それは8月15日の午後12時半に起こったこと。
今年の最高気温を記録したという外とは無縁の室内で
自堕落な時間を過ごしていたとき、買い物に出ていた兄が咳を切らして帰ってきた。
やけに騒々しく階段を登ってくる。
大きな音をたてて部屋に飛び込んできた兄は、滝のように流れ落ちる汗を拭おうともせずに、こちらをひたと見つめて、掠れた声を発した。
「――――――――……。」
よく、聴こえなかった。
もう一度訊ねようと口を開いた瞬間、何種類ものサイレンが音の洪水となって聴覚を掻き乱す。
びくりと肩を竦めた。
逆に兄は焦るような表情になり、一瞬躊躇したあとに、
「来い!」
と有無を言わさず腕を引っ張って家を飛び出した。
大学生の兄は力もあり、体力も中学生とは段違いだ。 その兄に腕を掴まれたまま、全力疾走なんてされるものだから、まるで自分が風に翻弄される木の葉のように思えた。
息が切れる。揺れる前髪が視界を乱す。 部屋着のTシャツが体にべたりと張りついた。
「いっ……たい、な…にをっっ」
腹式呼吸の合間にどうにか言葉を絞り出したとき、周りの様子がおかしい事に気がついた。
この時間帯、大抵の家は昼食をとっているはずなのに、今日は妙に人通りが多い。
携帯やビデオカメラ、中には打ち水用であろう柄杓をもったおじさんなど、様々な人が皆一方向へ向かって小走りで進んでいく。
その間を突っ切った先に、黒い煙のようなものが見えた。
足を前に進めるほどに、いろんなものが視界に入っていく。
道路を分断するように固まった人達。
パトカー。
救急車。
消防車。
黒々とした煙をあげて燃え盛る、君の、家。
立ち止まった兄が大声でなにかを叫ぶ。
ああ、五月蝿いなぁ。
人の声と、サイレンと、蝉の声。
身体中から水を出してるくせに、一向に涼しくならない。
かわりに喉が貼りつきそうな激しい渇きを感じる。
暑さのせいだろうか、周りの景色がぐにゃぐにゃと歪んでいる。 これ、蜃気楼って言うんだったっけ?……違った気がする。
赤々と揺らめく炎の中から、銀色の防護服に身を包んだおじさんが1人、何かを抱えて出てきた。
全体が赤黒い『ソレ』を見た消防隊員が顔を歪め、慌てた様子で救急車に人を呼びにいった。
そっと担架に乗せられて運ばれていく様を見ていると『ソレ』から何かが落ちるのが見えた。
誰もそんな細かい事に気をはらっていられないのか、道路の上に放置された薄い四角の物体。
外装がひしゃげた、目に馴染んだ機械。
「う……そ…」
理解する。
全て、全て。
知りたくない情報や推測が頭の中で暴れまわる。
君の笑顔にはもう会えないことを。
君の声が聞けないことを。
わかったまま、叫ぶ。
「う、嘘。嘘。嘘。う、そ、嘘だあぁあぁぁぁああ!!!!」
「嘘じゃないよ」
歪む景色の中、誰かが何かを呟いた。
「だれ……?」
返事はなく、ただ嗤(わら)った気配だけが返ってくる。
ゆらゆらと気が立ち上る………陽炎(カゲロウ)の向こうで、なにより騒がしい蝉の声が世界を掻き回す。
これは、始まりに過ぎなかったのだと、気づくのは後のこと。
君との、実によくある夏の日のはじまり。
コメント3
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ご意見・ご感想
ゆず玉
その他
嘘だああぁああ! もしくは夢だ!夢で良いから醒めないで!←「夢ジャナイゾ」ッテ嗤ッテル
こここんな作品を読んでいただいてありがとうございます(>_<)
これからも頑張ります!
…コメント欄に書いても意味ないかww
2012/02/28 01:34:54
姉音香凛
ご意見・ご感想
自分の作品にメッセージ送るってなんかむなs((おい
タイトルがチラッと見えて繰り返し一粒かt(ぇ
あたしも書いたけど、こういう解釈もあるのか・・・!
なんだか面白い展開になってきたのでブクマもらうぜっ! ノシ
2012/01/07 08:24:13
ゆず玉
ふああぁっ!!
貴女は神d((おちつけ
書いたものにコメ&ブクマもらったのはじめてだっ
d=(^o^)=b
ありがとう(ToT)
とにかく曲に はいりたかったから今日←昨日か
頑張った!
続き書けたから、よかったら見てね♪
香凜 大好きだーーー!!!!
2012/01/08 00:41:26
ゆず玉
その他
始まってばっかで続いてないっ(((・・;)
いまさらな事実に愕然……
と言うわけで自己解釈小説第3弾!!
「カゲロウデイズ」でございまするo(^o^)o
自分の作品にコメ出来ると知ってやってみた
でもコレどんなオレ得が?
…………ただの自己満足かっっ(^q^)
無事に続いたら、誰かメッセください………
冒頭オンリーでも 「コレ書きますよ」って意思表示のつもりだそ!
とりま流血苦手な人は咲けた方がいいです。
2012/01/07 02:02:25