王宮内は騒然としていた。
謁見の間に集められた家臣らが、口々に交わす噂や考えが入り混じって、広間をざわざわと人の声が満たしている。
それを一段高い玉座から見下ろして、年若き国王は溜息をついた。
「今日集まって貰ったのは他でもない・・・――」
「城下で王妃様が何者かに襲われたというのは真実なのですか!?」
なおざりな声をさえぎって、堰を切ったように一人が声高に叫んだ。他の声が次々にその後に続く。
「何故、王妃ともあろう方がそんな場所に、しかも供もつけずにいたのだ」
「誰かと会う約束でもしていたのですかな。王宮では都合の悪いような相手と」
「それよりも、事の真偽はどうなのです。妃殿下はご無事なのですか。彼女に何かあれば、ボカリアとの和平はどうなります」
「静まれ」
煩げにレオンは手を振った。
「不穏な噂が出回っているようだが、王妃に大事はない。民に不安を与えるような不用意な発言は控えるよう」
「何事もなかったというのなら、王妃ご自身からこの件へのご説明を頂きたい。大体が婚礼以来、彼女は一度として公に姿を見せないではありませんか。このような態度はわが国をないがしろにしているとしか――」
「わたくしが何か?」
場違いな若い女の声が響き、辺りのざわめきに一瞬の間が空いた。
声を辿って視線が向けられる先は謁見の間の入り口近く、並ぶ家臣らに紛れて鮮やかな翠色が異彩を放つ。
渦中の王妃がそこにいた。
「妃殿下!?」
「ミクレチア様!」
「皆様にご心配をお掛けしたようで、申し訳ありません。わたくしはこの通り、どこも何ともありませんわ」
波を割るように左右に下がった諸侯の間を抜け、王妃は落ち着いた足取りで玉座の前へと進み出た。
「陛下。故郷での療養をお許しくださってありがとうございました。おかげですっかり回復しましたわ」
「ミクレチア・・・?」
青くなったり赤くなったりと大騒ぎの家臣らを諌めるのも忘れ、レオンは唖然と目の前に立つ少女を見つめた。
彼女はいたずらっぽく輝く瞳でレオンを見つめ、眼下に並ぶ家臣たちへと向き直った。
「皆様、お聞きください」
凛と響く声に、好意的なもの、そうでないもの、さまざまな視線が少女に集まる。
臆することなく進み出て、彼女はその場で深々とお辞儀をした。あろうことか臣下に対して。
周囲が一斉に息を呑んだ。
広間が水を打ったように静まりかえる。
頭を上げた王妃を、その場の誰もが息を詰めて見つめていた。
一人ひとりを見つめるように辺りを見渡して、彼女はゆっくりと唇を開いた。
「皆様にもどうかお礼を。わたくしが恐ろしい賊に襲われて命の危険に晒されたところを救われたのは、二人の殿方のおかげなのです。
ひとりは民の知らせを受けて危険に駆けつけ、もうひとりはその後も生死の境をさまよう私の命を救うべく手を尽くしてくれました。
ひとりは夫、そしてもう一人が兄ですわ。
それは取りも直さず、夫の治めるこの国と、兄のいるかの国とが、わたくしのために惜しみなく手を差し伸べてくれたからに他ならないのです。
わたくしは両国の絆あって、この命を救われました。この得がたい絆が、両国の間にいつまでも続くことを心から願っています・・・――」
「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】前編
中編へ続きます。
http://piapro.jp/content/bzroq4mxz2or2zqm
ここで切るほどの長さではないんですが、次が長くなるもので。
家臣の皆さんについては設定とか考えてないので、その辺は効果だと思ってさらっと流してください。
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