今まで行動を共にしていたはずの二人が、突如として、俺に刃の矛先を向けていた。
「おい!どうしたんだ二人とも!」
呼びかけても二人から返事はなく、次の瞬間、俺はワラの放った大蛇の如き草日から身を翻していた。
「ミクオ!!どういうことだ!」
振り向くとミクオのいた場所に巨大な光の円が飛び去り、それはコンピュータールームの椅子やPCを切り刻み、鎌の形となってヤミの手に戻った。
そして上空からミクオが舞い降りた。
「メイトさんは、特定したナノマシンを遠隔操作し、自分の体のように扱える装置を所持しています。恐らく彼女達はそれのせいで意志とは別に体を操られているのでしょうッ・・・・・・!!」
言い切ろうとしたミクオの眼前に、赤いオーラを放つ鎖の大蛇が襲いかかる。
それをミクオは、全く体の姿勢を変えずに回避した。
「どうしますデルさん。彼女達に攻撃しますか。」
ミクオが、決断を俺に迫った。
普通に考えれば、いくら操られていようとワラを攻撃することなど俺にはできない。
だが、この圧倒的な戦闘能力の差。俺が彼女達を傷付けずに行動不能にすることなど、まず不可能だ。
手加減を加えようとすれば、一瞬で切り裂かれてしまうだろう。
そう考えていた時、執拗な攻撃を続けていた二人は一度身を寄せ合い、そして、ヤミは紫色の、ワラは朱色のオーラを放ち始めた。
次の瞬間、二人の体が宙に浮き、前後から俺達を取り囲んだ。
「彼女達を傷つけることはできない・・・・・・だが!!」
言うと俺はボルトガンを抜き、ヤミに向けて数発の電撃を放った。
だがその時、ヤミの全身を紫色のオーラが包み、コートの様な形を形成すると、俺の放った電撃をその中に吸い寄せた。
「何・・・・・・?」
なにが起こったのか理解できずにいると、ヤミは手にした鎌を一瞬にして振り落とした。
俺の鼻先数センチの真空が引き裂かれ、床に大きな切れ目が走る。
「デルさん・・・・・・どうやら、生易しい考えは通用しないようです。ここは多少なりとも、彼女達を傷つけることを覚悟しなければ。」
「駄目だ!それはできない!!」
「まだそんなことを!!」
ミクオと口論をしている内にヤミのアームカバーから数本の鎖が落されると、彼女の手の動きに合わせ、まるで意志を持ったようにコンピュータールームの床を這いずりまわった。
鎖はやがて大蛇の姿となり、俺とミクオに牙を向け跳躍する。
「仕方ない!」
俺はハンドガンで鎖の大蛇を撃ち落とし、続けてワラに向かってボルトガンの電撃を放った。
だが、それも鎖の大蛇によって阻まれてしまう。
「チィッ・・・・・・!」
俺は舌打ちを放った。
本当に打つ手はないのだろうか?
「そうだ、デルさん!あの注射器はありますか?!」
振り下ろされたヤミの鎌を白刃取りで受け止め、ミクオが叫んだ。
注射器・・・・・・ここに来る前にクロギンに渡された、ナノマシン抑制用のものだ。
注入すれば、ナノマシンの機能を止めることができる。
と、いうことは・・・・・・。
「持ってる!!だが、上手くいくのか?!」
どうにか返答し、群がる大蛇達を払いのけた。
「それしか適当な方法がないでしょう!!」
「そうだな!!」
その時、突然ヤミがマザーコンピューターの設置された高台に飛び上がると、ワラの操る鎖の大蛇が床を抉り、その中に潜り込んだ。
「まさか・・・・・・デルさん、下がって!」
ミクオが言った瞬間、足元から凄まじい振動が鳴り響き、俺は反射的に身を退いた。
次の瞬間、床を突き破り数本の鎖、いや大蛇が、天井高く舞い上がった。
大蛇の牙の間から、コンクリートや鉄筋が零れ落ちる。
「で、お前の作戦は成功できそうか?!」
「先ずは彼女達を地上に降ろさないとね!!」
「よし!ミクオ、ヤミを頼む!!」
「了解です!」
言葉を終えると、俺は襲いかかる大蛇の群れに自ら突入し、その中に一匹が俺に襲いかかった瞬間、俺はその頭を蹴りあげ、空中に浮かぶワラに向かって跳躍した。
ワラは俺の姿を見詰めたまま微動だにせず、俺は彼女の体を抱きかかえ、地面へと舞い降りた。
無論大蛇達は主の危機とばかりに俺の体に巻きつき、信じられぬほどの怪力で俺の全身を締め上げた。
俺は骨が軋む痛みに耐えながら注射器を取り出し、一心不乱にワラの首筋に針を突きたてた。
