(ここは…)
目を覚ました雅彦。雅彦はベッドに寝かされていた。ベッドの周囲には見慣れない機器が多数あり、そこから伸びたコードが雅彦に繋がっている。恐らく雅彦自身の状態をモニターする機器だろう。自分が刺されたという事実と、機器や部屋の雰囲気からすると、ここはどこかの病院のICUだろうか。
(…なぜ、僕が…)
最初に考えたのはそのことだった。少なくとも、今の雅彦には刺される理由が思いつかなかった。しかし、犯人の雅彦に向けた憎しみは本物だった、と雅彦は考えていた。大学の教授という職業は、他人から恨みを買う職業だとは思っていなかった。そう考えると、ますます分からない。
(みんな、大丈夫かな?)
次に考えたのはそのことだった。とりあえず、ICUを見回すと、見知った顔はいない。ということは、犯人の凶刃に倒れたのは雅彦だけかもしれない。最も、それだけでは判断材料が不足しており、他のボーカロイドは他の病院に搬送されたり、一般の病棟に移っただけかもしれないが。
(ミクは…)
その次に考えたのはそのことだった、仮に、ミクが犯人に襲われなかったとしても、3月のライブまであまり時間が無い。雅彦は、ミクがこのことで全く影響を受けないとは思えなかった。
そうやって色々と考えていると、この部屋の扉が開き、白衣を着た一人の男性が入って来た。
「安田教授、気分はどうですか?」
「…悪くは無いです」
「そうですか。それは良かった」
そういいながら男性は雅彦の様子をモニターしている機器を見て、現在の雅彦の状態を見ているようだった。
「あの…、すいません…、あなたは…」
そういわれ、雅彦に向き直る男性。
「申し遅れました。私は住田尚人、安田教授を担当している医師です」
「そうですか。…あの、いくつか聞きたいことがあるのですが」
「私の答えられる範囲であればお答えします」
「犯人に刺されたのは、僕だけですか?」
「はい、安田教授以外はみなさんが上手く対処されたお陰で、犯人はすぐに取り押さえられ、安田教授以外に被害は出ていません」
「そうですか…、それは良かった…」
とりあえず一安心する雅彦。しかし、別の不安がこみ上げてきた。
「あの…、ミクは、ミクは大丈夫でしょうか?ミクはもうすぐライブなのですが…」
「それも存じ上げております。安田教授がこの病院に搬送された時は、かなり錯乱されてらっしゃるご様子でした」
「そうですか…」
(…ミク、大丈夫かな…)
「…不安ですか?」
「はい、僕のせいで、ミクの3月のライブが失敗に終わって欲しくないですから。ミクはそこまで弱くは無いと思っていますが、でも、何も影響がないとはとても思えないのです」
「…。何か飲むことはできますか?」
「はい、喉がカラカラです。水か何かを持ってきていただけますか?」
「分かりました。すぐにお持ちします。あと、安田教授が意識を回復されたら、MEIKOさんと、大山北大学の野口教授と、警察の三カ所から連絡して欲しいといわれています。連絡しても構いませんか?」
「はい、お願いします」
そう雅彦がいうと、住田はICUを出ていった。
(連絡を入れるってことは、遠からず誰か来るだろう。だから、その時に事情は聞いてみよう)
そう考える雅彦。とにかく、今は、先程頼んだ水が来ることを待つことにした。
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