「どーせ今年も一緒なんでしょー!」
マスターのやることなんてわかってんだからね! とリンがぎゃーぎゃー喚いている。
レンは煩そうに顔をしかめて、何も貰えなくなったらどうする気だとぼやく。
「なによ、レンはイイの!? 誕生日プレゼントを一緒にされてもっ」
「むしろフライングで貰えてラッキーなんじゃね?」
貰い損ねずに済み、多少豪華な品物になってる気がするから、直前のイベントと一緒にされても忘れられるよりはマシだろう。
「そーれーでーもーっ」
当日に祝って欲しい、というリンの気持ちはレンにもわかる。
むぐぐぐ、とリンはほっぺ一杯に空気を溜めて不満をあらわにしていたが、やがて大きく息を吐いて悟ったような表情で遠くを見つめる。
「……まぁ、うちのマスターに期待するだけ無駄かぁ」
「無駄だな」
うんうん、とレンも頷けば、リンもそうだそうだと納得したように呟く。
電子ショッピングモールにお馴染みのBGMがかかり始めると一度はやる毎年お馴染みのやりとり。
ケロリとした表情でリンは話題を転換する。
「誕生日は雪降るかなー」
「あーどうだろ」
モールは秋からすっかり装いを変え、イルミネーションも華やかに飾られている。
ゆっくりと見て回りたいが、今は頼まれた買い物を家に持って帰るのが先だ。
お馴染みの公園はすっかり落ち葉も片付けられ、常緑樹と寒々しい枝が目立つ冬らしい景色に変わってきている。
時折冷たい風が吹いて、厚着をしていないと身震いするほどの気候だ。
とはいえ雨が雪に変わるほどの寒さではないから、この辺りで雪が積もりだすのは早くても年明けだろうとレンはよんでいる。
まぁもう少し遠出をすれば公園の北側で、豪雪地帯の気候に合わせた冬景色が既に見られるのかもしれないが。
「そんなとこ、こだわらなくってイイのにねー」
「レア感がなくなるっつーか、吹雪かせんのも大変なんだろ」
「それもそうかぁー」
あーだこーだ雑談を交わしながら、リンとレンは目的の買い物を済ませる。
「よーし、お昼は美味しいもの作るぞーっ!」
「兄貴の邪魔すんなよー」
「なんですってぇ!」
からかうレンを、リンは怒る振りをしながら追いかけ、追いつき、追い抜く。
にひ、と勝ち誇った笑顔を浮かべたリンに、カチンときたレンは負けじと不敵な笑顔を作りスピードを上げる。
「「負けてたまるかぁあああ」」
猛烈なデットヒートを繰り広げる二人。
白く吐かれる息もぴったりあっており、横から見れば二人三脚でもしているかのような見事な足運びだ。
そのまま走り抜け、ほぼ同時に自宅のリビングを蹴破るようにして飛び込む。
コタツでファッション情報を見ていたミクがその剣幕にびくりと怯え、一緒に見ていたルカは息の荒い二人を不思議そうに見つめる。
「リンちゃんレンくん、おかえりー。寒かったでしょ、今暖かいものでもー」
台所にいたKAITOが気づき、買い出しに出ていた二人をねぎらおうと出てくる。
二人が走り疲れて汗だくになっている様子に気づき、言葉を選び直す。
「……冷たいものを用意しようか?」
荷物を受け取りつつ、KAITOは息が切れて返事が出来ないリンとレンの表情を伺う。
リンとレンは先に口をきいた方が勝ちだとでもいうかのよう、お互いを権勢しあい口を開こうとして咽せる。
「とりあえず、水でも飲んでおきなさい」
蛇口の水を入れたコップを二つMEIKOが持ってくる。
リンとレンは、ありがたく受け取ってほぼ同時に一気のみをし、コタツの天板に叩きつけるように置く。
「「――どっちが早かった!?」」
綺麗にはもってしまった二人は、またにぎぎぎと睨み合いを再開する。
「ミク姉、アタシの方が室内に入るの早かったよね!」
「ルカ姉さん、オレがドア開けたの見たよなっ」
「え、えーっと……」
リンに詰め寄られて困り、ルカに助けを求めるミク。
対してルカは小首を傾げつつ答える。
「ドアを注視していたわけではないので、分かりません」
ルカの言うことは最もなので仕方がない、とレースの結果については同着ということでこの件は納得する。
しかしリンはまだ勝負を諦めたわけではなく、質問の相手を変更する。
「ねぇMEIKO姉、KAITO兄。水を飲み終わったのはアタシの方が早かったよね」
「いーや、オレの方が早かったよな」
どっちか白黒付けるように要求されたMEIKOとKAITOは顔を見合わせ苦笑を浮かべる。
「そうねぇどっちかっていうと、リンの方が早かったような?」
「同じだったと思うけど、レン君の方が早かったような……?」
ほぼ同時に言い終えてから、意見が割れてしまったことに驚き、MEIKOとKAITOが顔を見合わせ言葉を足す。
「いやでも、気持ちの問題なのよ?」
「いやでも、気持ちの問題だからね?」
言い終えて気まずそうに振る舞うMEIKOとKAITOを物珍しそうにミクが、興味深そうにルカが見つめる。
「なんかそんな風に照れられるとさー」
「勝負とか、どーでも良くなるというかなー」
あーぁやれやれ、とリンとレンはぼやいてテーブルに置いてあったコップを手に取って台所に運ぶ。
「MEIKO姉さん、コップ洗っとく。ありがとな」
「KAITO兄、食材しまうよー」
何となくの役割分担で効率よく作業を開始する。
はっと我に返ったKAITOがリンに使うものだけ出しておいて貰えるように頼みに行く。
