「やっと・・・見つけた・・・」
時刻は夜7時、繁華街。
がくぽはそこで、意識が途絶えた――――。
「・・・ですか?大丈夫ですか!?」
がくぽが目を開くと、そこには青い瞳を持った女がいた。
紛れも無く、先程見つけた『桃髪の女性』だ。
「・・・あの、ここは・・・」
「あっ、ごめんなさい!つい先程、街で倒れてたので私の家まで運んできたんです・・・大丈夫でした?」
倒れた・・・ということは、いつもの貧血だろう。
‘人間’には分かりにくいので、よく体調不良だと間違われるのだが。
「大丈夫です、サプリメントを飲めば・・・ただの貧血ですので」
「そうですか・・・それは良かったです」
女は目を細めてそう言った。
「あ、自己紹介がまだでした・・・俺は・・・神威、です。ありがとうございました」
がくぽは少し前に聞いた苗字を使うことにした。
「いえいえ。私は巡音ルカといいます。あの・・・」
女・・・ルカは、少し口ごもってからがくぽにこう聞いてきた。
「神威さん、少しだけ中学校で教師をやって下さいませんか?」
それから数日が経ち、がくぽはとある中学で国語を教えていた。
教員免許は持っていなかったが、家にいる年増の魔女にかかれば一発だった。
「神威先生!職員会議はしっかり出席してください!」
「あ・・・だって、めんどくさいし」
「いくら二ヶ月間だけの非常勤だからと言っても、これはあんまりですよ!!」
会議が終わって少ししてがくぽが職員室に戻ると、鬼の形相をしたルカの姿。
そのまま、一方的に言われる形で叱られていた。
「あーあ、また始まったわね」
「ホントに仲がいいんですね、神威先生ってついこの間来たばかりなのに・・・」
「なんか、ルカ先生が倒れた神威先生を介抱してたらしいわよ?」
「莉々先生は情報通なんですね」
端から見れば痴話喧嘩、そんな2人の会話を見ていたのはリンという眼鏡をかけた女性と莉々という保健教師だった。
そうこうしているうちにルカとがくぽは話を終え、自席の近くにいる2人に声を掛けた。
「あ・・・お2人とも、見ていたんですか」
「まあね。・・・ふふ、ルカ先生も隅に置けないわね」
「恥ずかしいこと言わないでくださいよぉ」
ルカは頬を赤らめたが、それが何故なのかがくぽには分からなかった。
「あ、がくが帰ってきたよー」
「お帰りっすがくさん!」
がくぽが家に帰ると、リリィとカルが出迎えてくれた。
「・・・おいリリィ、お前って人間に姉妹いたか?」
がくぽがそう聞いたのにも理由があった。
中学の保健教師、莉々の容姿がリリィと瓜二つなのだ。
「はぁ?いるわけないジャン」
制服姿のリリィがダルそうに答える。
魔女のリリィは、この世に生を受けて800年は生きている。兄弟姉妹がいてもこのご時世死んでいるだろう。
「だよな、なんかごめんな」
がくぽはそのままリビングに向かった。
「あの、神威先生、ちょっと時間いいですか?」
翌日、授業や会議や事務を終え帰ろうとしたがくぽをルカが呼び止めた。
「なにかありましたか?」
「いえ、そういうわけではないんですが・・・食事でもどうかなと思って」
頬を少し赤らめながら言うルカを不思議に思いながら、がくぽは了承した。
冷やかしにかかる背後を他所に、2人は歩いて校門を抜けた。
地域でそこそこフォーマルなレストラン。
2人はその店に入ったものの、メニューを伝える以外で会話を交わしていなかった。
「・・・神威先生」
しばらくして、ルカが搾り出すように言った。
がくぽは頷きで返事をした。
「あの、私実は・・・」
「言いにくいことなのか?」
「えっ!?そういうわけではないんです、が・・・」
「ほらまた。頬をかく仕草をしてる」
ルカが驚愕の目をしている。この男は人の癖を見抜く術でも持ち合わせているのか。
「そんなところもあの人に似ているんだな」
「え?」
「あ、こっちの話だ」
がくぽは一瞬懐かしそうに遠くを見たが、すぐ目線をルカに戻した。
「話を逸らしてすまなかった。で、何だったんだ?」
「あ、あのですね・・・私」
ルカの言葉は店員の「お待たせしましたー」という言葉で遮られた。
2人の目の前には小盛りのパスタ。
「・・・なんでもないですよ、さ、食べましょう」
ルカは軽く笑いながらフォークを持った。
「美味しかったですねー。初めて行ったんですけど、評判通りでした!」
繁華街の照明がキラキラと2人を照らす。
2人はこぶし1つ分の間を空けてゆっくりと歩いていた。
「・・・巡音先生。もうそろそろ帰らないと、妹達が心配します」
がくぽはグミやリリィのことを妹と称していた。
「そうですね、ご家族が心配されますもんね。でももう少ししたら目的地に着くんです」
ルカはそう言って、とあるビルに入っていった。
向かうは、ビルの屋上。
「こんな所まで連れてきて、何したかったんでしょうか」
そう思ってますね、とルカが言った。
「でも、もうそろそろ言わなきゃと思ったんですよ」
「・・・巡音先生」
がくぽは無表情の裏に、何かの感情を隠していた。
ルカはそれに気付かず、話を続ける。
「神威先生・・・私は、貴方のことが好きです」
『がくぽ、今日は月が綺麗ね・・・』
ルカの告白と重なるように、がくぽの中で記憶がリフレインする。
目の前の女性と同じ面影が、かつて違う場所で紡いだ言葉。
意味は同じだった。
がくぽはルカの腕をつかみ、ビルの非常階段を下りていく。
「ちょ、神威先生!?どうしたんですか!?」
それに答える余裕はがくぽにはなかった。
早歩きの状態でがくぽは進む。どこに向かっているかなど最早関係ない。
気付けば、鬱蒼とした森の中にいた。
「・・・巡音先生、貴方は、俺の全てを受け入れますか?」
周りは自身の背の何倍もある木が茂っている。
そんなところに連れられ、ルカは混乱しきっていた。
「そんな・・・」
ルカはがくぽの質問の意味が分からず、短い返事しか返せない。
「例え俺がどれだけ、人に好かれない、悪魔だったとしても・・・全てを受け入れてくれますか?」
『全て』とは、もちろんヴァンパイアとしての面のことであった。
もっとも、最近は鉄分サプリで補っているが。
「もちろんです」
ルカは一呼吸空け、更に続けた。
「私は、神威先生のどんな面も受け止めます。だって、好きなんですもん!」
そう言ってにっこりと微笑んだ。
「そうか・・・なら、」
がくぽはルカを抱きしめ、頭を自分の肩にもたれさせる。
ちょうど、ルカの首筋ががくぽの口元の近くにあった。
「この痛みも、受け止めてください・・・桃髪の貴女」
そう呟いて、ルカの柔肌に二つの小さな傷をつけた。
妖しき館 ・・・ヴァンパイアの探し人・・・
ほんのおおおおおおお!!すぅです。
最近これ↑が意味不明ですね、はい。
というわけでヴァンパイアがっくんです。
フォルダに入れるためにつけたメモ帳の名前が「へたれ」でしたがへたれてませんね。なんでヘタレになったんだっけ?
一応前作あるので良ければ。ただのキャラ設定もどきですが。
そういえばこの物語、特筆すべきはリリィさんが2人出ていることでしょう。
莉々の存在については、伏線ではないので想像してみてください。
ではでは。
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