針降る都市のモノクロ少女 16 ※二次創作
投稿日:2019/12/02 16:09:13 | 文字数:3,518文字 | 閲覧数:84 | カテゴリ:小説
第十六話
次回、最終話。
最後までお付き合いくだされば幸いです。
16.
わたしは復讐を果たしました。
わたしのアレックスを撃った浮浪者に。
わたしは復讐を果たしました。
わたしからアレックスを奪ったエコロジストに。
わたしは復讐を果たしました。
わたしからアレックスを奪った市長に。
……わたしは復讐を果たしました。
わたしからアレックスを奪った、この都市の全てに。
……。
……なのに、満たされないのはなんででしょう?
わたしは、時が満ちてから、人びとの夢を堕ろし、亡骸達に火を放ちました。
針降る都市は崩壊し、暴動が起き、火の手に包まれています。
チャチな礼拝も、命乞いも、無価値になりました。わたしが無価値にさせたのです。
生き残ろうとあがく人々に、まだ何が起きたのかわかっていない人々に、わたしは手をふります。
「バイバイ……」
わたしに生かされた人々へ、わたしは手をふる。
さぁて、まだまだメインディッシュは残っているわ。たんと召し上がれ 。
まだまだ、破壊の規模はこれからも広がるでしょう。
もうわたしなんていなくても、狂気は好き勝手に大きくなり、増殖するの。
誰にも歯止めが効かない無法が続けば、そんなのは当たり前のこと。
本当の混沌は、これからやってくるんだもの。
警察は機能しません。代わりの軍隊がこの都市に来る頃には、人口の半分が死に、都市の八割は破壊されるはずだわ。
短くても一年くらいは都市機能がマヒするでしょうし……最終的には、ここが廃墟になる可能性も十分あります。
それはまるで、ズタズタにしたわたしの愛の残骸みたいなもの。めちゃくちゃになったその中心で、あなたたちはわたしがかつて抱いた無念を胸に抱いて散ればいい。
わたしは……ブラック・ウィドウはこの都市を滅ぼしたわ。完膚なきまでに。
……そう。
わたしは復讐を果たしました。
この針降る都市に。
なのに……。
「ミセス。お待たせしました」
その声に顔を上げる。
いつの間にか車は停車していて、ディミトリが後部座席の扉を開けて手を差し伸べていました。
あれからどれくらいの時が経ったのか、ちっともわかりません。けれど、わたしの最期の場所にきちんとたどり着いていました。
「……ん」
ディミトリの手を取り、立ち上がろうと力を込めるけれど、簡単にはいきません。
右肩が痛む。
視線を落とすと、ブラウスの大部分とアレックスのジャケットにまで、黒い血が広がっていました。
右腕は……力が入らず、上がりそうにありません。
「……ありがとう」
「礼には及びません」
時間をかけて、なんとか車から出て礼を言うけれど、ディミトリは事も無げに言う。しかしそんな彼の姿も、所々傷だらけで、燕尾服は埃まみれ。満身創痍に見えました。
「ごめんなさい。わたしは――」
「――ミセスが謝ることなど、何一つとしてございません」
ディミトリはそれでもなお、毅然とした態度を崩しません。
「ミセスは目的を果たされました。ミセスの復讐も、そして私の待ち望んだ復讐もです。アレックス様はお喜びにはならないかもしれません。ですが、それでも私たちの目的は達せられたのです。ミセスは、私がどれだけ感謝をしても足りないほどの事を成し遂げたのです」
「でも、もうわたしは……」
「……リン・ニードルスピア様。私はこれから何が起こるか承知しております。そしてそれを、あなたが望んでいることも。私を巻き込んだと思っておられるのなら、それは間違いです。私もまた……やっと眠れる、と……そう思っているのですよ」
ディミトリの瞳は真摯な眼差しをわたしに向けていて、嘘偽りなど無いと告げていました。
だから、謝るのも、申し訳ないと思うのも失礼なことでした。
……わたしはなんと愚かなのでしょうか。
「わかったわ。……ありがとう」
「感謝を告げるのは……私の方でございます。リン様。あなたにお仕えできて光栄にございます」
ディミトリが姿勢を正し、お辞儀をする。
わたしは、ただうなずきました。
ポケットに手をいれると、固い感触が二つ。取り出してみると、それは二つのロリポップでした。
「……」
わたしは黙って片方を彼に差し出します。
「私は、そのようなものは……」
「最期、だから」
わたしの言葉にディミトリはやれやれと苦笑をしたけれど、受け取ってくれました。
「アレックス様もお好きでしたね。甘いものの食べ過ぎはよくないと、常々進言していたのですが、聞き入れては下さいませんでした」
「そうね」
それでも、わたしに気をつかってくれたのか、ディミトリはそのロリポップを口にしてくれました。
それを見てどこか安心すると、わたしも自分の分を口にします。
それは相変わらず味がしないけれど、でも、どこか心を落ち着けてくれる感じがします。
「……さよなら」
