昨日リンちゃんはわたしに電話をかけてきて、今日、鏡音君と作業の続きをしたいので部活を休んでもいいかと訊いてきた。もちろんOKに決まっている。無理して出なくてもいい部活だしね。わたしとリンちゃんは、どっちも英会話部に所属していて、わたしが部長、リンちゃんが副部長を務めている。他の部員のうち、半分ぐらいは兼部している子なので、部活にはあんまり出て来ない。忙しい部じゃないからね。
 そんな部活動に意味があるのかって? まあ、そう考える人もいるでしょうね。でも、そういう部活に意義が見出せないって言うんなら、積極的に活動している忙しい部に入ればいいだけのこと。わたしは本を読んだりお茶をしたりお喋りしたり、そういうのんびりした部活動がやりたくてこの部に入ったんだもの。楽しむのだって部活の意義だわ。
 要するに、クオに偉そうにされる筋合いはないってことよ。お互いやりたいことやるだけの話なんだから。
 さてと……リンちゃんが来ないとなると暇よね。だって二年の部員で活動してるのって、わたしとリンちゃんぐらい。後は一年の子が二人いるだけ。この二人は確か同じクラスで、とっても仲がいい。多分来年の今頃には、この二人のうちのどちらかが部長になって、もう片方が副部長になってるんでしょうね。と、話がずれたわ。リンちゃんが来ないとあまりすることもないし、もともとそんなに熱心に活動してる部じゃないし……いいや、お休みにしちゃえ。わたしは他の部員――一応、兼部の幽霊部員の子たちにも――に「明日はわたしの事情でお休みにします」というメールを送信しておいた。
 そういえば、演劇部もお休みなのよね……明日の放課後はクオと一緒に作戦会議をしようっと。


