そんなこんなで、今。
「・・・それで、マスター。この子が『朝のぐっさんお天気』のお天気キャスターの、めぐっぽいどって名前の子なんです」
「へぇ、この子が・・・」
私の隣に青いのが居て、テーブルをはさんで向かい側に、その青いののマスターさんが座っている。マスターさんは、私が見た限りでは、私とそんなに年が変わらない・・・というか、年下のように見える。とりあえず、私と同じショートカットの髪形に、親近感をもった。
「なんか可愛い子連れてきたねー」
「・・・!」
「ちょっと、ますたー。いきなりの初対面で、何言ってんですか」
「だって、この子が出演する番組、いっつも見てるんだもん。だから、つい・・・ね?」
「だからって、そんなこと普通言うことじゃないです。全く・・・」
「別にいいじゃん。・・・ね、めぐっぽいどちゃん」
「え、あ、・・・はい」
いきなり話を振られ、戸惑いながらも頷く私。・・・なんていうか、青いのとマスターさんの会話、聞いてるだけで楽しくなってくる。もういっそ、私に構わずそのまま2人で会話を続けてほしい。
「ところでさ、めぐっぽいどちゃんってさ、好きな人とかいるの?」
「・・・はい?」
思わず疑問形になった。
「な、な、何、言ってんですか! そ、そんなこと・・・」
・・・何故か、青いのが慌てたように言いかけ、そして口をつぐむ。
「もしいないんだったらさ、この青いの・・・じゃないや、カイトとさ、仲よくしてやってほしいんだけど・・・お願いしてもいいかな?」
「僕は、ずっとマスターと一緒に過ごしたいんです!」
「んー、私としてもそうしたいけど、友達がいるからさ、カイトと暮らすのは、その友達が嫉妬するから、だめなんだよ。ごめんねー」
「え・・・? その友達って、まさか・・・」
何が何だか、私にはさっぱり分からない。
「とっ、とにかく、僕は、この子に対して、何の感情もないですから!! 僕は、ただマスター一途なだけです!!」
そう訴える青いのの表情は、顔が赤いながらも真剣で。
(普段は、優しくてクールな感じに見えるけど、意外と、甘え屋さんなんだねー)
私は、その光景を見ながら、少しだけ、隣にいる青いのが、ほんの少しだけ、可愛いと思ったのだった。
「あの人も・・・」
マスターさんは、それだけ言いかけ、口をつぐむ。
「・・・めぐっぽいどちゃん」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれ、少しびっくりしながらも、私は返事する。
「私ね、実はここの世界の住人じゃないんだよ」
「へ?」
「私は、向こうの世界・・・つまり、別の世界からやって来た人だね。ここへは、想像創造して、来てるんだよ」
「・・・電子世界と現実世界・・・みたいなものですか?」
VCL放送局で研修生として通っていた時に、習ったことを思い出して言ってみる。
「そうだね。・・・あー、そういう例えの方がよかったかー。ごめんねー」
なんか軽い調子で謝られる私。・・・なんだかなぁ。
「だから、そんなにしょちゅうこっちへは来られないわけ」
「ああ、そっか。だから・・・」
私はマスターさんの言いたいことが分かって、納得した。
けど。
「・・・でも、マスターさん」
「何?」
「・・・私と、この青いのじゃ、無理です」
「・・・・・・」
「・・・お天気キャスターさん」
私の言葉に、マスターさんが黙りこくり、となりにいる青いのがこっちを見た、ような気がする。
「・・・・・・そっか。・・・・・・・カイトも?」
「はい。僕は、マスターだけです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
なんだか寂しそうに頷くマスターさん。

