「先生、娘は――!?」
急だった。私の仕事場に電話がかかってきた。血相を変えたような、リンの担当医の声がした。私はやりかけの書類を放って、病院に向かったのだった。
呼吸器をつけているリンの表情は、いつになく苦しそうだ。額は汗が流れているが、顔は海のように蒼かった。
「――少し休めば呼吸器は取れるでしょう。しかし・・・・きわめて危険な状態が続くでしょう・・・・生きていたのが奇跡だ・・・・」
考え深げな表情で医師はそう言うと立ち上がり、「お大事に」と部屋を出て行った。
「ねえ、あなた――・・・・」ルカの声が震えていた。「私、母親としてリンに酷いことをしてしまったのかもしれないわ」
私は顔を上げ、ルカのほうを見た。ルカはハンカチを握り締めて、うつむいていた。
「私――リンがこっそり病院を抜け出しているの、知っていたわ。でも、私はそれをとめることができなかった。あなたの仕事場に歩いていって、男の子と紙飛行機の手紙を交換してたいたの・・・・。私、弱かったわ。リンの気持ちを、とてもつぶせなかった――・・・・だって・・・・リンにとって、はじめての友達なんですもの・・・・」
ルカは少ししゃくりあげた。
私は黙り込んだ。言葉が出てこなかった。
家族を守るために、人を殺してきた。リンのことを思えば、ルカのことを思えば、容易なことだった。家族を思えば、なんでも出来る。リンに笑っていて欲しかった。リンを苦しめるものは許せなかったし、許さなかった。・・・・リンにとっての初めての友達を、大切にしてやりたかった。
――しかし・・・・。リンは友達に会うことで、自分の身体を傷つけてしまった。収容所の囚人のせいで・・・・リンが“ソイツ”に希望を持ったせいで・・・・。
「パパ・・・・ママ・・・・?」
リンがゆっくり目を開き、声を出した。
「リン!」
パパとママは不意をつかれたみたいだったけど、ほっとしたように私を交互に抱き締めた。
「大丈夫なの、リン?」ママは心配そうに言った。私はちょっと笑って見せた。
「――ルカ、ちょっと席をはずしてくれないか?」パパはママに言った。
「え?・・・・ええ、分かりました」
ママはほっとした表情のまま、部屋を出て行った。
「・・・・なぁに、パパ?」まだあまりはっきりしない声で、私が言った。
パパは一瞬黙り込んだけど、すぐ口を開いた。厳しくて、怖い表情だ。
「・・・・――リン、勝手に病院を抜け出して、友達に会うのは辞めなさい」
「え?パパ?嫌だっ――!!」
パパは私の宝箱がどこにあるのか、知っていた。パパは融通の利かない顔をしている私を無視して、私の宝箱の中の紙飛行機を、グシャグシャにした。私の一番の宝物は、冷たい床の上に力なく落ちた。
――――・・・・・・え?
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