大学二年生の夏。
尊敬していた先輩が教授をぶん殴って退学になり、密かに憧れていた女の子が大学を放火して失踪した。

彼らはきっと耐えられなかったのだ。どこにもたどり着けないまま、次第に感覚が麻痺し、抜け殻になっていくことに。そして、それを大人になったのだと自分に言い聞かせ続けることに。
物知り顔で自己欺瞞で仮面を被り、やがて仮面通りの顔になり、何も疑問を抱くこともなくなり、全てを忘却して残りカスのような人生を送ることに恐怖したのだ。

「お前はいま何がやりたいんだ?」
先輩は僕によくそう問いかけた。すぐに、いま、真っ先にやりたいことは何かと。
どうやら、先輩は僕だけではなく、知り合い全員にそう尋ねて廻っていたらしい。変わり者である。

先輩は変なサークルを運営していた。サークルといっても全く持って非公式なサークルで、まず、活動内容からして謎だ。
サークルに加入する際にまずすることは、携帯のメールアドレスを名簿に記入すること。そして、サークルのメーリングリストに登録することだ。

メーリングリストは自由に使っていい。雑談をしても良いし、人手が欲しい時に助けを呼びかけても言い。名簿にあるアドレスには自由にメールを送っていい。しかし、送られた方は無視をしてもいい。
基本的な活動内容はそれだけ。あとは自由にやれということ。

一体こんなものに何の意味があるのだろうか?その疑問に先輩は明確に応えた。正直訪ねたことを僕は後悔した。それはそれは長々と、得意げに確信に満ちあふれて講釈を始めたのだ。


「このサークルには我が校の生徒の内300人が参加している。全校生徒数からすれば微々たるものだがサークルとしては最大規模だ。そして、お前はいま、300人の人間とコンタクトを取る権利を得たのだ。今すぐそのうちの誰かを誘って酒を飲みに行ってもいい。同じような趣味のやつを集めて遊びに行ってもいい。頭の良さそうなやつにノートのコピーを取らせて貰うのも良いだろう。才能のありそうなやつを探して、一つ何か始めてみるのも良いかもしれない。このサークルにあるのは繋がりだけだ。それもメールアドレスを知っているというだけのもの凄く希薄な繋がりだ。しかし、繋がっていることは確かだ。同じサークルという名目はあるのだからメールをしても不自然ではあるまい。さらに、このサークルは目的など一つもない。だから、お前らの人格も、趣味思考も、能力も、思想も宗教も一切束縛しないし、また、お前らがどういう風にこれから繋がっていこうと自由だ。これはもの凄い可能性だ。使わない手はないだろう?何か面白そうなこと、いまやりたいこと、思い立ったら、そして、それに人が、能力が知能が動ける身体が必要ならすぐにメールを送れ。10人に声をかければ2人くらいは興味を示すかもしれない。駄目なら返信がないだけだ。リスクなど皆無と言っていいだろう。逆に、誰かが面白いことを思いついた時、おいしい話が舞転んできた時、お前に声がかかるかもしれない。もちろん煩わしいと思ったらそれを無視してもいい。別に気にする必要はない。内のサークルでは無視は否定ではなく中立だ。内心はどうなのかは分かりようもないが、少なくとも体面上はそう振る舞うことが暗黙の了解になっている。たかがメールアドレスだろうが何だろうが繋がりは繋がりだ。これを活かせば何だって出来る。さぁ、楽しくなってきただろう?」


一体全体何を言っているのか僕には分かるようでいて分からなかったが、先輩は世界の心理を手にしたかのように演説しているので僕は取りあえず力強く頷いておいた。

入学して間もない頃、学食で一人カツ丼を食べている僕に突然話かけてきた先輩はこうやって怪しげなサークルに僕を引き込んだのであった。

【気が向いたら続き書こう】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ブランコ

うだうだとした日常を過ごすフリーターKAITOの回想メインの物語。
なんか適当にSS作って誰かがこれをイメージの元にして曲作れば良いんじゃねぇの?
と思って書きました。いつか続き書くかもしれない。

閲覧数:288

投稿日:2008/11/13 19:48:50

文字数:1,574文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • kugu

    kugu

    ご意見・ご感想

    気が向いたら続きということで、期待して待ってます。

    2008/08/05 23:50:11

オススメ作品

クリップボードにコピーしました