連れて来られたのは、既製服を扱う店だった。
服など自分で縫うのが当たり前のメイコには全く馴染みがないが、ミクによればこれらは最近になって出来始めたタイプの店で、従来通りに一から服の仕立てもするが、もう少し安価に既に仕立てた服を置いてもいるのだという。
「ほら入って、メイコ」
「ちょ、ちょっと・・・」
「急ぐから既製品でごめんなさいね。ねえ、彼女に似合う服を選んでくれる?」
ミクが慣れた様子で、入り口に控えていた店の従業員二人に声を掛ける。
いかにも貴族然とした少女と明らかに平民の少女の組み合わせに、店員たちは一瞬不審そうな表情を浮かべたものの、すぐに自分達の仕事に取り掛かった。
瞬く間にその腕の中に抱え込まれていくフリルやらリボンやらのついた布地の山の迫力に、メイコが顔を引き攣らせる。
「場違いよ。あたしにこんな、ドレスなんて」
「メイコは自分を知らなさ過ぎるわ」
あっさり言って取り合わないミクだったが、店員達が引っ張り出す服に次々と首を横に振るうちに次第に焦れたようになって、とうとう制止の声を上げた。
「駄目よ、駄目!そんな服じゃ、メイコには相応しくないわ!もう下がっていて、私が選ぶわ」
抱えたドレスの束ごと店員達を押しのけると、ミクは一歩下がってメイコの頭の上から靴の先まで全身に視線を走らせた。
「メイコは強いはっきりした色の方が似合うわね。深い赤が良いかしら。スタイルが良いから、ドレスの形はシンプルにしましょう。帽子は大きくて、動きのあるものが良いわ」
そう言いながら、店に置かれた山の中から、気に入ったらしいものを腕の中により分けていく。
「はい、ドレスはこれ。帽子はこっち。ネックレスとイヤリングはこれとこれ。さあ着替えてみて!」
一揃い選び出したものを押し付けると、メイコは反論する間も与えられずに着替え用の別室に放り込まれた。
着方も分からないそれらを店員達に手伝って貰い、ようやく全部を身に着けて戻ってくると、ミクは嬉しそうな歓声を上げた。
「素晴らしいわ!メイコ、とっても素敵よ!」
メイコの手を取って、鏡の前まで連れて行く。
ミクが選んだドレスは深い赤の地に黒の薄いレースを重ねたものだった。襟元の詰まった露出の少ないデザインなのだが、タイトな造りで胸から腰までのラインがくっきりと表れる。足元まで流れるスカートはどちらかといえば直線的でシャープな印象だ。切りそろえただけの飾り気のない髪を、黒い羽根をあしらった帽子がふわりと覆い、荒れた手や日に焼けた腕は長い手袋に隠されている。ついでに軽い化粧まで施されて、見慣れた自分の顔さえ自分とは思えない。
そこにいるのは、はっとするほど鮮烈な存在感を持つ貴婦人だった。
「メイコって、スタイルが良いわね。予想以上の出来栄えだわ」
自分の仕事に満足そうに頷き、それから、ミクはふと何か思い出したように複雑な顔を浮かべた。
「・・・お兄様の好みだわ」
「え?」
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「えええ?」
「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第0話】中編
後編へ続きます。
http://piapro.jp/a/content/?id=hqunbk4h7d8up1sz
服のセンスないので、ドレスは結構、適当です。デザインとか細かく考えなくて良いのが小説の良いところ・・・。絵師様の絵とか見るのは大好きなんですがv
それにしても、もしかして後編の字数が足りないかもしれない危険・・・。
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