強風の中、小さな花束は飛んでどこかに行ってしまいそうだ。
花束をフェンスに立てかけるようにしてしゃがみこみ、軽く手を合わせてそっと目を閉じて、心の中で呟く。
「リン、毎日あってるのにこんなときにばかりかしこまるのもおかしいけど…」
目を開く。
「…君に会いたいんだ」
今度は声に出して言った。
何時からか会いたくてたまらなくなった、唯一無二の存在は、決して二度と会うことのできない、帰らぬ存在として俺の目の前を去った。それは、まるで、元々なかった蜃気楼のように揺らぐ存在で、自分でも何を求めているのか、分からなくなる。
涙は、君を見たときに出し尽くした。もう、涸れ果ててしまった。
「今年も来たのね」
不意に後ろから声をかけられ、レンは振り向いた。
「あ…。先生」
「久しぶりね。最近はお花をくれる人はいないから、きっと彼女も喜んでいるわ」
茶髪のショートヘアーの女性は、可愛いとかきれいとか言うよりも、一番に格好いいという印象を受ける。
「…もう、ここにリンはいないんですけどね。分かってても…」
悲しそうに伏目がちになりつつ、レンはため息をついた。
出て行くことはできなかった。
先生と一緒に屋上で話があったのに、先生と来たら屋上にいたレンと仲よさげに話しているんだもの。今、飛び出して行っても空気が気まずくなるだけだし、と思い、リンは階段を下りて行った。
私が出て行く幕じゃない、私が介入しちゃいけないところもあるんだ、でしゃばっちゃいけない――。
一通り話をしてしまうと、レンはもう一度合掌をして、立ち上がった。
「それじゃあ、そろそろ。また今度、ゆっくり来ます」
「あらそう?今度来たときは丁重におもてなしするわ」
「はい。…じゃ」
先生の横をすり抜けて階段を下り、もう人気のなくなった学校を歩いていくと、時々知っている先生が歩いていたり、後輩がいたり、時の移り変わりがよくわかる。
まるで自分だけが二年前のあのときに取り残されてしまったかのようだ。
若い少女たちの甲高く楽しげな声、先生方の低く落ち着いた声、男子の子供っぽい騒ぎ声…。あの中に、自分とリンもいたはずなのに。
どうして君は、この世界にいることを拒んだのだろう――?
「――私を振るだなんて、絶対に許せない――」
小さなライターにゆらめく炎は紅く染まりかけた辺りと調和する。
「この桜が好きなことくらい、知ってるんだから――」
炎が灯ったままのライターを足元へ、投げるというよりは落とすと言ったふうにして、にやりと嫌な笑いを浮かべた。
「よくも私のプライドに傷つけてくれたわね――」
赤々と燃え盛る炎はやがて広がり、雑草を燃やしながらライターの流れ出た燃料から、桜を焼きつくさんとするほどの大きな炎となり、やがて黒煙が立ち上り始めると、少女はさっとその場を離れて行った。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
(Aメロ)
また今日も 気持ちウラハラ
帰りに 反省
その顔 前にしたなら
気持ちの逆 くちにしてる
なぜだろう? きみといるとね
素直に なれない
ホントは こんなんじゃない
ありのまんま 見せたいのに
(Bメロ)...「ありのまんまで恋したいッ」
裏方くろ子
chocolate box
作詞:dezzy(一億円P)
作曲:dezzy(一億円P)
R
なんかいつも眠そうだし
なんかいつもつまんなそうだし
なんかいつもヤバそうだし
なんかいつもスマホいじってるし
ホントはテンション高いのに
アタシといると超低いし...【歌詞】chocolate box
dezzy(一億円P)
A1
幼馴染みの彼女が最近綺麗になってきたから
恋してるのと聞いたら
恥ずかしそうに笑いながら
うんと答えた
その時
胸がズキンと痛んだ
心では聞きたくないと思いながらも
どんな人なのと聞いていた
その人は僕とは真反対のタイプだった...幼なじみ
けんはる
*3/27 名古屋ボカストにて頒布する小説合同誌のサンプルです
*前のバージョン(ver.) クリックで続きます
1. 陽葵ちず 幸せだけが在る夜に
2.ゆるりー 君に捧ぐワンシーンを
3.茶猫 秘密のおやつは蜜の味
4.すぅ スイ...【カイメイ中心合同誌】36枚目の楽譜に階名を【サンプル】
ayumin
誰かを祝うそんな気になれず
でもそれじゃダメだと自分に言い聞かせる
寒いだけなら この季節はきっと好きじゃない
「好きな人の手を繋げるから好きなんだ」
如何してあの時言ったのか分かってなかったけど
「「クリスマスだから」って? 分かってない! 君となら毎日がそうだろ」
そんな少女漫画のような妄想も...PEARL
Messenger-メッセンジャー-
小説版 South North Story
プロローグ
それは、表現しがたい感覚だった。
あの時、重く、そして深海よりも凍りついた金属が首筋に触れた記憶を最後に、僕はその記憶を失った。だが、暫くの後に、天空から魂の片割れの姿を見つめている自身の姿に気が付いたのである。彼女は信頼すべき魔術師と共に...小説版 South North Story ①
レイジ
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想