ハァ、と息を吐けば白く見える様な、凍てつく夜の小道を男女の二人組が手を取り合って歩いていた。女の方は首元と袖元に白いファーのついている赤いロングコートを着ていた。その彼女の、彼と手を繋いでいない方の手には、雪で作られたうさぎを大事そうに持っていた。南天の実と葉でちゃんと耳と目がつけられている。
彼女は彼とその雪うさぎを交互に見ては嬉しそうにフフ、と笑った。それにつられて彼も優しく微笑む。
二人を照らすのは優しく空から光を放つ、満月だけだった。不意に彼は立ち止まり、クルリと向きを変え、彼女の方に顔を近付けた。
「な・・・何?」
少し戸惑い気味の口調で彼女は言う。口元から零れる吐息までもがお互いよく見える距離の中、彼はそっと、彼女と手を繋いでいない方の手で彼女の頬を撫でた。
「冷たいな、キミの頬は」
彼がそう言うと、彼女は先程とは違う表情になり、ポカンとした顔で彼を見つめていた。が、不意に小さく笑い出した。
「でも貴方は温かいのね」
彼女がそういうと今度は彼がポカンとした表情になった。が、口元を綻ばせ、二人はそんな必要などないのにそっと、息を潜め、笑い合った。
その幸せも、その笑い合った時の温もりも、廻る、廻る星の環の下で、
ふわり、雪が太陽の熱で溶ける様に、
夢に、消えていった。
それから、季節は巡り、再び冬の気配が見られる様になった頃、彼女と彼は信号を待っていた。何の他愛も無い、唯の世間話、友達の事。それは信号が変わり、二人が歩き出しても止まらなかった。
彼女は嬉しそうに笑い、彼の一歩前に行く。其処に、クラクションの音が響いた。周りからは大声が飛び交ったが宙でぶつかり合って何と言っているのか分からない。ただ、一言、
「危ないっ!」
彼のその声だけが耳に入り、次の瞬間 ドンッと押されたのと、その数秒後にブレーキ音と何か柔らかいモノがぶつかった音だけがやけに大きく響いた。
ハッとして目を開くと、目の前に広がっていたのは――――――
前の部分が大きく凹んでいる青く大きな車と――、
頭から血を流して倒れている、彼だった。
彼女はその光景にただただ、呆然としていた。頭が動かない。体が動かない。早く、早く、彼の元に行かなくちゃ。そう思うのに、身体は、心は動かない。
周りの騒音が、まるでドラマの様に遠くに聞こえた。人々が何かを言い合い、一人は電話をしている。何人かは彼に駆け寄り、脈を計ろうとしているらしい。そして、とある女性が彼女に手を差し出してくれた。白のコートに桃色の髪がとても綺麗だった。
「・・・・・・」
「捕まって。立ち上がれる?」
女性にそう言われ、彼女は女性の手にそっと己の手を置き、グ、と握った。と、直ぐに女性は腕を引っ張り彼女を立たせてくれた。
「あ・・・りがとう」
掠れた声になってしまったがやっと出た声で彼女は女性にお礼を言うと女性は「何て事ないわ」と微笑んだ。そしてそっと続ける。
「それよりも彼の方・・・・・・」
言われて彼女はハッとして彼の方を見た。彼は動かない。否、動けない。先程よりも血溜りが大きくなっている気がする。
彼女は遠くの方に、救急車の音を聞きながらその場に立ち尽くした。
あの、大きな音と共に、通り過ぎていった青い車は
楽しかった思い出も、悲しい思い出も、全部、全部
詰め込んでいた、沢山の思い出を、一瞬で、そして
一緒に連れ去ってしまった。
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
心電図が規則的に心拍数を刻んでいく。白いベッドの上には頭にぐるぐると包帯を巻いて、目を閉じたまま目覚める気配の無い彼が横たわっていた。
彼女はそんな彼の様子を見て、そっと、ガラスに触れた。中に入る事は許されない、集中治療室に入っている。
「・・・ねぇ、何で?」
ポツリ、彼女は誰に言う訳でもなく独り呟いた。
「可笑しいよ・・・。あの瞬間から・・・あの時から・・・違うよ? ねぇ、どうしてかな? こんなに近くにいるんだよ? こんなに近くにいるのに・・・如何して貴方に触れないの?」
ガラスに触れている手に力を込める。段々とその手を握り締め思わず ダンッ とガラスを叩いてしまった。だが彼が目を覚ます事は無い。
握り拳を押し付けたまま、彼女はズルズルとその場に座り込んだ。その瞳からポロポロと、真珠の様に大きな涙を流しながら。
その涙はとても、とても冷たく、そして、後から後から滲み出してきて、止まる気配を見せない。それでも彼女は涙を抑えようと必死で拭った。
涙が止まるまで、何度も、何度も。
それから本格的な冬になり寒さが町を覆う様になっても彼は目を覚ます事は無く、未だに集中治療室に入ったままだった。
それでも、彼女は毎日毎日、一日も欠かす事無く病院に足繁く通った。彼が目を覚ますと信じて。
そして遂に―――――。ある日の夜中、彼の様態が急変した。彼の周りで看護士達が忙しなく動いている。彼女が其処にいける筈が無かった。
前よりも痩せた彼の姿を見て彼女は ギュウ、とガラスに手を強く押し付ける。
彼の身体をこの手で支えたい。あのまま、別れてしまうなんて、嫌だ。
ジワリと自然に滲み出してきた涙でぶれる視界の中、彼が不意に目を薄らと開き、彼女の方を見、そして
「 」
唇を動かした後、カクリと首が項垂れた。看護士達は慌てる事無く動き出す。彼女は呆然とその光景を見ていた。そんな彼女に残酷な程暖かな日差し――朝日が差し込んで、彼女を照らした。
朝のこの日差しの中も、私の、温かな手の中も
一つも、どれ一つも君の居場所になれないままで、
ねぇ、今、貴方は何処にいるの?
