勉強会といっても、そんなに難しいことはやっていない。作曲初心者にいきなり専門用語を羅列したって理解できるはずがないからだ。
流石に知っているか否かで仕上がりに大きく影響する基本の部分は嚙み砕いて説明したが、リンちゃんは体験して覚えるタイプらしいので、最初はその場で音を鳴らして理解させてきた。今は基本的にリンちゃんが好きなように作った曲に時折り僕がアドバイスをする、といった形式を取っている。
必然的に手が余る僕はというと、いつもは自分の曲を書いたり趣味の本を読んだり音楽を聴いたりして時間を潰していた。しかし、今日に限ってはそれをするよりやりたいことがある。
「レンくんも作曲をするんだって?」
少しでもレンくんを安心させてあげるため、また警戒心を収めてもらうために彼とコミュニケーションを図ることだ。
「ええ、まあ。そんなに大したものじゃないですけど」
オリジナルブレンドのコーヒーのカップを弄びながら、素っ気無くレンくんは言った。面白くなさそうな表情はまだ僕を信用していないということだろう。
「そんなことないよ。一度君の曲を聴いたことがあるけどすごかったよ?」
「……そうですか?」
少しだけレンくんの声のトーンが上がる。やはり好きなものを褒められると悪い気はしないようだ。
「うん。デュエットを意識した上での転調とか、なかなかハマッてたと思うな」
「あれですか……。えっと、あれはたまたま思いついただけで、こう、ぱっと閃いたというか」
レンくんは目を逸らしてコーヒーを一口含んだ。自分の本来の実力ではないと考えているところを褒められて、少し居心地が悪そうにしている。
「ああ、あるよねそういうの。ときどき思ってもみなかった演出を考え付くこと」
「そうですね。調子いいときとか、気分が乗ってるときとか、たまに出てきます」
いくらかレンくんの口元が柔らかくなった。得意分野の話題だと初対面でも話しやすいし、共感を得られると嬉しいもの。これで少しは気を許してくれたかな?
話が一区切り付いたところで、僕は自分のエスプレッソに手を伸ばした。
「そういえば、カイトさんはリンとどうやって知り合ったんですか?」
それまで紙面にノリノリで書き込んでいたリンちゃんの手が止まる。
「リンに聞いてもどうしても教えてくれないんですよね」
顔を上げたリンちゃんをちらっと見てから、レンくんはどうなんです? という目で僕を見た。なるほど、疑念のもとはそこにもあるわけか。
リンちゃんの顔色を窺うと、言わないでお願いと目が語っていた。板ばさみになった僕は視線を泳がせながら
「それはまあ、不幸な事故、みたいなものかな?」
と言葉を濁す。すると、何事を察したのかレンくんは可哀想なものを見るような視線を僕に向け、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。リンがご迷惑をおかけしたみたいで」
「いやいや! いいんだよ!? ほんとにちょっとしたことだから」
一気に態度が変わったレンくんにこっちが狼狽してしまう。どうやら彼の中で僕は、姉に付いた悪い虫から姉に巻き込まれた可哀想な人という位置付けになったらしい。
一方のリンちゃんはといえば、レンくんの言い草に不服そうに頬を膨らませていたが、深く追求されるのが嫌なのか黙ったままだった。
なんとなく、リンちゃんは色々な人を巻き込んできたんだろうな、そしてそれにレンくんは振り回されてきたんだろうな、と推測できてしまう構図だった。
「あ、ねえねえカイにぃ。ちょっといい? ここなんだけど」
話を遮るかのようにリンちゃんが書きかけの譜面を見せてくる。
「ここがな~んかしっくりこないっていうか、こんな雰囲気なんだけどでもこうじゃない!みたいな……」
「どれどれ。ああ、ここか。そうだね、ここは……」
とってもふわっとした感覚的な表現だけど、譜面を見ながらならなんとなく言いたいことは伝わってきた。
リンちゃんは上手く言語化できないのが歯がゆいらしく、もどかしそうに眉根を寄せている。
「おい、リン。俺にも見せ……」
「やだ!」
微妙に見えにくい角度だったらしく、椅子から腰を浮かせて楽譜を覗きこもうとしたレンくんにリンちゃんが鋭くNoを言い放つ。
「ダメ! これは私とカイにぃで作るの。レンには見せない!」
そう言ってリンちゃんは楽譜をレンくんの手の届かないところに避難させる。まだ地味に喧嘩が続いているのだ。
苦笑いして眺めていると、むっとしたレンくんが自分から遠ざけられた楽譜に向けて強引に手を伸ばした。
「いいから! 貸してみろって」
「い~や~!」
一見するとじゃれ合っているように見えて微笑ましい。だがレンくんが不安定な姿勢で楽譜を奪い取ろうとしたため、ちょっとした悲劇が起きてしまった。
二人が掴んだ楽譜が引っ張られて中ほどまでびりりと破けてしまったのだ。
「「あっ……」」
二人の口から同じ言葉が零れ、手を離された楽譜がひらりとテーブルに落ちた。
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MVライフ
おにゅうさん&ピノキオPと聞いて。
お2人のコラボ作品「神曲」をモチーフに、勝手ながら小説書かせて頂きました。
ガチですすいません。ネタ生かせなくてすいません。
今回は3ページと、比較的コンパクトにまとめることに成功しました。
素晴らしき作品に、敬意を表して。
↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲

時給310円
君を探すために旅に出た
ポケットには 伝えたかった言葉を詰め込んで
「大丈夫、大丈夫だよ」
そうやって自分に言い聞かせながら
心の奥へ そっと踏み込む
君と一緒に歩いたあの道を辿る
ひとりだと 少しだけ前より寂しくて
夕暮れに染まる空を見上げて 走り出す
あの輝く星を追いかけて
止まっていた時計の針...君を追いかけて

ほむる
<1>
穢れの禊(みそぎ)で生まれた
母の温もり 知らぬまま
行き場のない悲しみが 山を枯らし 川と海を干す
父神の命に背いて 黄泉国への旅をただ願うが・・
姉神との誓約(うけい)を交わした後に
裂け出でる荒神の性(さが)
荒んだ心の絵図を 天上界に描き出す
この激情 誰か受け止めよ
<2>...日本神話 スサノオ

のづたかし
命に嫌われている
「死にたいなんて言うなよ。
諦めないで生きろよ。」
そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。
実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて
「それが嫌だから」っていうエゴなんです。
他人が生きてもどうでもよくて
誰かを嫌うこともファッションで
それでも「平和に生きよう」
なんて素敵...命に嫌われている。

kurogaki
深い深い森の中
ボロボロな旅人は
その身を休めるために
この地を訪れた
涙は出てないけど
心は疲労していた
何にも癒されない
森の中でさえも
痛みの最後はゆっくりと
落ちていく夢...旅人よ

ほむる
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