「だ・・・誰もいないって・・・それ、どういう事だよ?」
呆れ半分驚き半分の表情をしたままレンはリンに問う。リンは叱られた子供の様にシュンと項垂れ、何も言わない。
「・・・まさかとは思うけど・・・もしかして・・・離婚・・・?」
「い、いや、そんなんじゃないの!」
レンの言葉にパ、と顔を上げリンは反発した。少し吃驚してレンが目を見開くとリンは直ぐにまたシュンと項垂れ小さくごめんなさいと呟いた。
・・・リンってこんなに弱々しかったっけ・・・?
リンの様子を見ていて、レンはふとその様な事を考えた。レンの知っているリンは何時でも元気が取り柄で、誰かがしょげていたらその子を励まして一緒に笑いあう、そんな子だった。泣く所なんてそんなに見た事が無い。どんなに哀しい事があっても誰にも悟られない様にしている、そんな少女だった。
ふと、先程の柔道場での事が思い出される。勝負に勝ったのは何時もの事だったが、改めてあの近距離でリンが変わった事に気付かされた。
自分のものよりも柔らかそうなサラサラとした金髪、空の様に晴れ渡るスカイブルーの瞳、そして何よりリンは変わっていた、否、現在進行形で変わっていってる段階だろう、あどけない少女の面影を僅かに残したその顔は確実に彼女を大人の女性へと変えていっていた、否、変えていこうとしている段階だ。何故かあの時妙に自分の鼓動が早く感じたのだが、それが何なのか、まだこの時のレンには分かるはずも無い。
「あ、あのね・・・」
暫くの沈黙の末、リンが僅かながらに声を大人しくして語りだした。
「お父さんの転勤でこっちに戻ってきたのは本当なの。でも場所が前にいた場所じゃなくってここよりももっと都会の方なの。あたしはこっちの高校に・・・レンやミク姉が通ってる高校に行きたくって・・・でもお父さんの方に着いて行ったらこっちに来るのにかなりの時間が掛かるし・・・だから、お父さんとお母さんはそっちの・・・お父さんの会社に近い方に引っ越していって・・・あたし一人だけこっちで生活する事になったの」
へへ、と寂しそうな、哀しそうな表情でリンは笑った。その表情を見て、ズキリとレンの胸の奥が痛んだ。
「大丈夫・・・なのか?」
「多分!」
「多分てお前なぁ・・・。ゴミ出しの日とかちゃんと自分で出せるのか? 分別とか最近五月蝿くなってるからなぁ、エコだーとか言って。それに自分できちんと一ヶ月分の食費とか生活費とか計算しなくちゃいけないし・・・意外と大変何だぞ、一人暮らし」
何処ぞの近所の小母さんだよ、と心の中で突っ込みをいれ、そう言えばレンがこんな風に一人暮らしに詳しいのはあんな理由だったなぁ、と言う結論をリンの頭は叩き出した。
「そう言えばレンは一人暮らししてたっけね。ずっと」
リンがそう言うとレンは「まぁな・・・」と言ってはぁ、と溜息を付いた。
「父さんも母さんも海外で仕事中。此処二、三年は連絡すら寄越さないよあの親共・・・」
全く・・・と愚痴を零しているレンの姿にクスリとリンは懐かしそうに笑った。
レンの両親は共働きで、特に父親は大きな会社を営んでいて今は・・・まぁ、昔からだが姿を見る事は少なかった。母親はそんな父親をフォローする様に旦那の体調管理を身近でサポートしている、なので常に二人は一緒にいる事になり必然的にレンは一人でいる事が多い子供だった。けれどだからと言って愛情に飢えている訳でもなく、レンが小学校を卒業するまでは何時も運動会や学校行事に参加してくれた。けれど、レンが中学中盤に差し掛かる頃に父親の経営する会社が大穴をあて、次々に海外事業を成功させてきた。その所為で両親は海外に半移住生活となり、レンは実質的な一人暮らしをしている事になるのだった。
「やっと笑った」
「え?」
リンがレンの方を見るとレンが先程リンがした様にクスリと微笑んだ。
「この帰り道中、ずっとリンしょげてたからな。やっぱリンには笑顔が似合うよ」
如何したらそんな台詞がサラリと言えるのだろうか。やっぱり鈍感だからですか、作者! (多分、そうです by 作者)
恥ずかしさで思わず顔を逸らしたくなったが、それを堪えて、リンはレンの方を見据えて、
「有難う」
と言った。その表情はレンの知っているリンではなくて、其れでもリンに変わりは無く、女性の柔らかな微笑みに近かった。
トクン、と自分の心臓が跳ねた気がした。
「・・・そうこうしてる内に着いたな」
「あ、そだね」
えへへー、とリンは笑う。先程の柔らかな笑みではない、この年の少女なら誰でもするであろう純真無垢な笑いであった。
しかしその笑顔は何処か寂しげで。だから、そんな顔、見たくなかったから、
「・・・良かったら、うち、寄る?」
「え?」
レンはリンにそう言っていた。
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イマジンが肥大する
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