本当にごめんなさい、マスターさん。

でも、私と青いのじゃ、・・・何も起こらないんです。

その日は結局、それ以上何も言えずに、帰ってきた。
「はぁ~・・・」
パソコンの前に座り、私はため息をついた。
「どうしたら、いいんだろう・・・」
頭を抱えながら、どうしようか考えていると、突然携帯の着信が鳴り響いた。
「・・・・・・もしもし」
私は着信を見て相手が、がくっぽいどくんだったけど、出ることにした。だって、電話に出ないと何度もかけてくるから。
『もしもし、グミでござるか?』
通話口から、がくっぽいどくんの声。これがあの青いのもといカイトくんだったらどうなるんだろうって思ってしまった。
『・・・もしもし、グミでないなら、電話を切るでござるよ?』
「・・・え、あ、・・・ごめん。ちょっと考え事してた」
『そうでござるか。それで、・・・カイコっていう女の子を拾っちゃって、どうしようでござるよー』
「え?」
カイコ?
『それで、もしよかったら、カイコを引き取ってほしいでござる』
「引き取るって・・・、まずは、事情を聞かないと」
『なんだか人探しをしてるらしいでござる。・・・なんか博士っていう人らしいでござるけど・・・グミは、心当たりがないでござるか?』
「んー? 博士??」
『それと、VOCALOIDの中のカイトっていう人も探してるでござる』
「・・・その人だったら、知ってる」
しかも、ついさっきまで、隣にいた。
私の、すぐ・・・隣に。
『そうでござるか。なら、今からグミの家に行くでござるよ』
そう言って、電話は切れた。
「・・・はぁー・・・」
なんだか、ほんとに今日はだめだ。おまけに、すごく長い。ちゃんと、明日は来てくれるのだろうか? 少し心配になった。

それから、30分ぐらい経った頃。
ピンポン、と鳴ったのを聞いて、私は玄関に行きドアを開けた。
「こんばんは、グミ」
「こんばんは!」
そこには、がくっぽいどくんと、それよりも背の低くて髪の色が青い女の子が声高らかに挨拶する姿があった。
「こんばんは」
つい、挨拶を返してしまう私。
「それで・・・、この子がカイコちゃん?」
「は、はい!」
「グミ、明日になったら、カイコをそのカイトっていう人のところへ連れていってほしいでござる」
「がくっぽいどくんは? 行かないの?」
「・・・拙者は、行かないでござる」
「何で?」
「あのカイトって人がきらいだからでござる」
「・・・・・・・」
きらいって・・・。
「じゃあ、お願いするでござる。拙者はこれで」
そう言って、去ってしまう。
「忍者みたいな侍みたいな人ー! ありがとうございましたー!」
その背中に向かって、ぶんぶんと手を振るカイコちゃん。
・・・なんだか、カイコちゃんが可愛くて純粋なんだなって思ってしまった。社会に出れば、すぐにそんなもろいものなんて、崩れ去ってしまうにちがいない。・・・なんて、私が言うのもなんだけどね。
「・・・カイコちゃん、中に入っておいで。風邪ひいちゃうよ」
「はい」
私の言葉に、素直に入ってくるカイコちゃんをリビングの座布団に座ってもらい、私はテーブルをはさんだ向かい側に座ることにした。
「・・・あの、博士って誰?」
さっき電話のやり取りで気になることをたずねてみる。
「・・・・・・大好きな人」
「・・・あ、そうなんだ・・・」
しばらくして静かに答えるカイコちゃんに、私は頷く。
「でも、いくら探しても、博士は見つからないし、・・・私が大ヒット歌手になってないからかな・・・」
「カイコちゃん・・・」
なんだか切なくなってきた。
「だから、カイトくんに会いたいって、探してたの?」
「はい! あの人なら、多分博士のこと知ってるかと思って!」
途端、嬉しそうに笑みを見せるカイコちゃん。
「明日、その人のところへ連れて行くからさ、多分何もかも分かると思うよ」
私は明日になって、今言った言葉を消したくなるような後悔をすることを、まだ知らずにカイコちゃんに言ったのだった。




・・・今日は終わっても、明日がいいとは限らない。

それでも、全てを受け入れて、日常は続いていく。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

日常的環和 24話 物語は再びどこかに進んでいく・・・ 

こんばんは、もごもご犬ですこんにちは!

今回からは、カイコちゃんも新たに出てきます!><
ここから、シリアス路線になるかな・・・。

次回は、まだ未定ですが、お楽しみに!^^

閲覧数:59

投稿日:2010/12/12 17:26:01

文字数:3,223文字

カテゴリ:小説

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