UV-WARS
第二部「初音ミク」
第一章「ハジメテのオト」
その5「彼の作ったボーカロイドたち・3」
「テッド君、君の作ったヴォーカロイドたちを、桃ちゃんに見せてやってくれ」
「え?」
長年テッドの家に出入りをしていたテトが、ミクたち、ユーティリティープログラムの存在を知っているのは当然だった。
キャラクターが動くパソコン用のユーティリティーソフトとしてフリーソフトとして発表しているのも知られているだろう。
パソコンの中でミクたちが生活していることは、テッドはテトに説明していなかった。
とりあえず、テッドはミクたちをデモンストレーション・モードで呼び出すことにした。
「ミク、『ちょっとだけ顔を出してくれる』かい?」
「はい、マスター」
即座に返事が返ってきた。
レスポンスの良さには若干自信があった。
リビングのテレビ画面中央に、唐突にミクが現れた。普段なら画面の端から遠慮がちに顔を出すミクがけれん味たっぷりの笑顔で挨拶した。
「おはようございます、マスター」
テッドはゆっくりめの言葉でミクに命令した。
「お客さまにご挨拶を」
ミクの視線がテッドからテトに移り、彼女、百瀬桃に移った。
「初めまして。ユーティリティーソフトの初音ミクです。お名前をいただいてもよろしいですか?」
自然な発音に桃は目を丸くさせていた。
「も、百瀬桃です」
桃の語尾が若干震えていた。
「『百瀬』様ですね」
画面のミクの右に吹き出しが現れ、名字の「百瀬」を表示した。その下に名前の候補を表示した。
「お名前は『桃』でよろしいですか? それとも、『腿』、『萌々』、『藻々』の中にありますか?」
テトはにやっと笑って言った。
「桃ちゃんの『も』は『喪中』の『喪』。次の『も』は『模型』の『模』だよ」
テトの言う通り、「喪」の字が表示されて、桃は真顔で慌てた。
「了解し…」と、ミクが言いかけて、桃は声をあげた。
「違います! 最初ので合ってます!」
すると画面上の名前の候補が消え、「桃」の一字だけになった。
「分かりました。百瀬桃様ですね」
テトが何かを思い付いた様に目を輝かせた。
「桃ちゃん、名前だけカタカナにしない?」
「はい。でも、どうしてですか?」
「個人情報はあちこちに残すものじゃないし。まあ、ハンドルネームだと思ってね」
「はあ」
「オーケーということで、ミク、桃ちゃんの名前をカタカナの『モモ』に変更して」
「了解しました。以降、『モモ』さんとお呼びします」
画面の中のミクは言い終えると、手を前で組み、ホテルマンのような直立不動の姿勢で固定された。
テッドは桃の表情を確認した。少し興奮して頬がほんのり赤く染まっていた。
まあまあ好意的な表情にテッドは少し安心した。
テトは桃を促した。
「なんでも質問していいよ」
「え、いいんですか」
嬉しそうな表情がテッドには意外だった。
「じゃ、じゃあ、明日の天気を…」
笑顔を湛えたまま、ミクが口を開いた。
「この地方の明日の…」
言いかけたミクを桃は遮った。
「待って! 駅へ早く行くにはどうしたら、いいの?」
「はい、この家の裏に坂を登る階段がついています。それを上がって、国道の反対側のバス停から富橋駅行き…」
「じゃあ、あなたのオススメの唄を教えて!」
「有名なところでは『Tell Your World』ですが、『ODDS&ENDS』や『sky of beginning』も捨てがたいです」
「ねえ、その場でターンして」
「はい」
ミクはくるりと体を翻して、三百六十度回った。
「逆立ちは出来るの?」
「はい。でも、…」
「『でも』?」
「本当にやると、スカートが捲れてしまうので、今日は勘弁してください」
そう言うとミクは少しはにかんだように俯いてミニスカートの裾を摘まんだ。
見ると、桃は口を開いたまま画面を凝視していた。
画面の中のミクが待機状態に戻って、桃はスローモーションのように拍手を始めた。
桃はテッドとテトの視線を感じてはっと我に返った。
テッドを捉えた桃の瞳の中には無数の星が瞬いているようだった。
