リュウトたちが去って行ったその晩―――――。
バー『whine&wine』の扉が勢いよく開かれた。
バーテンのハクがびくりと身を震わせながら入口の方を見てみると。
「……なんだ、メイコさんですか。脅かさないでくださいよ……」
「あははははははごめんごめ~ん、許してちょ~☆」
「……べろんべろんですね。キャラ変わってますよ」
芋焼酎の瓶を小脇に3本ほど抱え、頬を紅潮させて爆笑するメイコの姿があった。
酒に強いメイコは日本酒を樽一杯分飲んでも正気を失うことがない。そのメイコがここまで酔っぱらうということは、相当な本数の芋焼酎を飲み漁ったということだろう。
「いつものちょ~だいよ~、『カオス・スピリタス』~」
「却下」
「ああ!? 舐めてっと店ごとメイコバーストで吹っ飛ばすぞ!?」
「そんなべろんべろん状態の人にアルコール度数96以上のカクテル飲ませられますか。いくらメイコさんでも三途の川を拝むことになりますよ。今解毒酒作りますから、それで我慢してください」
「ちぇ~……」
文句ありげな顔でカウンターに座るメイコの前に、真っ赤な色をしたカクテルが置かれた。
「ん? 解毒酒ってこんな色だったっけ?」
「商売人としては、お客様の不機嫌な顔を見るのを良しとしないので。解毒酒に『カオス・スピリタス』のアルコール分を飛ばし風味のみを残したものを半分ほど混ぜてあります。これで我慢してください」
「……あんた、ホント気が利くね」
若干呆れ笑いを浮かべながらも、解毒酒を喉に流し込むメイコ。その様子を、ハクが不思議そうに見つめていた。
「それにしても珍しいですね。メイコさんがそんなになるまで飲むなんて」
「ん? ああ、いやね……今日さ、潜在音波手に入れられたんだ、あたし」
「あら……!」
ハクのほんの少し表情が明るくなる。
「カイトがいきなり強くなってさ……ミクやルカまで潜在音波を手に入れてさ、なんだか姉なのに置いてかれた気分だったのよ……でも、ようやくこれで、胸を張って『ヴォカロ町の迫撃砲』だって、VOCALOID一家の大黒柱はあたしよって言える気がする……」
「……元から言えるぐらい頑張ってるじゃないですか」
「それでもよ。ずっと妹たちの後塵を拝してるような気分だったもの。……あ、もう一杯ちょうだい、さっきの」
「はいはい……」
呆れ笑いを浮かべながら樽の中から『カオス・スピリタス』を汲み上げて、アルコール分を飛ばし解毒酒に混ぜ込んでいく。
その最中―――――
「……ハク」
「なんですか?」
「……もうすぐ最終決戦の時が来る。その時は、あんたにも力貸してもらうわよ」
ぴたり、とハクの手の動きが止まり、その拍子にシェイカーが倒れて音をたてた。
「……ついに、ですか……」
「リンとレンの潜在音波はまだ覚醒してないけど、十分戦えるでしょ。……あんたの力が必要よ」
「……………」
「……ほんの数分でも、あんたがいてくれることで何かが変わるかもしれない。そのおかげで、町を救えるかもしれない。……お願いよ。町を……一緒に助けて」
ちらりと、シェイカーを見るハク。昔、マスター・ハーデスにもらった、金の装飾が施されたシェイカー。
蘇るのはしわくちゃの笑顔。そして町を見つめる―――――優しい瞳。
「……わかりました。覚悟、決めますね」
「……ふふ、ありが……と」
それだけ言って―――メイコはカウンターに倒れ伏せた。
「!? メイコさん!?」
「……むにゃむにゃ……くらぇえめいこばぁすとぷらぁすぃ~……」
……完全に寝落ちしている。飲みまくったのが限界に来たのだろう。
苦笑しながらカウンターの下から取り出した毛布を掛けてあげるハク。そして天井の窓から見える月を見て、小さな決意を呟いた。
『……マスター、あなたの愛したこの町は……私が守ります』
仔猫と竜と子ルカの暴走 Ⅷ~エピローグ~
前言撤回。めーちゃんマジおっさん。
こんにちはTurndogです。
久々にハク姐さん登場!
かなりあ荘ではこないだ一度登場しましたが、本編ではマスターノート読み上げ以来だから、かれこれ1年半近く出ていなかった計算にwwこれはひどい。
そんなハク姐さんの力はまだ秘密なわけですが……もうすぐ解禁になるようです。
本人曰く「卑怯な力」……カイト的な意味ではなく、正しい意味で『卑怯なくらい強い』という意味なのか、『卑怯な方法の力』なのか。乞うご期待。
【追記】
そういえばこの回でテキスト100個目だったようです。
ここまで続けられたのも皆さんが呼んでくれたおかげです。
頻繁にコメントをくれるゆるりーさんや雪りんごさん。
受験生中よく応援してくれたイズミさん。
そしてピアプロの世界に足を踏み入れたばかりの自分を見つけてくれたしるるさん。
皆ありがとう。
まだまだ物語は続きますので、ご愛読のほどよろしくお願いいたします。
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