ある一人の少女と戦い続けている。
散弾銃を手に取り、テレキャスターを背負う。遺言はちゃんと紙に書きつけてある。アンハッピーさ加減がお気に入りの遺言だ。そう長くはないであろう将来を考えていると、一発の銃声が響き渡った。
また、今日も始まった。
「戦場」には自分以外の姿は無い。
ここはかつて栄えた都市、そして見捨てられて時に置き去りにされた都市。雨風で汚れた高層ビルが連なりその壁にはいくつもの弾痕が残っている。いつだって活気に満ち溢れていた当時の面影はとうに消えている。
あたりを眺め回すと、視界の端に黒く動く影がちらと映った。瞬間、銃を引き抜いてそちらに向けて立て続けに撃った。すると二秒ほど間が開いて、どさりと何かが倒れる音がした。
駆け寄って覗き込むと、ああ、なんということだろう。
少女が足を押さえてのた打ち回っているではないか。この少女こそ自分がここにいる意味。ずっと追い求めていた意味なのだ。
彼女の手の間からは絶えず鮮血が溢れあたりの地面を赤く染めた。どうやら掠ったようだ。
死なせてしまっては意味が無い。応急処置で出血を止めた。ひとまず落ち着いたようなので、彼女を背負って歩き出す。夜間に自分がいる場所――「居住区」に運び込んだ。
彼女の服に仕込まれていた武器を全て抜き取り、逃げないように手を縛って柱にくくりつけた。
やっと、やっと手に入れた意味をそう簡単に手放すわけにはいかないのだ。

彼女は「ローリンガール」。
何体もいる「自分」を掻き分けて本当の自分を探さねばならない者だ。
そして自分もまた「ローリンガール」だった。
彼女は何体もいる「自分」のうちの一人。もう一人の私。彼女は私で私は彼女だった。
偽者の私は全て殺した。自分を探すのに邪魔だったから。

彼女が微かに呻いた。薄く開けられた目を覗き込むと、途端に目を見開いて憎々しげに舌打ちをした。
そんな彼女をよそに私は問う。
「ねぇ、ご機嫌は如何ですか」
「・・・最悪」
苦虫を噛み潰したような顔をしている彼女と対照的に私は上機嫌だった。
何故って。もう明日からこんなくだらない戦いを繰り返すだけの毎日にお迎えがくるから。
軽やかな気分の私の目には、彼女の側に転がっていたナイフなど目に映っていなかった。


その晩。
隣の部屋にいた私の耳に、突如劈くような音が届いた。
何事かと音の聞こえた方に駆けると、そこは彼女がいる部屋だった。
手を縛っていた布はナイフによって切り裂かれ、銃を握り締めている。
窓は、その銃で撃ったのだろう、ぼろぼろにひび割れ破片が床に散っている。
不自由な足を懸命に動かして窓の側に歩み寄ると、彼女はこう言った。
「そろそろ君も疲れたろう、ね」
彼女がふらりと後ろに倒れ込むと、ひび割れた窓ガラスがいっせいに砕け落ちた。
足が床につかなくなって、彼女の体ががくんと下に吸い込まれて――
しばらく動けなかった。やっとの思いで窓の外を覗くと、闇でよく見えないが赤い液体と黒い影がうずくまっている。
落ちる瞬間、彼女はこう言った。
「息を止めるの、今」
「意味」は失われた。私の「意味」も失われた。
そうとなればやることはひとつしかないだろう。
先ほどの彼女と同じように窓際に立ち深く息を吸う。
「そろそろ君も疲れたろう、ね」
そう呟くと足を床から離した。
ふわふわとした感覚が気持ちいい。
何も考えられないまま、息を止めた。
最後に目に映ったものは、私だっただろうか、彼女だっただろうか。
誰かが窓際で笑っていた。

息を止めるの、今。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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アンハッピーリフレイン

閲覧数:206

投稿日:2012/10/13 23:02:17

文字数:1,469文字

カテゴリ:小説

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