!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
血の気が引くのと同時に、舌打ちも忘れて家へ上がりこむ。そこは、ふざけているのかと思うほど丁寧に掃除されていた。それが何とか記憶の逆流を食い止めてくれているらしい。
いちいち足を踏み出すたびにうるさく音を立てる床やかべに苛立ちを覚えながら、和室の襖を開く――。
その途端、フラッシュバックする記憶。今までせき止められていたものがあふれ出すかのように、目の前にはあの日見たものと同じ光景が広がっていた。
和室でも割れていた花瓶、畳にしみ込んだ水の跡、散らばった花、散乱した服・・・押入れの中から伸びたか細い手と、その手を引いているあの人・・・ああ、悪夢だ。
「隆司、さん・・・」
その声に、はっと我に返る。カイトの表情が歪んでいるのが目に入り、突っ立っている場合ではないと蹲っている律の傍へ歩み寄った。
震え続ける体は、冷たい雨の中に捨てられた猫のようにも見える。今この状況で俺が触るのは、以前の状態に戻すことを意味していた。だが、今はそれもやむを得ないのか。それ以外に策がないのなら・・・承知の上で俺が助けるしかないのか。
恐ろしいほどの静寂。
律の目の前に片膝をついて座り、一度振り返る。カイトが救いを求めるような目をこっちに向けている野が視界に映りこんだ。俺のせいで、カイトまで傷つけた・・・あそこであの人に噛み付かず、振り切ってここへ走っていたらこんなに状況は酷くなかっただろうに。
罪悪感を抱いたまま腹を括るために目を閉じ、一つ息を吐き出して律の頭へと手を伸ばす。優しく触れれば、びくりと跳ねる肩。本当ならこうするのは、今回ばかりは俺ではなくカイトであったはずだったというのに。
苦笑を浮かべながら口を開く。もう触れてしまった・・・後へは引けない。まだ触れていなかった数秒前には戻れない。
「――律、もう大丈夫だ。安心していいぞ」
妙に掠れて聞こえるその声は、震えたまま蹲っていた律の顔をゆっくりと上げさせる。涙に濡れた目が、俺を捉え、口が言葉にならない声を吐き出す。空気音が数回。
見る見るうちにその目に新たな涙をためたかと思うと、律の目はそれを静かに流し始めた。
緊張の糸が切れたか。そう考えた瞬間、視界から律が消え、体に衝撃が走った。鼻腔をくすぐるのは優しく甘い香り。首に回された腕の感覚が、肩口で聞こえる嗚咽が・・・律が抱きついてきたのだと教えてくれた。
「りゅ、ちゃ・・・っ!」
半ばバランスを崩して横を向く形になったままカイトに視線を向ければ、複雑そうな表情をした後で、自分は何も気にしないというように笑う。カイトが無理をして笑っていることはわかっているが、律の状態が他の誰かの目を気にしていられるほど良くはない。カイトを気遣う余裕はなかった。
俺はそっと律の背中に手を回して軽くさすってやる。
「カイトも一緒にきてくれたからな。お前はカイトと一緒に車で待っててくれ」
「や・・・っ・・・りゅーちゃんが・・・司くんじゃなきゃ、駄目なのっ・・・!」
聞き分けのない子どものようにぎゅっとしがみついてくる律。あの時もそうだった。そうだ・・・だから、絶対に離さないと決めたんだ。
ギィッと廊下から音が響いてくる。律が背中に伸ばしている腕に力が入るのがわかった。
今はもう何が最善かを考える余裕すらない、か。いや・・・どちらにしても目の前には一つしか道が用意されていないだけなのか。
振り返る先は開いた襖の向こう・・・廊下。カイトの視線も廊下に向けられている。焦らすように遅い足音は、床を大きく軋ませていた。
「お前に任せて正解だったな。あんなにいい声でなくとは思わなかった」
まだ姿が見えないというのに、響いてくるその声だけで体が震わされる。遅れて、あの人が襖に手をかけて現れた。
「・・・なぁ、リュウジ?」
律が耳元で急に酸素の取り入れ方でも忘れたかのように喘ぐ。カイトの体が恐怖に慄いたように震えた。
笑みを湛えたその人を睨みつけながら、律の背中をさすりつつカイトの後頭部に向けて口を開く。
「カイト、そこの窓から外へ逃げろ。靴なら俺の靴を貸してやる」
「え・・・っ」
俺の言葉に驚いた声を発したのは、カイトだけではなかった。俺に抱きついていた律までもが密着していた体をほんの少しだけ離し、目を見開いて信じられないといった風に俺を見つめている。その琥珀色に浮かぶのは、まぎれもなく見捨てられるかもしれないという恐怖だ。
男は俺たちのその会話を聞いているにも関わらず、止める素振りも見せずに俺が逃げろと言った窓の方に視線を向けている。もうこの男の目的は果たされているのだ。それなら、もう律に用はないはずだという俺の予測は正しい。だが、それでも・・・ここにいれば律はもっと精神的にまいってしまう。だから、律だけは逃がさなければ。
