5.電車。

「映画楽しかったですねー」
 私鉄に揺られて、のんびり帰宅途中。
 今日は休日だったので、久しぶりの息抜きなのだ。
 だが。
「それはいいけど、これ、服、とかさ、買いすぎじゃないか?」
 俺は両手いっぱいの荷物と足元に置かれた紙袋を、交互に眺めながら呟く。
「マスターが最近構ってくれなかったせいです」
「いやまあ、それは悪いと思って……でもなんか違うよ、これ……」
 今月の生活が不安でしょうがない。
 項垂れて、つい溜め息を吐いた。ミクがバツの悪そうな顔をしている。
 
 
 
 あーあ、しまった事した。

 
 そりゃ、ミクの気持ちだって分かる。
 最近冷たかったのだって、俺の仕事が忙しくなって、全然構ってやれなかったのが原因だし。
 この場合の構ってやれないとは、『本業』の事。
 つまり歌う事だ。
 そんな暇が無いのは、ミクだって理解してくれている。それは分かってた筈だろう、俺は。
 

 ――これぐらいのわがまま、許してやれよ。 

「……これ、この紙袋ン中」
「……何ですか?」
「赤いワンピースあったろ。あれ、今日ので一番似合ってた。
 今度あれ着てさ、またどっか行こうよ」
 
 
 恥ずい。
 とてもじゃないが、あいつの顔なんて見れない。

 
 ふっ、と、肩に軟らかな感触。
「――ミク?」
「ちょっと、疲れてしまいました。
 失礼ですけど、マスター、お肩をお借りします」
「え……あ、ああ。どうぞどうぞ」

 
 暫くして、安らかな寝息が聞こえてくる。


『可愛いなあ、おい』

 うわ、ビックリした!?

『二度目があるとは思わなかっただろー。どうも二度目まして、お前の理性です☆』
 い、いや、だから星をつけるな。
『それにしてもあれだね。我ながら物好きなもんだねえ』
 ……何の話?
『目え覚ましなよ。
 お前、人形に恋してんだぜ?』
 

 ――何だって?

 
『VOCALOIDなんて所詮作り物。作られた身体、作られた心。人間じゃないんだ』
 黙れ。
『お前とこいつは、決して結ばれない』
 黙れって言ってるんだよ。
『これは忠告だ。何度も何度も後悔してきた、お前に対する俺なりの優しさだぞ?』
 そんなもの……そんなもの、いらない!
『…………。そうかよ、じゃあいいさ。
 ただ一言、言っておくけど』

 
 そいつにあんまり肩貸してっと、痛い目見るぜえ。
 
 
 
 違う。
 違う。
 違う!
 ミクは……人形なんかじゃない。
 ミクは……こいつだけには……二度と同じ過ちは繰り返さない……。
 もう、俺は……、


「……痛っ、痛い重い痛い痛い重い!!
 ちょ、ミク痛いって! ミク起きて、起きてえええ――!!」
 

 
  


『ほら言った通り』


6.歌う。

 ♪♪♪~……。


「――んー、よし、オッケー。
 ミク、お疲れさん。ありがとうなー」
 
 ようやく仕事の方が一段落して時間に余裕ができたので、久しぶりの作曲活動である。
 ミクはというと、すごくノリ気で頑張ってくれた。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。久しぶりで、嬉しかったです」
 満面の笑みでそう言って、ペコリと頭を下げ、

 

 
 頭を上げた瞬間、渇いた笑みになっていた。
「なんで!?」
 思わず叫んだ。
「いや、なんていうか、その……ふぅ」
 黄昏るように横向いて溜め息。
 数分前の笑顔と、ハキハキとした返事が嘘のように、脱力感に溢れている。
「ちょ……なんか文句あるならはっきりと言ってくれよ」
「文句ではないんです。でもそうおっしゃるなら、はっきり言わしてもらいますよ?」
 真っ直ぐな瞳が、俺を見据えて、貫く。
 そこに込められた思いの強さに怯みそうになるが、グッ、と気持ちで堪えた。