「スゴい! スゴいです! 哲人さん、完璧です!」
だが、それを聞いたテトの表情が憮然としていた。
桃は嬉々としてはしゃいでいた。
「テトさん、今の反応なら問題ないんじゃありませんか」
「うーん、どうだろうねえ」
テトは釈然としていなかった。
桃の顔が少し強ばった。
「でも、今のレスポンスと割り込み処理なら…」
「桃ちゃん、私たちが造ろうとしているのは、人間の言うことを聞くロボットじゃないでしょ」
テトは意味深なことをさらっと言った。
何かに納得したように、桃は少し俯いた。
「でもね、わたしがちょっと残念なのは、テッド君が、自慢のヴォーカロイドたちを出し惜しみしていることなんだよねえ」
テトは横目でテッドに刺すような視線を放った。
テッドは体を引き気味にして抑えた声を出した。
「え…と、それは、普段通りでいいのかな?」
テッドの言葉にテトは首肯した。
それを見てテッドは再確認した。
「テト姉、いいのか?」
それは大幅な方針変更を意味した。
初めて彼が作った関数を組み込んだミクをテトに見せたとき、パソコンの中のミクの存在を秘匿するように助言したのは他ならないテトだった。その時、テッドはミクを使わないことをテトに言ったつもりだった。
「時は来た、のさ」
そう言うと、テトはVサインを作って突き出した。
〔何の「時」が来たんだよ〕
テッドは心の中で舌打ちをしたが、すぐに気を取り直して、ミクに話しかけた。
「ミク、『お芝居はおしまいだ。みんなを呼んできて』くれ」
それを聞いてミクの固定ポーズが解けた。
ミクは敬礼して微笑むと、小走りで画面の端に消えた。
画面が真っ暗になり、桃はテトを振り返った。
「テトさん、これから…?」
「ああ、始まるよ、本番が」
「本番、って、さっきのは? 完璧でしたよ。これ以上、一体、どんな…」
テトは無言で画面を指差した。
桃は画面に向き直った。
画面の左端に黄色いショートヘアの少女が顔を出した。
少女は、桃と目が合うと慌てて顔を引っ込めた。
「…」
テレビからぼそぼそと話す声が聞こえて来た。
桃が耳を澄ますと、途切れ途切れに何人かの会話が聞こえてきた。
「…美人だよ…」
「…でも、テトさんと一緒…」
「…恋人じゃなくて、変人…」
「…だれうま…」
肩を震わせつつも、テッドは怒りを抑えて言った。
「みんな、ぼそぼそ話すのはお客様に失礼だって、教えなかったかなあ」
途端に画面の端から数人が走り出して整列した。
先程自己紹介したミクと黄色い髪の少女の他に、六人のヴォーカロイドたちが現れた。
合計八人は自己紹介を始めた。
「さっき自己紹介した、初音ミクです。マスターのスケジュール管理とシステムの管理をしています」
「鏡音リンです」
画面の端から顔を出した黄色い頭の少女がお辞儀をした。
「マスターのゲームに関するあらゆることを管理しています。レベリングもします」
その隣はリンとよく似た風体の少年だった。
「鏡音レンです。マスターのテレビやビデオ、DVDに関する管理をしています」
その隣はピンク色の髪のグラマラスな女性だった。
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その次は、赤いセパレーツを着たやはり肉感的な女性だった。
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その隣はポニーテールというよりちょんまげに近い長髪で羽織袴の背が高い男性だった。
「神威がくぽです。外出時のナビゲーションシステムです」
大まかな自己紹介が終わった。他にもいざというときの機能もあるが、そこまで説明する必要はないとテッドは思っていた。
ミクは画面中央に進み挨拶をまとめた。
「以上、八名が、この家のヴォーカロイドです」
八名が声を揃えた。
「どうぞ、よろしく」
画面の中でヴォーカロイドたちは深々とお辞儀をした。
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