「超うさぎ風呂・・・だと?」
駅からさほど離れていない山中。
バスから降りるや否や、うさジャージのその開口一番を皮切りに竹井壮の住人たちの開ききった口。
『超ウサギ風呂』の幟をかざした超高級旅館の門前にはズラリとならんだ門松と石畳。
巨大なうさぎの石像が立ち並び、仲居さんが総出でお出迎え。
うさジャージの鞄が肩からするりと落ちる。
だから、うさぎ風呂ってなんだよ。
ひのき風呂の親戚とかなの?
なんてツッコミもはばかれるほど、そのゴージャスっぷりには泡を食う他ない。
ちっちゃい民宿とか謙遜にも程がある発言をした超高級旅館のご息女という事になるであろう松戸さんの顔を見ると少し照れた様子で頬に手をかざして
「うわ。恥ずかし。また変な流行に乗っかろうとして。」
などと異次元側の反応を見る限りどうやらここが松戸邸という事で間違いはないらしかった。
差しあたって夢と期待で優越感に浸るうさジャージとは裏腹に完全に血の気が引いているのは聖姉さんと達樹先輩。
「仁君・・・どうしよ。絶対こんな所泊まれるお金ないよ。」
「俺なんて10円すらもってねーよ・・・。」
一人は論外だとしても、聖姉さんの言い分はもっともだ。
俺も松戸さんの好意に甘えたものの、お金が払えないんじゃ大学のよしみだったとしても、申し訳が立たない。
「松戸さん、ごめん。俺たちお金が・・・。」
「あ、いいのいいの。そんなことしたら私が怒られちゃうし。」
正式に友人として招かれていたならいざ知れず、今日偶然会って紹介してもらった上、宿泊費まで好意に甘えてしまうのは流石に腰が引けてしまう。
「いや、そこまで甘える訳には。」
「いいって言ってるでしょ?ま、入ってよ。入れば分るから。」
などとスタスタと先を行く松戸さんの黒髪がなびく。
「仁君、で、どうする?こうなったら、私、脱ぐよ。」
などと、神妙な顔をする聖姉さんにボディブローをかましたあと、俺たちはとりあえず荷物だけでも、と松戸さんについていくことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ようこそ。・・・あぁ、ようこそ。おいでくださった。メシア様。」
「メシア様!」
程なくして石畳を渡り、旅館の玄関先までたどり着いた折、半纏を羽織った背の小さい男を筆頭に中居たちが一斉に口を合わせた。
最初はどこぞのVIPをもてなしてしているのだと思ったが、それはどうも俺たちへと向けられたものだったらしい。
手厚いどころかドン引きするくらいの歓迎に狂気すら感じる。
ってか、なんだよメシアって。救世主とかいてメシアなの?キリスト教なの?
というツッコミは抜きにしても他の客の手前居心地の良いものではない。
「お、お父さん、ほんとやめて。いつも言ってるでしょ。ほらはやく奥通してよ奥!」
などと必死に松戸さんはお父さん(?)を旅館の奥へと引きずっていくのを見ると、お金持ちの家の子供って大変なんだな。と、少し松戸さんがかわいそうになった。
お父さん(?)が奥に引きずられていくのを見ると仲居さんたちも通常業務に戻り、普通に俺たちを奥へと通してくれる。
「お嬢様は苦労が耐えないのよ。ウチじゃ大旦那にはだれも逆らえないから。」
と言った仲居の言葉が全てを物語った気がした。
奥に通されるとそこは割りと小民家に近い部屋に繋がっている。
松戸一家の居住スペースであろうそこには一脚のちゃぶ台と深々と頭を下げる背の低いお父さん(?)の姿と少し見ないうちに大分やつれた我が研究室のアイドルの顔があった。
「いつも、娘が大変なご迷惑をおかけしております中、遠路遥々、今、こうして娘を無事、拙宅までお連れいただいた事、誠に、誠に!感謝してもしたりない限りでございます!」
「えぇっと、紹介が、おくれまして。こちら私の父になります。」
「父の源五郎に御座います。」
「これはご丁寧に・・・」
などという御座敷儀礼を交わす。
ついでに言うと源五郎さんが終始頭を下げっぱなしのお陰で中々頭を上げることが出来ない。
「え、ええっと、大変な歓迎を受けたのに恐縮なのですが、僕らはお嬢さんと偶々駅で会っただけでして、僕らがお嬢さんをお連れした訳では。」
確かにこの様子であればお金を払う事なく泊めてくれそうではあるが、俺たちが娘を連れ帰ったという父親心につけ込んで俺たちが得をするのはとても褒められたものでもないので弁明しておくことにした。
あとで達樹先輩辺りからクレームがつきそうではある。
その証拠に今ガタリと音は達樹先輩が俺の発言に申し立てをしようとした音。その後グリグリなにかをねじ込むような音が聞こえてくるのは聖姉さんが達樹先輩を押さえつけてる音だろう。
肝心の松戸源五郎はどうだろう。
怒っただろうか。
座敷儀礼のお辞儀ではあったがそのまま謝罪の意として受け取ってくれていると嬉しいがー
様子を伺おうと顔を上げようとする。
「・・・チィッ!」
と、けたたましい程の舌打ち(?)のようなものが聞こえたので慌てて全力で額を床に擦り付けた。
「いつも、娘が大変なご迷惑をおかけしている中、駅から15分ほどの距離を、今、こうして、無事、拙宅まで届けてくださった事、何卒何卒ぉ。」
「・・・。」
俺は娘を思う親バカってやつを甘く見ていたのかも知れない。
【小説】常識科学の魔法学15
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