彼の葬儀の日は丁度彼女と彼が凍てついた夜の小道を歩いていた日の様に、雪が積もっていた。
「・・・ねぇ、見てよ。ホラ、雪うさぎ」
首元と袖元にファーのついた赤いロングコートを着て、彼女は手に持った雪うさぎを空に向けて差し出した。ちゃんと南天の葉と実で目と耳をつけた、雪うさぎ。
「前みたいに上手く出来たんだよ? ・・・本当はね、気付いてたんだよ?
貴方が事故に遭った時から、私と貴方の道は、もう交わらないんだ、て」
寂しそうに彼女は空に向かって笑う。ショートカットの茶色い髪がサラリと揺れる。
「交わる事の無い道を並んで歩いてたって、それで幸せでも触れ合う事なんて出来ないよね」
遠く遠く、空の果てへ行ってしまった貴方に、届く事はもう無いけれど、でも、
私は変わらずに君の事を、ずっと、ずっと、愛してるよ
「さよなら」
彼女が言った言葉は、彼の煙と共に、空へと昇っていった。
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ご意見・ご感想
囮
ご意見・ご感想
うわわわっ!!
まじ泣ける(ToT)
めちゃくちゃ感動したよ!!
こんなの原曲イメージ崩壊とか言われたら
うちの解釈ゴミ以下やないかーいorz
ていうか…手紙遅れてごめんなさいホントごめんなさいすいません…!!
3枚かけないかも>Д<;
もうそのときは1枚ж周жさんの1枚入ってるかもしれません!!
ああぁぁヘタレでごめんなさい!!
せっかく人が素敵な素敵な手紙をくれたのに
なかなか返事返さないなんて宇宙外生命体以下ですいません…
もう殴って斬って蹴って潰して熱して燃やして滅して下さい!!
2010/11/23 08:48:02
lunar
こんにちは。
まじか、そんな感動できる様な作品書いた覚えは私には無いがな←
いやいや、原曲イメージ崩壊してると思うよー。この歌はもっと切ない歌だと思ってる←
いや、赤ずきんはゴミじゃないよー。私の方がゴミだよー。
赤ずきんの才能を私にくr(ry
いや、大丈夫だよ! 赤ずきんのペースで描いて、送ってくれればそれで良いよ!
無理して描かなくても良いからね!
大丈夫だよ!(しつこい
いやいや、赤ずきんはヘタレじゃないよ! 私の方がヘタレだよ!
私こそごめんねあんな下らない手紙なのに素敵とか言ってくれる赤ずきん神だよ!
慌てなくても良いからね。何かあったらメールしても良いからね! 友達だもん、力になるよ!
大丈夫、殺して解して並べて揃えて晒してやんよ!←
2010/11/23 17:13:49
かりん
ご意見・ご感想
言い忘れていましたがブクマいただきました
2010/11/21 20:10:50
lunar
こんにちは! お返事遅くなって申し訳御座いません・・・。
泣けますか!? こんな駄作で!?
落ち着いて、いーちゃん! こういう時は素数を数えるんだよ!(何ソレ
こんな駄作でも誰かを感動させられたなら光栄です。
こんな詰まらない解釈で本当にOSTERさんには顔向けできません・・・←
ブクマもありがとうなんだよ、いーちゃん!
それではまたお越し下さい♪
2010/11/23 16:55:01
かりん
ご意見・ご感想
泣けます
でも、泣けません((どっちだよ
親がいる所為で泣けねぇ!!((ちょ、言葉遣い
なんでこうタイミング悪く顔を出すのでしょうね…
一人だったら絶対泣いてました
感動しましたよ!!
大好きな曲なのでこんな素晴らしい解釈が読めてほんと嬉しいです
ありがとうございました
2010/11/21 19:56:20