「ありきたり」


「はっきり言うな」
 真面目に構えて損したわ。
「いや、はっきり言えって言ったじゃないですか」
 でも限度ってものがあると思う。
「毎回毎回、思うんですけどね。ちなみに今回のこれ、テーマとかって」
「『恋』だね」
「どんな感じの曲でしたっけ」
「シンプルに、爽快感のあるフォーピースロック」
「何系ですか?」
「言うなれば、アジカン系?」

 はぁ、と、本日二度目。

「ありきたりですねえ……」
「アジカンを馬鹿にするんじゃない!」
「いや、そこは馬鹿にしてないです。むしろ好きです」
「いいよねえ、アジカン。リライト好き」
「ああもう、そんな話はしてないんですよ!」
 怒号。次いで、何かが砕け、崩れ落ちる音した。
「いいですか、よく聞いて下さい」
 右手を壁に埋め、砂埃舞う中、語り始めるミク。
 俺としては、とてもじゃないが集中して聞いちゃいられない。どうするつもりだ、その壁。
「貴方は一体何のために曲を作っているんですか? いつものとこで、アップロードするんでしょう?」「ああ、まあそうだけど……でも別に、再生数がどうとか、ダウンロード数がどうとか、別にいいんだよ。俺はさ、ミクと一緒に曲が作れればそれでいい」 
「――マスター……」
 壁に埋もれた右手を、ゆっくりと降ろしていく。ミクの顔が、微妙に紅葉しているのが、気恥ずかしかった。
 こんにゃろう、この間と言い、
「この草食系がっ!」
 降ろした右手が、まるでそこへ伸びて行くのが当然のように、俺の左頬を叩いた。
 いや、叩いたなんて生易しい表現は的確ではない。
 打ち抜いたとか、壊したとか、被害者にしてみればそれぐらいの衝撃だ。
 殴られた俺は座っていた椅子から転げ落ち、頬を抑えて、ミクを見つめた。目には大粒の涙、昼ドラとかでよく見るシーンにそっくり。
「そんな気持ちで曲を作ってるからいいモノが作れないんだよ!
 作るなら、披露するならっ! 頂上(テッペン)目指す気持ちでやらないとダメなんだよ!」
 身体中で熱く語るミク。その姿はさながら某テニスプレイヤーのようで。
「私と作るものがそんな程度なの? 私はもっとやれるよ?」
 それも全て。
「マスター」
 ミクの、歌に賭ける情熱。
「もっと頑張りましょう? 本当に『良いモノ』を、一緒に作りましょう!」
 
 冗談なんて言ってる場合じゃない。
 格好つけてる場合じゃない。

 彼女は本気だ。

「ミク」
「はい」
 立ち上がって、ミクの方へと歩み寄っていく。
 俺を見つめる彼女の瞳が、期待と、決意に満ちていた。
 俺の心も同じだ。
「やろう、ミク。頂上、目指そう」
「それでこそマイマスターです! じゃあ早速、曲、作り直しましょう!
 






 
 
 でもマスターはセンス無いんで、とりあえず私に任せてください」
「全否定じゃねえか」
 協力する姿勢が一切ねえよ。



 ―……数日後。


「ほら見てください、殿堂入りですよー」
「おぉ、ホントだ! すごいなぁ、頑張ったなあ、俺達」















7.タグ。


「『病院逃げて』
 『時代が追いつけない』
 『作者は病気シリーズ』
 『現代医学の敗北』  」

「……何か大切なものを失った気がする」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ショートみっくみく。2

どうも五月雨です。
懲りずにショートです。


何故かシリーズ化していて、伏線めいたものまでありますが、気にしたら負けです!
細かい設定抜きで楽しんでいただければry

ちなみに、うちの初音ミクは「重い・硬い・強い」の三拍子揃ったスーパー系です。
あと「理性の声」ですけど、要は二重人格みたいなもんだと思っていただければ良いですね。
という訳で、読んで下さった方、いらっしゃいましたなら、ありがとうございます。

次回も期待せず待っててください(´ω`)

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投稿日:2009/08/29 00:23:48

文字数:2,953文字

カテゴリ:小説

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