、でもきっとちゃんと伝えられないからこうして手紙にしたためたこと。

 所々「乙女か!」と突っ込みたくなる恋の文だったが、どこまでも誠実でどこまでも真っすぐな手紙だ。

 もちろん読んだところで告白の答えが変わることは無い。手紙一つで恋愛感情を抱くほど子供じゃないし、中学生だってもうある程度大人だ。これぐらいで揺れることは無い。

 でも――

「これをただごめんなさいで片付けるのはちょっと申し訳ないよね」

 恋愛感情ではない、謎の同情が生まれていた。ここまで素直な恋文を書いた人間が報われないのはかわいそうだなとか、これから振る人間とは思えない感情だが、芽生えてしまったものはどうしようもない。

 誠意には誠意で返そう。

 そうして私は親の部屋から便箋と封を頂戴して、手紙を書き始めた。




 ――案の定だった。

 半年煮詰めた片思いを手紙に綴って、渡してしまった。後日答えを告げられて、心に見えない傷が刻まれていく。

 しかし、何故か返答と共に手紙を渡された。はじめは「貴様のラブレターなんて返してやる」という意思表示なのかと卑屈になっていたが、僕が渡した封ではなく、女の子らしいシールで封された手紙だった。

 最後にもう一度ごめんね、と告げられ分かれたことは覚えている。

 自宅に着くや否や、勉強机に座って椅子のみしっという音を聞きながら、手紙の封を開けた。

 そこに書かれていたのは、彼女の丁寧な思い。

 告白されたことは嬉しかったという感謝の言葉、でも恋愛は興味なくて断ることしかできないという謝罪の言葉、手紙でたくさん褒めてくれてありがとうという感謝の言葉。

 何故かそこから、雑談のような文が続き、最後には質問文がいくつも書かれていた。

 最後に、答えは手紙で聞かせてねという殺し文句つきで。

 振られたけれど、彼女と手紙のやり取りをすることは許されるらしい。一度の告白で掴めなかった恋も、少し進歩したと言ってもいいだろう。

 そして、ラブレターではないただの手紙を書き始める。





――もう何通目になるだろうか。

 もう老いぼれのおばあちゃんになってしまった私は、変わらず文通を続けている。あの時告白を断っておきながら、勝手ながら徐々に恋仲になり、気が付けば結婚までしていた。

 大人になっても、週に一回の文通を続けていて、きっとこの年まで冷めることなく仲良し夫婦で居られたのは、この手紙のおかげなのだろう。

 入院している私が手紙を書けるよう、孫が便箋セットを買ってきてくれていた。

 初めて貰ったあの便箋と同じ、桜柄の便箋。


「おばあちゃん、また書いてるんだね」
「いつもありがとうね。また大きくなって」
「おばあちゃん、会うたびそれしか言わないじゃん」
「ごめんねえ」

 孫はよくこうして入院している私の姿を見に来ては、最近学校であったことや世間話をしてくれる。

 入院中手紙を書く時以外暇な私にとっては、とても大切な時間だった。

「おばあちゃんってラブレターって書いたことある?」
「好きな子でもできたのかい?よかったねえ」
「うん、多分。でも直接はいい辛くて、スマホはなんか違うし。手紙を書こうと思って」
「おじいちゃんみたいなことを言うんだねえ。ラブレターは書いたことないけど、貰ったことならあるよ」

 忘れもしない、大切な一通目。

「おじいちゃんに聞いてみるといいよ」
「……じゃあ、おばあちゃんから聞いておいてもらっていい?」
「お安い御用さね。手紙に書いておくね」

 彼とのやり取りは、もう手紙しかない。だから、手紙に孫の可愛い悩みを書くことにしよう。

「最近しばらく手紙が返ってきてないけど、まああの人が手紙を返さないことなんてこの数十年無かったからねえ。きっとそのうち聞けるから、気長に待ってなさいね」

 そういうと孫は少し悲しそうな顔をしたが、すぐに「うん!」と心地よい返事をして帰っていった。

「もう、手紙はいつまでも待たせるものじゃないですよ」

 病室にまた一つ、手紙が増えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ばあちゃんの恋手紙【二次創作可】

『手紙』をお題に甘い甘いお話を書きました。
各種創作に使用いただいて問題ありません。

※普段ノベルゲームのシナリオや、音楽の原作となるプロットを書いております。
何かテキスト領域で創作に携わらせていただける場合やこちらの小説を元に何かを創作される場合は下記に連絡ください。
※こちらの作品はpixivにも公開しております。

Twitter https://twitter.com/sworder_singing

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投稿日:2023/06/05 00:24:49

文字数:2,073文字

カテゴリ:小説

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