!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
『二重人格と似たようなもんだ』という隆司さんの言葉が頭に浮かんだ。
二重人格や多重人格と呼ばれるものは、大抵が解離性同一性人格障害である場合が多い。だが、俺はどうにも、彼がそれだけであるようには思えなかった。マスターにも境界例の気があると思っているが、もしかすると彼も解離を併発しているだけで、同じ境界例なのではないか――今までは、そう考えていた。胎児内胎児という言葉を聞くまでは。
元は双子として生まれるはずだった二人の成長差があまりにも大きすぎることなどの理由で、一人の体の中にもう一人が吸収されてしまい、胎児の中に胎児がいるという状態で生まれた人のことを胎児内胎児と言う。
彼の言葉が本当なら、兄として生まれるはずの胎児が、今も彼の体の中にいるということになる。それとも、思い込みで別の人格を作ってしまったかのどちらかだろう。
胎児内胎児だという前提でいえばの話になるが・・・彼の両親はそのことを知らなかったそうだ。しかし、自分の中にあるもう一人の感覚は、彼には確かな感覚として伝わっていた。だから、『もう一人の自分』が出てきた時も、『自分の中にいる兄弟』なのだとすぐにわかったという。
俺はその言葉をどう信じたらいいのだろうか。確かに嘘を言うような人には見えないから、彼にとってそれはまぎれもない真実だとは思うのだが・・・それをそのまま受け取っても良いものなのか。
「これで、彼と僕の話はもう詳しくはしないけど・・・別に構わないね?」
俺の考えをお見通しとでも言うような彼の言葉に、俺は何とか頷いて返す。
嘘でもどのみち信じなければ話は進まないのだから、ここは信じるしかない。
彼は竜一で、彼の中には竜二という・・・本当は双子の兄であった方の人格がいる。何とかそう考えをまとめた時、「僕の名前はさっき言ったね?」と尋ねられた。
「はい・・・竜一さん、ですよね」
それがどうかしたのかと尋ねたかったが、マスターが今までより緊張した様子だったために尋ねることはできなかった。
一体マスターは何を感じたというのだろう。
マスターがこれほど怯える要因になった出来事・・・それは一体何なのだろう。押入れに隠れていたあの状況を見るに、大体の予想はできるが。いや、予測したくなくとも浮かぶ答えがいくつかある。そうでなければいい・・・そうでなければいいのだが、おそらくそうなのだろう。
竜一さんの口が、俺の不安に拍車をかけるようにゆっくりと開かれたのは、俺がちょうどそう考えた時だった。
「――苗字は、上条なんだ。上条竜一」
かみ、じょう・・・かみじょう? どこかで聞き覚えのある苗字だ。
かみじょう、かみじょう、かみ・・・・・・上条?
何故自然と漢字をあてられたのだろう、と考えるよりも、滑った視線がマスターに止まる方が早かった。そこでようやく気付く。
通りで、聞き覚えがあるはずだ。この家の表札にもそれが書いてある・・・上条、と。
そうだ、上条はマスターの苗字でもある。同じ苗字であることが示しているのは、多くの場合は血の繋がり。外見的には兄妹と言えなくもないが、おそらく竜一さんはマスターの・・・。
マスターの顔と竜一さんの顔を見比べる。そう言われれば顔も似ている気がしないでもない。
隆司さんの笑う声が耳を掠める。俺の視線が心地悪かったのか、マスターの表情が変わる・・・かと思ったその時、マスターの視線が逸れた。その視線は、自分の頭を撫でる竜一さんへ。俺もそれに倣うように彼へ視線を向ける。
「僕は、律の父親です」
わかっていた言葉だったはずなのにも関わらず、思わず息を呑んだ。そしてそれは同時に、俺の中にあった予感を呼び戻す。
父親、過去、男性恐怖症・・・これだけの条件が揃えば、俺の考えていることも外れてはいないだろう。マスターを気遣う竜一さんを見ると、そんなことは想像できないのだが。
過去の話をしようとしている竜一さんに大丈夫だと言うマスターは、どこか強がっているように見える。だが、聞かなければ、これからマスターを助けられないことがあるかもしれない。
複雑な気持ちを抱えて小さく息を吐き出すと、今まで黙っていた隆司さんがその話を切り出した。
「――俺と律は、竜一さんとよく一緒に遊んでてな。俺が渡米するまでは仲良くやってたんだ」
暗い空気を吹き飛ばすような明るい声。ところが、張り詰めた空気は緩むことなく、その話は竜一さんに引き継がれた。
「始まりは・・・彼が渡米した2年後、妻が巻き込まれた事故・・・いや、事件からだった」
話し辛いことなのだということがわかる表情ではあるのに、淡々と告げる竜一さん。マスターはその隣で、必死に何かに耐えているようだった。
「事件というのは・・・?」
黙り込んでいたルカさんがようやく口を開く。竜一さんは一度目を伏せた後で深く息を吐き出した。
事故という言葉をわざわざ事件と言う言葉に訂正したのはどういうことなのか。じっと竜一さんの次の言葉を待っていると、暫くして竜一さんが重い口を開く。
「最初は事故として片付けられたんだよ。でも、その1年後だ。
偶然僕が・・・いや、竜二が犯人の会話を聞いてね」
竜一さんから語られるその話は、あまりにも酷い話だった。
マスターの母親であり、竜一さんの妻であった人は、通勤ラッシュの駅のホームから転落し、特急電車に撥ねられたのだそうだ。彼女の身体は、人間の形を留めておらず、至る部分が未だに発見されていない。惨すぎる死に様だったという。
「あれは、無差別殺人だったんだ。
犯人の男は、誰でもよかったと仲間に言っていたよ。僕らが聞いているとも知らずにね」
犯人の男は、ストレス解消になったと笑っていたらしい。話を聞いただけでも、腸が煮えくり返りそうなのだから、実際に犯人を目の当たりにした時の竜一さん・・・竜二さんは、俺よりもっと憎く思ったに違いない。
大切な人を奪われて悲しみにくれていたところで、仇に会った。しかも、誰でも良かったと笑って言われたら・・・悲しみが怒りとなってもおかしくはない。
竜一さんは苦虫を噛み潰したような表情をしているだろう俺を見て、小さく苦笑した。
「その話を聞いてすぐ、危ないとわかったんだよ・・・でも、抑えられなかった。
僕は自分の体をコントロールできなかった」
ビキッと、筐体の中で小さな悲鳴。
彼が抑えられなかったのが怒りなら、コントロールできなかった衝動はきっと、尤も危ないものだったはずだ。
感情の浮かばない声は、俺の動揺を抑える代わりに空気を更に重くする。緊張に唾を呑んだ時、続く言葉が竜一さんから紡がれた。
「竜二は、犯人の男を」
もったいぶるような空白。それは、聞きたくないという気持ちを助長する。
聞きたくない。聞けば知らなかった時には戻れない。だが、聞かなければならない。聞かなければマスターを守れないかもしれない。
矛盾した感情がぶつかりあう。
俺の複雑な感情を知っているのかいないのか、竜一さんは一つ息を吐き出した後で、その目に強い光を宿した。
「律の母が殺された駅のホームで――殺したんだよ」
沈黙に落とされた声が空間を支配する。広がった波紋は俺たちに染み渡り、再び辺りを重い沈黙が包んだ。
→ep.43 or 43,5
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