「はい」
最後くらいは笑顔を見せようとしたけれど、作り笑いのやり方も思い出せません。なんとか唇をひきつらせ、ディミトリに背を向けると目の前の建物へと歩きます。
右肩を押さえ、よたよたと足を引きずりながら。
背後では、おそらくディミトリが直立不動でこちらを見ているでしょう。
仮にわたしが倒れても、彼はわたしの手助けはしません。それをわたしが望んでいないと、ディミトリは知っているからです。
時間をかけて建物にたどり着くと、体重をかけて扉を開けます。
中はずいぶん広い部屋で、天井も高い。
左右に長椅子が整然と並び、正面の壁際は一段高くなっていて、説教台と大きな十字架が鎮座しています。壁にはステンドグラスがあり、聖書の復活の光景が描かれていました。
教会の礼拝堂。
けれど、ステンドグラスは色あせ、モノクロでしかありません。
復讐をやり遂げたのに、為すべき事を成し遂げたのに……わたしの世界は白と黒のままでした。
白と黒しかない世界は……なんで、色を取り戻せないままなのでしょう。
わたしが色を失ったとき、最期には色を取り戻せるって、そう思っていたのに。
礼拝堂には誰もいませんでした。
都市中を巻き込んだ大混乱の中、ここに来る人などおらず、ここにいた人も外へと出ていったのでしょう。
礼拝も、神への命乞いも、わたしが意味の無いものに変えてしまったのですから
「どうして……」
わたしは説教台へと歩みを進めながら、ポツリと言葉を漏らしてしまう。
どうして。
嗚呼、どうして?
脳裏に、あのときの光景がフラッシュバックします。
アレックスを撃ったあいつが、一緒にわたしも撃とうとしたとき、貴方は身をていしてわたしを守ってくれました。
でも……でも、どうして貴方はわたしを生かしてくれたのですか?
貴方はいないのに。
どうして貴方と共に逝かせてくれなかったの?
「ねぇ……」
だからわたしは、なにもかもを失ったわたしは……復讐にすがるしかなかったのよ。
そうしないと、生きている意味なんか見いだせなかったもの。
だから、わたしはすべてに嘘をついて、何もかもを騙して、復讐をやり遂げたんです。
視界が滲む。
貴方が生かしてくれたから、わたしは死ねなくなった。貴方の遺志を……無為にさせられないから。けれど……貴方の遺志を守るために、わたしは貴方の意志を見捨てました。貴方の望みを打ち捨てました。
けれど……。
「どうして、なんで、どうして?」
なんで、心は少しも満たされないの?
笑えると思ってたのに、ずっとフリしかできませんでした。今ではもう、フリさえもやり方を忘れてしまう始末。
復讐をやり遂げたのに、心のなかは空っぽのままです。
なにも……なにも残されてなんかいません。
なにも帰ってなんてきません。
説教台にたどり着き、力尽きて跪いてしまう。
「どうして、どうして、どうして?」
涙が溢れて、もうなにも見えやしません。
両手で顔をおおっても、涙はとどまることを知りませんでした。
「うう……ひっく、うええ……ああ……うああ……」
声が抑えられませんでした。
両手が涙で濡れ、大声で泣くのをやめられませんでした。
アレックス。
貴方との掛け替えのない日々。
人生の中で、わたしが唯一幸福だった日々。
ずっと続いて欲しかった。
ずっと続くはずだったのに。
貴方と二人で……幸せになりたかった。
それだけなのに。
それ……だけ、だったのに……。
……。
……。
……。
あのとき、何もかもが消えてしまった。
……そう。
何もかもが。
オススメ作品10/25
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A1
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病名
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この心に穴が空いたくらいなのに たったそれだけの違いなのに
病名
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Introduction
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Introduction
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「ありのまんまで恋したいッ」
(Aメロ)
また今日も 気持ちウラハラ
帰りに 反省
その顔 前にしたなら
気持ちの逆 くちにしてる
「ありのまんまで恋したいッ」
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水中歌
A 聞き飽きたテンプレの言葉 ボクは今日も人波に呑まれる
『ほどほど』を覚えた体は対になるように『全力』を拒んだ
