「今夜11時にね。絶対来てよ」
クリプトン女学院・屋上にあるステンドグラスの温室は、生徒会長の愛玩人形だけが合鍵を許された秘密の花園。
そこでこんな時間にお茶会なんて、本当にルカってば…。
いいえ、そそくさ呼び出される時点で私も相当どうかしてるのだ、すでに。
温室中央・白い円卓の真上には、銀盆の満月。
冴え渡る11月の冷気を纏い、ふたりだけの静寂を囲む。
くゆらせたダージリンから瞳をあげて、蕾ひらくルカの唇。
「一緒に伝説を始めましょう、MEIKO」
「なぁに、それ」
悪戯っぽい、でも、吸い込まれそうな碧眼。
「わたし、貴女が好きよ」
思わず目をそらす。
ルカはいつも、私の視界の先にいた。
いいえ、両目を潰したって彼女を全身で捕らえることが出来る。
そんな歌劇みたいな物言いが、すんなりくる華だった。
楽しそうなため息と一緒に、ルカの細い指先が白磁の小壺に伸びる。
小さな銀の匙で優しくカップに落とす、ひとつ、ふたつ、みっつ…。
「ねぇ、紅茶に砂糖じゃなくて金平糖入れるの?」
「都貴もよ。金平糖、入れてよ。今夜は、特別な夜だから」
ほらね、こういうところが好きで嫌い。
「私はそのまま戴きます。」
差し出された小壺から指で直接、星砂糖をつまみ上げる。
「意地っ張り・・・。いつもそう、私にだけ頑固だわ。貴女は」
抗いきれないと、分かっているのに。
「誰かさんの猫みたいな気まぐれに付き合ってあげてる、人格者よ」
ほんとは嬉しいって、見透かされてる。
掌で。ころころ金平糖を遊ばせるように・・・
「ねぇ、見て!」
キラキラ勢いよく、ルカが天上を指し示した。
白い閃光。
瞬きのシュプール。
…流星群!
「うそ・・・」
ポカンと上向いたままの私に、魔女は呪文を繰り返す。
「伝説を始めましょう、MEIKO」
驚くほど鮮烈な一瞬に、ルカをみる。
ああ、今こそ悟った。
ルカはずっと、私を捕らえたままなのだ。
ふたりきり、満天の星の聖唱、この千夜一夜。
「この温室で流れ星を見た二人は」
睫毛が笑み艶やかな碧眼が深みを増した。
冷たいアマリリスの匂いが一層鮮やかになる。
白い手が交差して隠れた口許に。
穏やかな勝算と運命の微笑。
ルカ。
「恋に落ちて、しまうのよ」
思わず指先から離れた金平糖が。
紅茶に溶ける魔法の音を…
今なら聞こえる気が、した。
(946文字)
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FRI
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