愛(めぐみ)は初音鉄道の葱畑駅近くの会社に入社2年目で購買を担当とし
ている事務員です。会社帰りには経理担当の衣亜と駅前のタコルカフェ葱畑店
2階の窓際の席で駅前の雑踏を見ながらカフェラテを飲む事が多いです。
 葱畑駅は初鉄の駅の中では駅前のイルミネーションがきれいなので有名で、
大きなモミの木があって巨大クリスマスツリーが特に有名でした。それは12月
20日水曜日の事…
衣亜「なんかメグ、ニヤケてるぅ」
愛「あの子男の子かなぁ、女の子かなぁ、去年も居たけど、あの、募金箱持っ
てる子さぁ、衣亜に似てない?」
「ニヤケてるって、あたしショタコンじゃないよ!でもなんか可愛いなぁ」
衣亜「どれどれ」
 衣亜が見ると、愛の言っている場所には大きなクリスマスツリーが飾って有
って、そこにはそのような子は居ません。軽い近視でハッキリとは判らなかっ
たのでその場は相槌を打って誤魔化していました。二人の会社は年末決算だっ
たので、決算期で事務員は忙しく、疲れて帰る時に聴くその子の「ご協力おね
がいします!」の声は冬の澄んだ空気よりももっとさらに澄んだ、冬の空より
も高い声に
癒される日々でした。
21日木曜日。
 その日は残業で、衣亜とは時間が合わなかったのでタコルカフェには寄りま
せんでした。募金しようと小銭を幾つか握ってその子に近づこうとすると、駅
の方からの大勢の人並みに押し戻されて近づくことができず、駅前広場の反対
側にあるタコルカフェの前を通って帰りました。
22日金曜日。
 その日の帰りも衣亜とは別々でした。その日も募金しようとして近寄ったの
ですが、突然の前からの風で顔をそむけている間に居なくなってしまい、そこ
にはクリスマスツリーが仕方なくタコルカフェに寄って帰ることに、そこには
すでに衣亜が居ました。
 衣亜「あれ、ちょっとなんか寂しそう、例のショタの事かな?」
 愛「いくらなんでも中学生に惚れたりしないでしょう!男の子か女の子か判
んないし!それにあたしショタコンなんかじゃないもん!」
 翌23日は天皇誕生日で、土曜なので会社はお休み
24日日曜日
 衣亜の仕事である棚卸の準備めが終わらず休日出勤、愛も駆り出される事に。
朝にはタコルカフェで人気のツナサンドをお昼用に買って出勤、帰りにもタコ
ルカフェに寄りました。クリスマスイブで町の人出は多くプレゼントを抱えた
人が行き交います。
 愛が窓からぼんやり見ていると、その子の向こう側に有ったイルミネーショ
ンが透けて見えるような気がしました。暫くして、駅に向かって走って居る中
年男性がその子とぶつかりそうになったのですが、なんと、すり抜けてしまっ
たように見え、目を丸くしていると、衣亜が目の前に手をかざして、
「モシモシ、モシモシ」「メグどうしたの大丈夫?」
 そして愛は思ったんですが、5年前の12月23日に知り合いに合う為に葱畑駅
に来た時に募金した事が有って、その時と殆どその子は変わって居ませんでし
た。その当時も中学生の様に見えました。その時愛はまだ高校生。
いくらなんでも成長してないのはおかしいなぁと…
25日月曜日
 帰りに二人でタコルカフェに、その日からその子は駅前には居ませんでした、
お会計の時に、浅川店長に「あそこで募金やってた子って昨日までだったのか
なぁ?」って聞くと、「見た事無いんだけど、そんな事他の人からも聞いた事
有ったなぁ。」
26日火曜日、
 この日も衣亜とタコルカフェに、そうすると浅川店長がやって来て、
「メグちゃんさぁ、このお店の屋根の軒下にライブカメラが有るの知ってるよ
ねぇ、防犯を兼ねて一週間分を録画してあるんだけどね、気になったのでメグ
ちゃんが来た22日とイブの映像を見てみたんだけどね、動画はお見せできない
んだけど静止画像なら良いかなぁと思って、コレが22日とコレがイブ、」
 プリントアウトされた画像のカフェのすぐ前を指さして、
「コレ、メグちゃんが帰るところだよね。」そして、その子が居た場所を指さ
して、「ここにはクリスマスツリーしか映って無いんだけど」愛が驚いている
と、隣の席に由香里と順子がやってきました。
 由香里は衣亜の高校の3年間の同級生、順子は3年生になった時に仙台から
引っ越してきた同級生で、ともに葱畑駅の近くに住んでいました。
そして話に入って来て…
 由香里「私も“出る”って聞いた事が有るんだけど、5年前のイブの日夜の
7時頃だと思ったんだけど、駅前は駐停車禁止なんだけど、停車して彼女を迎
えに来ていた男の人が居てね、彼女はすぐに来たんだけど、バックで誤発進し
て人混みに突っ込んじゃったのね、それで植樹帯にぶつかって止まったんだけ
どね、小さいモミの木を一本倒しちゃったのね、それで死者は出なかったんだ
けど7人怪我して、そのうち6人は軽症で済んだんだけど1人重体だったのね、
その重体の1人が誰かは判らないんだけど、死んだって話は聞いて居ないから
まだ生きてると思うんだけど、」
 順子「私も引っ越して来て1年以内の事だったんでよく覚えてるんだけど、
たしかテレビのニュースにもなってたよね、翌日の朝刊にも大きく出てた。そ
の翌年からクリスマス近くになると“出るらしい”って噂がよく有るのよね。
そういえばタコルカフェが出来たのって3年前だよね。」
 浅川店長「そうそう、葱畑店が出来たのは3年前でその時から店長やってる
んだけどその事は知らなかった」
 由香里「それでね、その当時の市長さんが碑のようなのは大げさなので作り
たくないんだけど、
事故を風化させないためになにかしようって事になって、市議会の賛同も有っ
て、それでクリスマスイブ
だったって事も有ったので翌年の春に大きなモミの木を植樹したのがアレなの
ね、」由香里は駅前の大きなモミの木を指さして、「それからそのモミの木を
利用して毎年大きなクリスマスツリーにして、駅前に綺麗な電飾をするように
なって、電飾で話題の街になったのね。」
そして翌年以後、愛がそのような光景を目にすることは無くなりました。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

それは12月のこと…

同名のGUMIオリジナル曲とプチメディアミックスみたいな感じにしてみました。

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投稿日:2017/12/08 18:09:24

文字数:2,528文字

カテゴリ:小説

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