夕闇にクチナシ


黄昏時の学校で、

ふとした拍子に思いませんか。

「自分ははたして誰なのか」

昼か夜かもわからない、

曖昧さが混ざり合った色の空。

自分なんか、いてもいなくても変わらない世界では

存在すら足元の影に食べられて

夕闇に溶けて消えていくような、

そんな気さえするのです。

**

夕暮れ静けさが
満たした教室で
ぼんやり物思い
答えは今日も出ず

窓際 茜差し
西日が目に染みた
瞼の裏側に
焼きつく黒い影

**


誰かの気配に気が付いて振り返れば、
背後には髪の長い女生徒が一人


**


曰く
あらあらこちらにいらしたの?
私はすっかり待ちぼうけ
知らぬというなら今暫し
昔の話をいたしましょ

あれは遠い春のこと
門を叩いた学び舎に
並んで通う同胞の
秘密を知ってしまいました

そう 憧れ追ったあの背中
凛と澄ました眼差しは
ただ我儘言った姫君の
泥をかぶった兄君と


**


「僕には妹がいてね」

頭の中に響くのは
知るはずもない少年の声、

歌うように語られる
少女の昔話に合わせて
その光景がみるみると
甦ってくるのです

お嫁になど行きたくない
自由を知らない妹が言う
僕の代わりにアチラへお行き
僕は代わりにコチラへ…

それは些細な嘘の始まり


**


夕日の沈まない
朱塗りの教室は
主役を待っている
悲劇の晴れ舞台


**


紡がれる歌に毒されるように
時計の針がゆっくりと逆回りを始めた


**


そうね不埒なこととは知りながら
想いは誰にも止められぬ
たわわに実った果実なら
摘み取りこの歯を立てるでしょう

そして季節は冬になり
茜に染まった箱庭の
秘めたる恋は無情にも
時の流れに暴かれる

けど知っているのよこの悲劇
二人引き裂くあの影は
そう「戦は嫌」と姫君の
涙ぬぐった兄君の


**


貴方は妹?それとも兄君?
歪んだ少女の笑みが問う

答えられず沈黙

曖昧になる境界
どちらかなんて、
わかるはずもない
遠い遠い昔のこと

僕は妹を愛していたよ
私は兄さんが嫌いだったわ
私は貴方を慕っていたのに

応えられず黙するが花

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

夕闇にクチナシ

+動画に入れようと思ってた小噺が文中にあります。
+消極的にイラ募中。詳細は曲のページにて。

閲覧数:295

投稿日:2010/12/10 00:16:51

文字数:913文字

カテゴリ:歌詞

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