君はもういない。
君はもう、私の前から姿を消してしまった。
君が何処へ行ってしまったのか。
君がどうして消えてしまったのか。
その理由を、私は一生知ることができないのだろう。
考えても考えても変わらない。
過去も現在も未来も変わらない。
過ちも嘘も事実も、何も変わらない。
何かを変えようとしたところで何もできやしない。
例えば自分の習慣を変えようとしても、身に染み付いた行動は変わらない。
例えば地球のためだと節水や節電をしたところで、どこかの誰かは無駄遣いをする。
くだらない。世界はどうせ変えられやしない。
人間は愚かだ。
いいことだと決めつけてやったことは全て、視点を僅かに変えれば残虐性に満ちている。
ダメだと言ったことが現実になれば、自分はそれから目を逸らし見捨てて逃げ、見苦しい偽善者となる。
絶望が見えればありもしない希望に縋り付き、自分とって都合が悪ければ全て神のせいだと責任を押し付ける。
人間は醜く往生際が悪い、どうしようもない生き物だ。
そのことを私は学習したでしょう?
だけど、その人間が執着する希望に、私もまた縋った。
考えは人間のそれとは違う、道を外れた怪物だというのに…実際のところ、私だって植え付けられた人間の性には逆らえない。なんとも皮肉な話ではないか。
私はね、君を守りたかったんだ。
でも私は君に守られてた。
私は弱すぎるんだ。
親の鎖ってのはとても嫌なもので、私はそのせいで人を遠ざけようとした。
誰かと交わろうとはせず、契約も約束も交わさずに、無機質な日々の檻で過ごした。
できるなら言葉も交わしたくなかったけど、そんなの無理に決まってるから。
そんな私に一人、関わろうとしてくれたのが君だった。
君は鎖を振りほどいて私の手を引いて、呪われた宴から夜の街へ連れ出してくれた。
あの夜に見た、暗闇に灯されるように咲き誇った花々、いつもより穏やかに光る月、私の手を優しく包み込む君の温かい手を全て覚えてる。
それはとても、とても幸せな時間だった。いつも感じている不自由は闇に溶けて、私は鳥籠から放たれた小さな鳥のようだった。
そのことがきっかけで、私たちは「秘密」を手に入れた。
楽しいお出かけは……抜け出したのはそれっきりだった。
だけど人を拒んでいた私は、君にだけは心を許してしまった。
二人きりの部屋で、私は君にわがままを言った。
鎖のせいで何も知らず育った私は、何かに飢えていた。多分それは親からの「愛」だったんだろうけど。
だから君に―――「人の愛し方」を教えてほしかった。
信用できたのは君だけだったから。道具として利用される私には、自然に学べることではなかったから。
最初、君はそれを受け入れてくれなかった。
「それは自分とではなく、あなた自身が選んだ相手に学ぶべきだ」と。
私だってそれはわかってる。だけど、私には自由がない。だから……選ぶのは私じゃない。鎖の元凶だ。
私が何度も縋って、君は渋々ではあったけど了承してくれた。
その日から、私たちは「ニセモノ」の関係になった。
この関係に意味など無い。
すべて親が敷いた人生のレールを辿る運命にある私にとって、自らの意思で得るものなどすぐに意味を失くす。
だけど。
この関係、この感情だけは、この人生で私が初めて自らの意思で得たもの。
誰にも否定されたくない、唯一無二の宝物。
それは私が誰にも知られることなく、後生大事に抱え込むことになった「秘密」。
一生背負い続けていく罪の片棒。
これから語るのは、もう何年も昔の話。
君がたった一つだけ教えてくれた、私と君なりの「人を愛する方法」。
一年にも満たない、君との僅かな思い出。
本当はわかっていたんだ。
君との関係がどれほど危険なことかを。
この関係は知られたら最後、二人とも決して幸せなエンディングへは行けないことを。
アイを君に教えてもらう、その関係の意味を。
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