「痛ってー。本気で噛み付いて来たぞ聖の奴。」
「まぁ宿屋が重複して予約してあったらそれは普通消しますよね。」
ホテルでの惨事が終わった後のこと、流石にホテルには入れてもらえず、今度こそ宿無しとなった俺たちは他に行く当てもなくローカル線の待合室に腰を下ろしていた。

「だから俺じゃないって言ってんだろ。信用しろ。そして崇めろよ。俺を。」
「宗教の教祖か、あんた。」
「それも悪くねえんだけどなぁ。」
そう言って達樹先輩は太々しくベンチに退けぞって見せる。
「聖達は?」
「あっちで駅員さんに言って他の宿当たってます。まぁ最悪あのビジホに戻れば良いんですけど、女性陣はそれじゃ納得しないみたいでして。」

そろそろ日も暮れようかという頃合いでこの段階で宿が決まっていないとなるとホテル・アバンチュールに戻るのはいたしかないとしてもセミダブルで達樹先輩と一緒のベッドというは流石に悪寒が走った。

『1番線ドアー閉まります。』

ローカル線だけあって全く人のいない待合室。それでも電車が通り過ぎる度、1人2人は降りて来て俺たちの目の前を通り過ぎて行く。

「xx県まで来て何やってんだろーな。俺たち。」
「そっすね。」

まさか、ブラックメーカーを探しに来たの犯人どころかにホテルすら見つからないなんて。
これじゃぁ、さぞ、うさジャージは不安かろう。
当の本人は何やら必死に駅員と交渉中だ。

そもそもブラックメーカーなんて本当にいるのだろうか。
最近はうさジャージの件で頭が一杯だったがそもそもの発端となった禁書の問題も解決はしていない。
黒田教授に言わせれば禁書を読んだ俺は我孫子の操り人形になってるって話だったか。

正確に言えばその可能性があるって事だけど、それで研究室を追い出されて、宙ぶらりんの状態がいつまで続くのだろう。

ブラックメーカーと我孫子 朔也。
その因果関係も確定したわけではないわけで。

何もかもが憶測で中途半端な不安に包まれた環境に流石の俺もため息を漏らさずにはいられない。

なんだかなぁ。

『1番線ドアー閉まります。』

「これで4人目。ほんとこの駅も人いないっすね。」
「お前何言ってんの?まだ3人目だろ。」

度々流れる構内アナウンス。
暇つぶしにぼんやりと通り過ぎた人を数えてはいたが先輩も同じだったようで少し嬉しい。
だがそれ以上にそれすら合わないという失敗の連続に俺と先輩は肩を落とした。

「あれ?柏木君?だよね?」

その瞬間。
その刹那。

最後の一人の客が通り過ぎたかと思えば聞き覚えのある声がした。

まさかとは思った。
ふと顔を上げると、先ほどの沈んだ気持ちから一転、心臓に杭でも打たれたかのような感覚。
俺はその声を聞き違えるはずもない。
サラサラのロングヘアにカラスのぬれ羽色をした黒髪。それでいて、くりっとした目、薄く塗った口紅の柔らかそうな唇が印象的。

『松戸 結衣』がそこにいたのだった。

「ま、ままま、松戸さん?」

久々に会った研究室のアイドル。
こんな遠方で会うとか、どう考えても運命である。
高揚感を隠せない。
そう言えば最後に会ったときに叩かれたな。

さながら犬のように駆け寄った。
むしろ飼い主が松戸さんであるならいっそ、俺は犬になりたいと思っている。
それはもう完璧なまでの全力疾走だった。

「え、やだ偶然?どうしたの?」

「りょ、寮内で、旅行みたいなもんかな。松戸さんこそ、どうしたの?」

上がった息を整えつつも、松戸さんを近場で見ることができて幸せである。
やってみて分ったのだが全力疾走したおかげで松戸さんのいい匂いを違和感なく嗅げて最高の気分だ。

「私は実家帰るとこ。」
「・・ぜぇ・・・はぁ。松戸さんの実家って、・・・ぜぇ・・・はぁ、ここ、なの?」
「そだよ。なんだよぅ。言ってくれれば、いろいろ紹介できたのに。」

xx県xx市。
ブラックメーカー事件の発生の場所であり、うさジャージの昔住んでいた場所で誘拐事件の起きた問題の街。
それ以前に、松戸さんの実家がある場所として脳内にインプットした。

「・・ぜぇ・・・はぁ、い、いじゃん、今、からでも、紹介、ぜぇはぁ、してよ。」
「え、でも宿とか行くところとかいろいろ計画立てて来てるんでしょ?悪いよ。」
「大、丈夫。俺たち・・・ぜぇはぁ。今、宿無しで、行くとこ・・・ぜぇ、はぁ・・ないから。」
「そうなの?じゃぁさ、うちにおいでよ。」
「え、いいの?」

まさかの展開に一瞬耳を疑う。
実家にご招待?
それはつまり俺を家族に紹介したいということ?
それって言い替えると結婚を前提としたお付き合いとかそういう・・?
松戸さんパネェ。

「うち、ちっちゃいけど民宿やってるんだ。」
「・・・・ぜぇ、はぁ。」
「柏木君、息、上がりすぎじゃない?」

ライセンス

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  • この作品を改変しないで下さい

【小説】常識科学の魔法学14

閲覧数:237

投稿日:2020/01/22 19:12:55

文字数:1,998文字

カテゴリ:小説

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