扉を抜けた先には、蛍光灯で照らされた鉄の通路がある。
数メートル手前でT字に分かれており、どちらへ向かえばいいかは分からない。
それ以前に、俺の頭の中には先程施設内部に侵入するときに聞こえた航空機のエンジン音、そして、その直後に聞こえた爆発音らしき音が気にかかっている。
あれは一体なんだったのだろうか?
空軍も協力しているだろうから、航空機がここの上空を通っていても不思議ではない。
しかし、あの時聞こえた爆発音は・・・・・・。
まさかテロリストに撃墜されたわけじゃないだろう。
『デル。デル聞こえるか。』
考えているうちに、少佐からの無線が届いた。
「少佐、今屋上で爆発音らしき音が聞こえた。そちらでは何か確認できたか?」
『ああ。レーダーに反応があった。空軍の機体が、高度1万フィート上空で謎の飛行物体に撃墜されたとの情報が入った。空軍の作戦司令部からだ。』
「しかしどうしてここの空域を飛行していた?」
『分からん。何故か向こうの口が堅くて全貌が見えてこない。こちらで確認できる範囲では、空軍の機体が何かを施設周辺に向けて発射した形跡が残っている。衛星から映像を受信した。』
「なんだって・・・・・・まさか、ミサイルか?」
『いや、それの爆発は確認していない。これは俺の憶測の域だが、恐らく人員を搭載したカプセルのような小型機を施設周辺に放った、と考えている。』
「俺以外にもエージェントが?」
『分からん。そうであればこちらに情報が来るはずだ。しかし、何故だか空軍の口が堅い。』
「・・・・・・。」
『とにかく、もし例の特殊部隊以外と遭遇しても決して戦うことのないように。』
「了解。」
『僕には、空軍機を撃墜した飛行物体のほうが気になるよ・・・・・・。』
「なッ・・・誰だ。」
突然、少佐の声ではなく少女の声が無線から聞こえてきた。
余りに突然のことで、俺は少々戸惑った。
『ああ、まだ紹介していなかったな。今回の作戦を機に、我が部隊に装備、アンドロイド専門家として配属されたS-4君だ。君と同じアンドロイドだよ。』
『よろしく。』
「あ・・・・・・ああ。」
S-4と呼ばれたアンドロイド少女の声は、どこか無表情で頼りない。
だが声のほうはかなりの美声だ。
『彼女には、君の健康状態、武器装備類の専門家としてバックアップについてもらう。情報記録も彼女の仕事だ。』
「ところで、今空軍機を撃墜した飛行物体のほうが気になる、と言っていたな。」
『うん。向こう側には、多分飛行用ウィングをつけた、戦闘用アンドロイドを持ってると思う。』
「飛行用ウィング・・・・・・空軍のものだな。」
『うん。』
『しかし、どうしてそうだと思うんだ?』
少佐が訪ねた。確かに何の根拠も無い。
テロリストが携行型のSAMを発射したという考えが俺の想像の範囲にもあったのだが、何をどうすれば高度1万フィートを飛行する航空機に携行型のミサイルが当たると言うのか。
『あの技術は本来ウェポンズのものだから、例の部隊も、同じものを持っているかもしれない。』
「なるほど・・・・・・。」
『となるとそんな兵器とも遭遇するかもしれないと言うことだな。』
『うん。だから敵には見つからないほうがいいよ。』
「当然だ。」
『そうだ、デルさん。まだ装備の説明をしていなかったね。』
装備、と言っても俺に与えられた装備は、このスニーキングスーツとレーダーのみ。
俺の部隊の基本は隠密行動であるから、たとえ足跡の一つでも戦場に残してはならない。
『そのスーツ、着心地はどう?あなた専用に開発された、アンドロイド用スニーキングスーツ。空軍で使われていた戦闘用アンドロイドが着用していたものからヒントを得たんだ。それの原型なら、ぼくも着たことがある。』
「君が?」
『ぼくも実はこの前まで空軍の戦闘だった。あなたと同じ。』
信じられん。