 そういうわけで、火曜日の放課後、わたしはクオと喫茶店で向かい合っていた。クオは微妙に不満そうな顔をしている。昨日、全面的に協力するって約束したじゃないの。もう忘れちゃったのかしら。
「リンちゃんが来ないと部活、暇なのよねえ」
 リンちゃんはわたしにも脚本の手直しを手伝わないかと訊いてきたけど、それは断った。馬に蹴られて死にたくはないもんね。
「巡音さん以外にも部員、いるだろ」
 クオはコーヒーを飲みながらそう言った。わたしは自分のホットココア――ハートのマシュマロが浮かんでいるのが可愛い――に口をつける。
「ほとんど幽霊だもの」
 わたしの答えに、クオはため息をついた。
「で、今度はどうするんだ?」
「そのことなんだけど、しばらくは静観でいいかなって思ってるのよね」
 二人で脚本の手直しとやらをするぐらいだから、相当仲良くなってると見ていいのよね。
「だったら作戦もいらないんじゃないのか」
「いいからわたしの話を聞いてよ」
 わたしは生徒手帳を取り出すと、カレンダーのページを開いた。
「作戦開始が十月でしょ。この時、リンちゃんと鏡音君はただのクラスメイトだったわ。でも、今じゃすっかり仲良くなった」
 つまり、鏡音君なら大丈夫と見たわたしの勘は大当たりだったってことよ。リンちゃん、クッキー焼いてきたもんね。好きでもない男の子の為に、クッキーを焼く女の子はいないわ。わたしにもくれたのは、家の人に訊かれた時のカモフラージュの為だろう。男の子の為にクッキーを焼くなんて、あの家で言えるわけがない。
「で、十二月に入ると期末テストがあるでしょ。テストが終わると、冬休みは目前。そして、冬の大イベントがやってくるわけよ」
 何か色々セッティングするには持ってこいの時期だわ。ハロウィンは誘えないってクオに却下されたけれど、クリスマスなら問題ないはずよ。
 ……って、クオ、なんで明後日見てるのよ?
「ちょっとクオ、わたしの話、ちゃんと訊いてる?」
 クオがはっとした表情になって、うんうんと頷いた。……本当に訊いていたのかしら? でも、昨日の今日だから、刺激しすぎないようにした方がいいわよね。
「というわけだから、クリスマスにちょっとしたランチパーティーでもやろうと思うの」
 美味しい軽食を用意して……ケーキはリンちゃんか、リンちゃんのお母さんに頼んじゃおう。
「ランチってことは昼間か? こういうのって夜にやるもんじゃ?」
 珍しくまともなことを言うクオ。確かに夜の方がムーディーなのよねえ。残念ながら、東京じゃホワイトクリスマスは見込めないけれど。……ま、雪ってのは、見る分にはロマンティックで綺麗だけど、実際に降られると色々と厄介だったりするけどね。下手に積もると交通が麻痺しちゃうし……。
「リンちゃんは門限があるから、夜は無理」
「泊まってもらったらどうだ。どうせ冬休みだろ」
 お泊まりかあ……わたしとしては泊まってもらうのは大歓迎なんだけどね。でも。
「お泊まりは基本的に禁止だし、リンちゃんも承諾しないと思う」
 クリスマスにお母さんを一人にできないって言い出されるわ。リンちゃんのところ、お父さんは仕事でしょっちゅう遅くなるし、上のお姉さんは婚約者がいるから、クリスマスはその人と一緒だろう。下のお姉さんのことは、話題にならないのでよくわからない。でも、最近の夕食はお母さんと二人で食べているみたいだから、きっと忙しいんだわ。
 でもこれ、ちょっと変だと思うのよね。だって、わたしのお父さんやお母さんは、出張でもない限り、夕食の時間には絶対間に合うように帰って来るもの。リンちゃんのお父さんだって、やろうと思えばできるんじゃないかしら。どうしてリンちゃんのお父さんは、夕食の時間に帰って来ないんだろう。ま、あんな人の顔見ながら食事したって楽しくないだろうから、帰って来なくてもいいんだけどね。
「で、それにレンを誘えと」
「そのとおり!」
 残念ながら昼間だからムーディーとは言えないけれど、クリスマスはクリスマスだわ。どこかで何か適当に口実作って二人きりにしてあげれば、後は空気が後押ししてくれるわよ。飾りつけ、今年は念入りにやらなくっちゃ。
「『ミクん家でクリスマスパーティーやるからお前も来いよ』なんて言って、あいつが来るかねえ」
 視線を上にあげながら、クオはそんなことを言ってくる。その誘い文句だけじゃダメよ。わかってないわ。
「多分もう、リンちゃんを呼んだって言えば来るわよ」
 このわたしの目に狂いはないわ。
「鏡音君が渋るようなら、来ない時は人数あわせの為に、他の男の子に声かけてみる気だって言えば、まず間違いなく二つ返事で飛んでくると思うのよね」
 クオはため息をついた。……気分が良いから見逃してあげるわ。
「で、要するに、俺はレンを誘えばいいんだな?」
「ええ。あ、もし鏡音君が悩んでるみたいだったら、その時は相談に乗ってあげてね。で、もし、リンちゃんのことを訊かれたら、褒めちゃダメよ」
 むしろ少し否定するぐらいがベストなんだけど、そこまで細かくクオに注文出すのは厳しいかしら。
「褒めちゃダメってどういうことだ?」
「クオがリンちゃんのこと気にしてるって誤解させたくないもの」
 この期に及んで、男の友情とやらに邪魔をされてたまるものですか。折角リンちゃんが自分から動くようになって来たんだから。どうせクオはリンちゃんに対してその気は無いんだから、変な誤解はさせないに限るわ。
 考えがまとまったわたしは、ココアを一気に飲んだ。クリスマスが楽しみだわ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

アナザー:ロミオとシンデレラ 第三十八話【ミクの見解】

 個人的にこの部活の話に関しては、ミクの方に軍配をあげてやりたいです。だって、人の活動の仕方に文句をつけてもしょうがないでしょう? もちろん、「きちんとやる」ことが条件の部で、サボるような場合は追い出されても仕方ないと思います。でも、もともと「ゆるい」部活動なら、そのことをどうこう言う方が変でしょう。

 ちなみに私は高校時代は文芸部でした。すぐ上の学年がいなかった上に、一年の部員も実質的には私一人状態だったため、学年が上がって新入生が入ってくるまで一人で部活をやってました。そのため、精神的にかなり辛かったです。

閲覧数:931

投稿日:2011/12/24 23:37:33

文字数:3,026文字

カテゴリ:小説

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