今、彼女達がナノマシンの遠隔操作によって操られているとするなら、このナノマシン抑制剤によって体内のナノマシンを機能停止させれば、遠隔操作もできなくなるはずだ。
液体が彼女の体内に浸み込む音と同時に、大蛇達は俺の体から離れ、いつの間にか、ただの鎖に戻っていた。
よし。
「ミクオ!こっちは片付いた。そっちはどうだ!!」
「むっずかしいですねぇ!」
ミクオはヤミの振りまわす巨大な鎌と、オーラで形成されたコートで一向に接近できず、むしろ苦戦を強いられている。
俺は意識を失ったワラの体を寝かせると、両手にサブマシンガンを持ち何の躊躇いもなくヤミのコートに向けて一斉射撃を開始した。
コートの表面が次々と抉り取られ、そして次の瞬間、彼女の体が大きくのけぞった。
手にしていた鎌が彼女の手から滑り落ち、床に深々と突き刺さった。
「今だ!ミクオ!!」
「ハイッ!!」
ミクオは俺と同じようにヤミの体を抱きかかえ、床に着地すると同時に背後から彼女の体を拘束した。
「さぁ、デルさん、早く!!」
俺は二本目の注射器を取り出し、暴れ狂う彼女の首筋に突きたてた。
「ひっ・・・・・・。」
彼女は小さな悲鳴を上げ、そして力尽き、全身から力を抜いた。
「さ、デルさん。早くワームをコンピューターに注入してください。マザーコンピューター前の端末でできます。」
「分った。」
俺はコンピュータールームの高台に上り、タワー状のコンピューター前にある端末に、ワームの入った光ディスクを挿入した。
「ミクオ!これでいいか!」
「十分です。」
高台から降りると、丁度二人の意識が戻っていた。
「二人とも、大丈夫か?」
声をかけると、二人とも、申し訳なさそうに俯いた。
「・・・・・・本当に・・・・・・ごめんなさい。」
ヤミが震えた声で、言葉を発した。
どうやら、あの状態でも意識はあったらしい。
「・・・・・・気にするな。こんな状況だからな。」
「デル・・・・・・!!」
突然、俯いていたワラが声を上げた。
「なんだ?」
「これで・・・・・・さっきの事はチャラだけど、あんまり、やりすぎちゃったから、なんて言ったらいいか・・・・・・。」
言いながら、ワラが顔を逸らし、言葉を詰まらせた。
そう苦しそうに悶える彼女の頬に、いつの間にか、俺の手が添えられていた。
「!」
「いいんだ。謝罪の言葉はいらない。俺はワラが無事でいてくれればそれでいい。」
歯に衣を着せず、自分の本心のありのままを曝け出したその言葉で、なぜかワラの顔が紅潮していった。
「ワラ?」
「何でもないッ!ほら、用が済んだなら、早く脱出ッ!!」
何かの恥じらいを隠しているような仕草が、どこか可愛らしい。
「そうだな・・・・・・さっさとここからおさらばするか。」
俺達がコンピュータールームを出ようとした時、一度ミクオの姿を探したが、既に彼の気配はこの部屋から消え去っていた。
SUCCESSOR's OF JIHAD第七十話「Indulge in TWO」
「Indulge in TWO」(short ver)
song by YAMI BIYOUNE&WARA SATSUNE
現(うつつ)の怠惰を その刺激で壊したい
闇から伸びる手を取り 一緒に夢に来て
触れ合う髪と髪劣情の香り 惑わせて
溶ける・・・
刻(とき)も秩序(ルール)の意識も 快楽に消されて
紅く染まる口付けが 私を射止め掻き回す
か細い腕と腕狂おしいほど 縫いつけて
交る・・・
傷つくほどに
蕾からの滴りを 掬いあげ 小指でかき混ぜる
甘い蜜に葛藤と苦悶が映り そして溢れ出す
浸み込むその熱で 二人喘ぎ 溺れましょう
まだ戸惑うというのなら 尚更 その恥辱を責め立てて
美しい花と花が身を寄せ 愛で合い溶け交る
我を忘れ 散りながら
光り無き夜は途切れず 二人 闇に沈めれば
深紅の月垣間見え 理性が壊れる
求めあって 痛みと 快楽と この一瞬
さあ 罪を着るこの花は今宵限り
過ちのために自ら舞い散る
赦されざる情悔むほどに
悶絶の蜜は芳しく
蟲惑の檻は刹那の楽園
互いに悪夢を愉しんで
絶頂に達したその刻こそ
この魂が 救われるの
夢に・・・(夢に・・・)
溺れて・・・(溺れて・・・)
紫闇と深紅が続く限り 咲き乱れ散る二弁の華
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