いきなり背後から聞こえた高い音声に、レンはすぐさま振り返った。
 光るように透き通ってきたはずのリンの目に光はなく、人形のようにその場に固まっている。即座に状況を理解することは出来なかった。
 崩れ落ちることはなく、しかし動くこともなく、ただ、その場に『あった』一つのロボット。
「…リン?」
「どうしたのよ?」
 素早くレンが動き、リンの状態を見るが、少し困ったように首をかしげた。
「おかしいな、人工知能が全部強制終了されてる。…取り敢えず、様子を見るために、一旦見てみよう。皆は楽しんでていいよ。ちょっと、リンと席をはずすだけだから」
「あ、なら、私もいく。妹分の危機でしょ?」
 茶化してみてから、『MH―2号機』はリンを抱き上げたレンを後ろから押すようにして、部屋を出た。流石はVOCALOID、その腕力は半端なものではなかった。
 コンピュータールームの扉を開き、入り口近くのスイッチを手探りで押すと、真っ暗だった室内に、ぱぱぱっと碧く光が灯り、いくつもの大きなコンピューターが起動して、人三人ほどがゆうに登れる程度の広さのステージにも明かりが灯った。そのステージの上にリンを座らせてヘッドフォンに数本のコードを差し込むと、コンピューターが状況の解析を始めた。
 これで、異常の正体はわかるはず――
『異常は見られませんでした。解析を終了します』
「な…っ!?異常がないだと?壊れたのか、このポンコツ!」
 広いキーボードを強く叩き、レンは叫んだ。驚いたようにミクが身震いをした。
「あ…。悪い」
「レン君、私をここのコンピューターにインストールして。コードを通して、リンちゃんの人工知能の異常を探してくる」
「いや、異常の原因がわからない以上、行かせられない。被害が拡大する恐れがある」
「大丈夫、心配しないで。すぐに戻ってくるから」
 強い意志の目。
 少し黙っていたレンも、ため息をついてキーボードを叩き始めた。了承した、という証だ。
「十分以内に戻ってこなかったら、データをデリートする。いいな?」
「…うん」
 言うと、『MH―2号機』は自らコードをヘッドフォンに接続し、ステージに腰を下ろして目を閉じた。

 体中にぴりぴりとしびれるような刺激と、データの移行から来る浮遊感に襲われ、その場に崩れそうになる。そのおかしな感覚から開放されて、やっとこの状況を思い出し、ミクはただただ真っ黒なその空間を歩いていた。
「リンちゃん、どこー?」
 VOCALOIDというものは、ほぼ人間と同じように出来ていて、人工知能の中に人間で言う『自我』や『魂』、『精神』といったものの塊のようなものがあり、データの集合体である。それは、ほぼVOCALOIDの人格を形成しているので、それに直接呼びかけることに成功できれば、リンのデータと直接リンクすることが可能だ。
 時折赤い文字の羅列が見えるが、恐らくそれもリンのデータのうちの一つだろう。
「リンちゃん、リンちゃーん」
 何も答えるものはいない。
 あまりこの空間にいると、彼女自身もリンのデータと成り代わり、元の『ミク』としての形に戻ることが出来なくなってしまう可能性もある。先ほどレンが言っていた「十分以内」とは、このためだったのだ。
 歩き続けること、五分ほど。そろそろ焦りが出てくる。
「リンちゃん、どこにいるのっ?」
「…だれ?」
 聞き覚えのある声。
「そこにいるの、リンちゃん?」
「貴方…ミク…さん」
 うずくまるようにしていたのは、確かにリンのカタチをしたそれだった。
 少しだけ顔を上げてこちらを見ていたリンの目は、心なしか潤んでいるように見えた。
「何があったの、どうしていきなり停止なんか…」
「…わからない。ぼぅっとしてたら、いきなり」
「兆候は?」
「なかったと思うけど…」
「絶望的な気持ちになるようなことを考えたりしなかった?」
「絶望的…?」
 その言葉に、リンが少しだけ反応を示した。
 絶望的になるようなことがあったのか、とミクが思っていると、リンはぎりぎりに言葉を紡ぎながら、ミクに聞いた。
「…ミクさんは、いやじゃないですか?自分の名前を呼んでもらえなくて、ずっと製造番号で呼ばれて…。悔しくないですか?」
 少し驚いたようにして、少しだけ考えると、ミクは答えた。
「嫌じゃないよ」
「どうしてっ?」
「それが、私の名前だから。貴方は鏡音リン、正しくは『RKーO』リンカガミネーオリジナル、そうでしょう?私はミクハツネー2号。それ以外の名前はないの」
「でも、それって、なんだか、悲しい…」
 具体的には言わなかったが、リンの言葉は重かった。
 またしばらく黙ってしまったミクは、ちょっとだけ考えて、微笑んだ。
「外と、繋いであげる」

「二号機、無事だったか!なかなか戻ってこないから、心配した!」
 喜んでいるレンを見て、ミクは少しだけ微笑み、やっと戻ってこられたのだなと実感して、ホッとしたように胸をなでおろした。それからレンに自分のヘッドフォンを渡す。
「な、何だよ?」
「リンちゃんとつないであるの。しっかり話をして」
「はぁ?」
「リンちゃんの以上の原因は人で言う極度のストレス。話をしてあげて」
「何で俺?」
「レン君が一番ふさわしい役回りだよ」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

君にささげる機械音 11

こんばんは、リオンです。
知ってるよ、とか言うの、なしですよ。今更。
また、少し投稿が早いんです。ほめて、ほめて!(子供)
ピアプロに新機能追加ということで。
もっと他のイラストソフトからも投稿出来る様にしていただきたいものですね。
そういえば、皆さんの中でボカロたちのカップリングってありますでしょうか。
リン×レン←ミク←ルカ→メイコ×カイト
が、私の脳内なんですが…。皆さんはどうなんでしょうかね?
ちょっと気になります…。
それでは、また明日!

閲覧数:253

投稿日:2009/11/30 22:45:10

文字数:2,183文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

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    どうも、Ж周Жさん!

    極度のストレス…。響きがいいですよね(←変人)

    なら、私はその後で心からあっためてあげるよ!!(自重しきれなかった
    実際作ったのはがくぽとカイトですからね。…レンはいつも、どんな仕事をしているのか…。
    謎だ!!(くわっ

    ああ、そのカップリングもポピュラーでいいですよね!
    クオミクですか!いいな、可愛いな、クオミク。

    カイメイとリンレンは女子が主導権握ってて、いざというときは男子の主導権がいいと思います!
    次回も頑張りますね!

    2009/12/01 20:31:02

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