B 潮風を背に歌う 波の音とボクの声だけか響いていた
S 潜った海中 静寂に包まれていた
空っぽのココロは水を求めてる 息もできない程に…
水中歌
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【リンレン小説】俺の彼女だから。。【ですが、なにか?】
「…はぁ………ん…ぁん、いやぁ……ぁうっ」
暗くて狭い。密閉された空間。逃げられない私は目に涙をためた。
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あー…蒸し暑い…
空は生憎の曇りだというのに今日はなんだか蒸し暑かった。ったく。楽歩の奴…バスの冷房くらいつけろよな( ̄∩ ̄#
【リンレン小説】俺の彼女だから。。【ですが、なにか?】
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【鏡音レン&鏡音リン】ネバーランディングストーカー【オリジナル】
ネバーランディングストーカー
作詞、作曲:mitsuki
編曲:Grand Chariot
ほんのちょっとのアンバランスだって
心に突き立てる刃になる
【鏡音レン&鏡音リン】ネバーランディングストーカー【オリジナル】
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鉄の処女と夢見がちなお姫さま【歌詞】
鉄の処女と夢見がちなお姫さま
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時は16世紀 舞台はルーマニアのニートテ地方
小高い丘にそびえる居城 惨劇の舞台 チェイテのお城のお姫さま
後世に伝わる記録で殺した娘は600から700人
鉄の処女と夢見がちなお姫さま【歌詞】
絵を描くことも
曲を作ることも
ずいぶん昔に諦めてしまった
だから、
絵を描ける人と
曲を作れる人が
すごくうらやましい
そう思いながら、
小説を書いたり
詩を書いたりしてあがいている
・・・・・・人に見せられるほどのものではないのが難点
○2次創作リスト
「ロミオとシンデレラ」全43話 原曲:doriko様 ジャンル:純愛もの 分量:約160ページ
※「on stage」全1話 原曲:なし ジャンル:初コンサートの初音ミク 分量:約20ページ弱
「ACUTE」全11話 原曲:黒うさ様 ジャンル:愛憎劇 分量:約50ページ
「Japanese Ninja No.1」全26話 原曲:デッドボールP様 ジャンル:変態どもが暴れ回るコメディ 分量:約250ページ
「ReAct」全14話 原曲:黒うさ様 ジャンル:愛憎劇(「ACUTE」の続編) 分量:約120ページ強
「神様なんていない僕らの」全3話 原曲:Polyphonic Branch様 ジャンル:青春を懐かしむ話(?) 分量:約30ページ
「茜コントラスト」全14話 原曲:doriko様 ジャンル:純愛もの 分量:約50ページ強
※「39」全1話 原曲:sasakure.UK×DECO*27様 ジャンル:「on stage」の焼き直し 分量:約20ページ弱
「焔姫」全48話 原曲:仕事してP様 ジャンル:都市国家のお姫様と吟遊詩人の物語 分量:約310ページ強
「Alone」全7話 原曲:doriko様 ジャンル:悲劇 分量:約40ページ強
※「焔姫2 プロット」全1話 原曲:仕事してP様? ジャンル:都市国家のその後(プロットのみ) 分量:約50ページ弱
「メモリエラ」全10話 原曲:yuukiss様 ジャンル:悲劇 分量:約100ページ
「Sol-2413」全6話(全3回) 原曲:ゆうゆ様 ジャンル:SF 分量:約30ページ
「ゴーストルール」全9話(全5回) 原曲:DECO*27様 ジャンル:不思議な女の子と出会うやさぐれ少年(?) 分量:約60ページ
「私とジュリエット」全13話 原曲:doriko様 ジャンル:「ロミオとシンデレラ」の続編 分量:90ページ弱
「水箱」全8話 原曲:Polyphonic Branch様 ジャンル:とある女性の過酷な日常 分量:約70ページ
「イチオシ独立戦争」全10話 原曲:ゆうゆ様 ジャンル:戦争もの(子ども兵) 分量:約60ページ
「アイマイ独立宣言」全19話 原曲:ゆうゆ様 ジャンル:「イチオシ独立戦争」の続編 分量:約160ページ強
「針降る都市のモノクロ少女」全17話(全20回) 原曲:TaKU.k様 ジャンル:復讐譚 分量:約170ページ
※「※」は番外になります。
※分量はそれぞれおまけを除いた上での文庫本換算です。作品によってかなり文章密度やおまけの分量にばらつきがあるため、ページ数のわりに長い・短い等があります。
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