靴を乱暴に脱いでカイトの方へ投げ、複雑な表情をしたままの律を落ち着かせるように、その頭をぽんぽんと軽く叩いてやる。浮かべるのは、笑顔。
「いいか、律。カイトと逃げるんだ」
律の手が俺の服に縋り付くように伸びてくる。そうして彼女は駄々っ子のように、「やだ」と目の前にある選択肢を跳ね除ける言葉を繰り返した。だが今は、その願いを聞き入れてやることはできない。俺には最後の仕事が残っている。
カイトに視線を向けた後で、決意を込めて目を閉じた。
「悪い、律。お前とは行けない」
冷たく突き放すように、律をカイトの方へと突き飛ばす。突き飛ばされた律は、目を見開いて驚きを隠せない様子だ。そして突き飛ばされてきた律をしっかり支えているカイトはといえば、驚きとともに突き飛ばしたことに対して非難を浴びせるような目をしていたが、俺の表情を見て何かを感じ取ったらしく、文句を言うことはなかった。
「先に帰ってもいいから、とにかく逃げろ」
カイトがしっかりと律を抱えたのを確認してから立ち上がる。男は愉快だとでも言いたげに口元に笑みを浮かべていた。
「やだっ・・・やだよ、司くん・・・っ! 一緒に、いてよ・・・っ!!」
泣き叫ぶ声も聞かないふりをして男に鋭い視線を向ける。律は酷い泣き顔をしているのだろう。手に取るようにわかる。抱きしめて慰めてやることができればどれだけいいだろうか。しかし、これ以上、この人の好きにさせるわけにはいかない。
背後でカイトが立ち上がったような音がしてすぐ、腕を捕まれる。だが、振り返ることはしなかった。否、振り返ることができる状態ではなかった。
「隆司さんがマスターと一緒にいてやってくれ! 俺はマスターの意思に背くなんてことは・・・」
「カイト、今俺の名前を呼ぶな・・・虫唾が走る」
空気が、明らかな威圧感を含んだ低音にびりびりと振動する。俺の腕が突然熱でも発したかのように、カイトの手が素早く離れていった。
泣き喚くように言葉にならない声を発している律に、もう既に優しい言葉をかける余裕もない。
「律を連れて逃げろって言っただろ。
俺はこの人と話を付ける・・・警察に引き渡すだけじゃあ腹の虫が収まらないからな」
口調は穏やかなものだったが、カイトにも俺の中の怒りは伝わったのだろう・・・一息置いた後で、ようやく我に返ったかのようにカイトが「でも、」と口にする。
「俺はマスターの言うとおりに・・・」
「――お前はこのまま律の壊れるところを見たいって言うのか!?」
振り返りもせずに大声を出したが、カイトの身体が揺れたことは見なくてもわかる。目の前にいる男の口端がつりあがることも。
けん制するように男から目を離さないままで、長い間眠らせていた『怒る』という感情を久々に吐き出した気がした。
「さっさと行け!」
「りゅ、」
まだ食いつこうとするカイトに、「もう二度は言わない。後悔したくなかったらすぐに行け」とドスの利いた声で激昂に濡れた息を吐き出す。その、何て醜いことか・・・・・・吐き気がする。
男がカイトの方を見て目を細め、にやりと笑みを深めた。それより少し先かはたまた少し後かというタイミングで、カイトが窓を開けて走っていく音が聞こえてくる。
「やっ・・・つかさ、くっ・・・やだやだやだっ、離して! 司くん・・・!!」
カイトに抱えられたまま必死で足掻いているのだろう。
心の中で悪いと呟きながら、手を振る代わりに右手を軽くあげた。そして、遠ざかる足音と律の叫び声を聞きながらその手を無造作に下ろして息をつく。合わせようともしていないというのに、それは男が息をつくのと同じタイミング。
さっきよりも更に憎しみを込めた目で見れば、さもおかしそうに喉元で低く笑う、男。本当に胸糞悪い。
「無駄だと思うけどな」
くっと喉元で低い笑いを押し込めてそう言った男は、やはり不敵な笑みを浮かべる。いつからこんなに悪役が似合う人になってしまったのか。俺が尊敬し、追いつきたいと願ったこの人は、決してこうではなかったというのに。
何度目になるかわからない深い息をつき、俺も負けじと不敵に笑う。隙を見せないようにするには、どんな状況でも余裕を見せていなければならないとわかっているからだ。
俺とて、タイミングを外されただけで、心の準備ができていなかったわけではない。今はもう、腹を括った。
「そっちこそ・・・笑ってられるのも今のうちかもしれませんけどね。
目ぇ覚まさせてあげますよ――」
久方ぶりに口にする響きは、あの時感じていた優しい気持ちなど全くない・・・とても名前を言ったようには感じられない、紙に記された無機質な文字の羅列のようだった。
「――竜一さん」
→ep.35 or 35,5
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