『そのスーツの特徴は、使用者の能力を助長する四つの機能が搭載されてること。まず一つ目が、万一の被弾や衝撃に備えて、瞬間的にそれを受けた部分を硬化させるアーマー機能。二つ目が、腕や足に大きな負担が掛かったときに、一定時間だけ筋力を増加させてくれる、ストレングス機能。次に、一定時間だけ反射神経と体全体の速度を上げてくれるスピード機能。最後が、一定の場所で動かなかったり、雑草の中に体を隠していると自動的にその場に応じた保護色になる、クローク機能。どれも自動的に作動する機能だよ。』
「凄いな・・・・・・。」
そんな機能が搭載されたスーツなど、今まで聞いたことが無い。
よほどこのスーツが最新鋭らしい。
「最新鋭の上に、着心地も悪くない。湖を泳いできたが、中が湿気を帯びていないのはドライ効果のおかげだな。足音もなりにくく、適度にフィット感がある。」
『ほかに、あなたのバッテリーの残量や健康状態を知らせてくれるヴァイタル情報表示や、こちらからの遠隔治療も可能だよ。』
「ほう・・・・・・。」
『そうだ、今そっちのGPSレーダーにPLG100-SGを通して構造データを送るよ。』
「PLG?」
『人工知能ナビゲーションの一つで、人工衛星からそこの情報を提供してくれるよ。ある程度の意志を持ってる。』
『私です。』
S-Gに続いて、今度は人とも機械ともつかない声が聞こえた。
こちらはまさに機械と言っていい。声に表情が無い。
『PLGです。今人工衛星から、電波放射で、その施設の構造を、全てレーダーに転送しています。アップロード完了。』
『施設の構造のことは、PLGのほうが詳しいよ。』
「分かった。」
『レーダーの使い方は分かってるよね。』
「ああ。」
俺はスーツに取り付けられたバックパックからレーダーを取り出した。
画面には、既にこの施設の構造と、内部にいる自分を含めた人間が表示されている。
『それがあれば、作戦が楽になるよ。建物の構造が分かる上に人のいる場所まで分かるから。』
「ふむ。」
『でも、もし敵に見つかった場合は、多分レーダーが使えなくなるから注意して。』
「何故だ?」
『侵入者の存在を知れば、多分敵は妨害電波を発生させ、レーダーは使用できなくなる。向こうもレーダーのこと知ってるからそれくらいはするよ。』
「そうか。分かった。」
『デル。今回の作戦において君は丸腰だ。必要な装備類は全て現地調達することだ。』
と少佐が付け加えた。
「ああ。」
『では、レーダーに構造の転送も済んだことだし、デル。先を急いでくれ。』
「了解。」
『待ってデルさん。ぼくの周波数は145.53。装備のことで聞きたいことがあったら無線して。あと情報記録には別回線を使うから。周波数は146.79。いい?』
「ああ。」
『PLGへ無線することも出来るよ。建物の構造で、更に詳しいことはPLGに聞いて。無線周波数は141.61。』
「分かった。S-4。」
『あ・・・・・・僕の名前だけど、その呼び方はやめて。僕にも名前があるから。』
型番で十分と思うが、彼女には通称があるのだろうか。
「じゃあなんて呼べばいい。」
『ヤミ・・・・・・。』
「え?」
『ヤミって呼んで。』
「・・・・・・分かった。」
ヤミ・・・・・・か。
『さぁ、もういいだろう。デル。レーダーに建物の構造が表示されているだろう。』
『そこは、貯蔵練です。大量の物資が保管されています。』
と、少佐に続いてPLGが言った。
大量の物資、そうともなれば、有益な装備が手に入るかも知れない。
『デル。人質はそのエリアにはいないようだ。通過しても構わんぞ。』
「了解した・・・・・・。」
俺は無線を切り、まずレーダーを見た。
それを見る限り、左に曲がれば階段があるようだ。警備の存在も表示されている。
とりあえず、俺はレーダーを頼りに先へ進んでいった。
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