――び、びっくりした。
 リンは高まる鼓動を抑えきれない。自分は、心の中で言ったつもりだったのに。こんな場面で、綺麗ともらしてしまうなんて。でも仕方ないと思った。
 レンの、何か憂うような表情は凄く綺麗すぎた。
 ――彼には、ずいぶん世話になったな。
 リンは、まるで遠い過去を思い出すように考える。あの時を思い出して。
 ――私が落ちさえしなければ、彼に頼ってさえいれば……彼はピアノを続けられたのに。
 ――だから、ここにきたんだ。
 ――だから、復讐しにきたんだ?
 ――私の命で収まるの?

「リン」
「何」
 腰の後ろで隠しているナイフ。これが最後の手段だった。生き延びる為の、最後の手段。
 しかし、レンはどこか赤い顔をしていた。
 まるで、告白でもするかのように。
「実は、ツアー中に君に惚れたんだよ。僕」
「ふぅん」
 やはり、告白であった。
 リンはナイフに気を取られてどうでもいい返事をしてしまう。そして、訝しげな顔をしたレンを見た。その瞬間にその言葉の意味に気付き――。
「えっ……」
「……ツアーの一日目。君の事、会った瞬間から好きだったよ」
「……」
「あ」
 レンは苦笑する。それは、さっきまでの狂った笑いでは無かった。
 リンは、身体が震えるのを感じる。狂ったように笑っていた時より遥かに、恐ろしいと感じたのか。そうでない身震いなのかは分からなかった。
「あの、ごめんね」
「え?」
 その少年のような声に、リンは目を見開かせる。
「何が?」
「唐突に、変な事言っちゃって」
 レンは、赤い顔を片腕で隠し――バッと離した時にはもう普通の顔だった。
 リンは、漠然と理解する。
 ――ああ、別れの告白?
 ――私にとっての、人生最後の告白ってやつ?
 ――私、やっぱりレンに殺されるのだろうな。
「さて、ここに辿りついた君には……」
 ――いやだ。
 ――あんたがよくても、私は好きな人に告白さえしてない。
 ――いや、それは諦める。
「――――ッ!!」
 ――死ぬのは怖い――

 レンは、背中を見せた。
「!」
 ――最後だ!
 ――殺されるものか!
 ――死ぬ前に、殺してやる!
 リンは、躊躇も無くナイフを握って立ち上がった。そして、彼の背中目掛けて走る。
 短い距離を、躊躇無く。
 だが、躊躇も無くと思っていたのは彼女だけだった。
 
 続く

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ナゾトキ×ナゾカケ 4

四話です。もう少しで終る……事も無い?
 つづき、今度こそはすぐに……っ!!

閲覧数:426

投稿日:2010/08/24 19:40:20

文字数:992文字

カテゴリ:小説

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