こつこつと鳴るヒールの音でリンが後をついて来てくれている事がわかる。
並んでは歩いていない、否歩けない。
じめじめとした6月特有の風が気持ち悪い。
もういい、と言い放って歩き始めたのは自分から。
先に喧嘩腰になったのは、リンから?
ではこの話を持ち出したのは?
辿っても今の状況を打破できるはずもなく、考えるだけ無駄なのだけれど、「ごめん」と言い出す勇気がない。
勇気というか、お互いに悪いと思っていないことが理由なのだろうけれど、リンは意地っぱりだから本当に言い出せないだけなのかもしれない。
なんて、リンのせいにしている俺の方が意地っぱりなのだと思う。
意地っぱりというか、彼氏として器が小さいと思うし最低だと思うし愛想つかされても仕方ないと思う。
そんなことまっぴらごめんだけど。
そうなる前に一言謝ればいいものを、無駄なプライドが邪魔をして意地の張り合いになるのである。
さっきから自分のペースで歩いているから、当然ヒールのリンにとっては速いだろうし歩きにくいのだろうと思う。
わかっていてそうしている。
そんな自分がまた嫌いになるのだけれど、リンが自分を追ってきている現実にどうしても甘えてしまう。
そして、振り向いた時にかける言葉を見つけられなくて、どれくらい歩いたのだろう。
「いった……っ」
その言葉が聞こえて反射的に振り向くと、下を向いてうずくまる彼女。
左足を押さえて動かない。
「リン!!」
駆け寄って足元を確認しようとしゃがむと、いきなり抱き着かれた。
「大丈夫?どこが痛い?」
わかっていた分の罪悪感が込み上げてくる。
同時に肩に温かい感覚が染みてきた。
「けんか、やだよぉ…レン……」
言うなりぎゅうっと力を込められて、わんわん泣き始めたリンを抱きしめ返し、背中をとんとん叩く。
「ごめん、ごめんね、リン」
滅多なことでは泣かないリンに泣かれるとどうしていいのか本当にわからなくなる。
だから余計に泣かせてはいけないと思うし、泣かせてしまった時はそれほどのことをしてしまったんだなと反省する。
そしてつっかえていた言葉がこんなに簡単に出てくる。
「仲良しがいい」
「うん」
「あと、一緒に歩きたい、話したい」
「うん、ごめん」
「もういいって言わないで」
「絶対言わない。約束する」
「それと、…嫌いに、なってない……?」
バカだろ、と思ったが口にはしない。
「好きだよ、リン」
「………」
「恥ずかしいとこ悪いけど、ちゅーしたいから顔あげて」
「わかってるならそういうこと言わ」
反論のために上げたであろうリンにキスをして、更に赤くなった顔を確認する。
歩けそうになかったのでお姫様抱っこをすると、やだやだと本気で暴れたのでおんぶして家路につく。
迷わず俺の家に入ると「え、なんで、」と言われたが今日のお詫びに泊ってきなよ、と言うとやっぱり顔を赤くして珍しく素直に頷いた。
じめじめした6月の風は気持ちのいい風に変わっていた。
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