さらに何でもかんでも冷蔵庫に突っ込もうとしたリンに、KAITOは野菜室や暗所室温保存で可能なものについて説明補足する。
「お姉ちゃん、顔赤いよ?」
「あーもう、熱気が籠もってるのよ、きっと!」
リンとレンが帰ってきてから一気に室温上がったわ! とぼやくMEIKOにミクはそうだねとはにかむ。
元気の固まりみたいなリンとレンは家の中にいるだけで、ぱっと楽しくなるような生き生きとした熱気に溢れている。
「ミクも、リンちゃんとレンくんがいない生活なんて、もう考えられないもんねぇ」
きっと二・三日の不在でも寂しく感じることだろう。
「ワタシは、一人でも誰かが欠けた光景もイメージできません」
ぽつりとルカが呟き、ミクも「ルカちゃんが居ないのなんてヤダよ!」と同意する。
ミクとルカのやりとりをMEIKOは微笑ましく見守って、さてさて、とコタツの中に戻る。
「やっぱり、冬はコタツよねぇ」
うっとりと目を細めるMEIKOに、ミクもルカも賛同し、片付けの終わったレンも寒そうに肩をすくめながらコタツの中に滑り込んでくる。
とろんと幸せそうに目を細めたレンを見て、リンは「アタシだって料理当番じゃなければ」とぼやき、何か思いついた様子で提案する。
「ねーKAITO兄、ウチもそろそろ飾り付けしようよー」
「いいねぇ。物置に置いてあるから、使いたいものがあれば自由に使っていいよー」
やった、とリンは口の中で呟き、首を伸ばしてレンの方を見る。
「だってさぁレン!」
「は? なんでオレが」
急に話を振られて渋い顔をするレン。
「いーじゃんアタシ今手が離せないんだし。レン暇でしょぉ!」
確かに言い分はもっともだが、そういう言い方はないとレンはムッとする。
そんなレンの心情を知ってか知らずか、ミクがわぁっと嬉しそうな声を上げる。
「レン君、ミクも飾り付け一緒にやりたいー!」
「ワタシも宜しければ、参加させていただけますか」
だめ? と見つめてくるミクとルカに、レンはこの辺りが折れ時とばかりに「わかったわかりました」とコタツからはい出る。
飾り付け道具を取りに行くついでに、レンは放り出しっぱなしだった上着を部屋にしまおうとリンのもついでに運ぶ。
ミクとルカもコタツから出てレンの後に従う。
リビングからでる寸前でレンはリンを振り返り、にやっと笑う。
「リン、後で参加したかったーつっても混ぜてやんねーからな!」
「ちょ、ちょっとぉ!」
庖丁を持ったまま振り回そうとしたリンを「危ないよ」とKAITOは注意する。
閉められたドアを恨めしそうに見つめながら、リンは唸る。
「はいはい、特別にMEIKO様もお昼ご飯の準備手伝ってあげるから、さっさと終わらせちゃいましょう」
レンたちが持ってくる物を広げるためのスペースを作りつつMEIKOがなだめる。
「おー! めーちゃんも手伝ってくれるなら百人力だー」
KAITOがおどけたように答えるのを聞いて、リンはますますぶすぅっと頬を膨らませた。
「レンくーん……そっちあったー?」
「あーミク姉さん、ちょっと待って……あれっぽい、かも?」
幾つめかの箱を開けて、ようやくレンは飾り付け道具の入った箱を発見する。
整理途中で雑然としている物置は、ラベルの貼られたものと張られていない物とが混在していて目的の荷物を発見するのに少しばかりと手間取ってしまった。
「どちらですか?」
高い場所の物を中心に見ていたルカも手を止めてレンの側へとやってくる。
レンが背伸びをしてようやく見えるレベルの高さの箱を、ルカは楽々と下ろし、改めて中を覗く。
「たしかに、こちらのようですね」
ぱかりと箱を開き、電球や、モールといった飾りが出てくる。
「あれ? モミの木って無かったっけ?」
ミクが中身を見て物足りなさそうに呟く。
「期限付きの生木ですと、保たずに処分されてしまった可能性がありますね」
「そっかぁ……」
肩を落とすミクにルカとレンが慰めの言葉をかける。
「時期ですし、購入も可能かと」
「だな、お昼食べたらモールに行くか? オレ、イルミネーションもみたいし」
ミクは二人の気づかいに嬉しそうに頷き、三人はとりあえずあるだけ持ってこうと、箱を抱えてリビングに戻る。
「MEIKO姉様とKAITOお兄さんがご一緒に料理を……」
あら、とルカが驚いたような表情になり、ミクも本当だと目を丸くする。
料理が不得手な下のきょうだい達のためにと当番制にしてから、MEIKOとKAITOが一緒に作るような当番を組んだことがないため確かに非常に珍しい光景である。
「つか、今日の当番はリンじゃねーのか」
なに楽してんだよ、とレンがあきれ顔でリンを見る。
「め、MEIKO姉が手伝ってくれるって言ったの!」
「リン、手元注意しなさい。切るわよ」
「リンちゃん、ナベ沸騰したよ」
「もーっスパルタ教師が二人もいるー!」
リンが全然楽じゃなーい! と主張する。
レンとミクとルカは顔を見合わせてくすりと笑い、箱をMEIKOが用意して置いてくれた場所に置いて、台所へと向かう。
たまにはみんなでお昼ご飯の準備をして、午後の予定に花を咲かせるのもまた一興。
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BPM=200→152→200
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