「もう、桜の季節か」
そう呟いた。
 辺りを見回すと、一面桃色だった。実を言うと、僕は桃色が嫌いだった。桃色は――嫌な記憶を蘇らせるからだ。
 桃は、僕の姉の色。僕の姉の、髪の色だった。黒い地味な僕の髪と違って、鮮やかな桃色。太陽に照らされきらきらと光っていた。
 僕の憧れだった姉が死んだのは、3年前の冬。
 国の上層部に仕えていて、この国…いや、このレイティ大陸にとって重要な人物だった。
けど姉は死んだ。
 同じリント人に撃たれて、死んだ。
 あまりにもあっさり死んだ。
 そしてその犯人はまだ見つかっていない。
 だから――
「絶対に見つけて、復讐するって誓ったんだよな…」
 そう言って、少し寂しげに笑った。そして、腰に常備されている刀にそっと触れる。姉と同じ役職の証の、刀。
 僕は姉と同じ職に就くことで、姉を殺した犯人を見つけやすくなるのだと思い、この職に就いた。けれど、この刀を見るたびに姉を失った時の悲しみが甦るのだ。それについては少し、後悔をしている。
 しかし絶対に犯人を見つける、という固い決意のおかげでそれに耐えることができた。けれどそれもいつまで持つか――
 1つ溜息をついた所で、ある人物が目に入る。
 短めの緑の髪の、まだ顔に幼さが残る少女だった。
「……迷子、かな?」
 そう呟いて、その少女の方へ歩いていく。彼女は誰かを探しているのかのように、きょろきょろと目を動かしていた。だが僕に気づくと、辺りを見るのを止め、冷たい目でこちらを見る。その瞳に少し緊張する。
 冷酷な、感情の消えた瞳だった。この瞳は、例えば暗殺者など、その手を赤く染める仕事に就いている者たちのものだ。
 じっと自分を見つめている僕に耐えかねたのか、少女は冷たい声音で言った。
「…何ですか?」
 その声に、鳥肌が立つのを感じる。
 声に感情が無いだとか、そう言う事じゃない。
 その声は――
「………姉さん」
「え?」
 はっと、僕は我に返る。
 目の前にいるのは、確かに緑髪の少女だった。
 けれど、雰囲気が…そう、雰囲気が『彼女』に似ていた。そう、例えば…
「…! 何するんですか!」
 少女は、頭に置かれた僕の手を振り払った。
 けれど僕は微笑む。そして振り払われた方の手を、開く。
「……」
 すると、その手の中から桜の花びらが数枚、舞い落ちる。それを見て少女は、顔をそむける。そして、小さい声で言う。
「…えは」
「え?」
「名前はっ…?」
「……名前?」
 それに、少女はこくんと頷く。頭を掻いて、少し間を開けて僕は答える。同時に手を差し伸べて、
「僕は戒(カイ)。君は?」
 少女はじっと差し伸ばされた手を見て、
「……めぐみ」
 そう言い、手を握り返した。
 その手は、とても暖かかった。



                それが、2人の出会いだった。
               それが、この物語の始まりだった。
                それが、この運命の序章だった。

              それが、この悲しい運命の序章だった。

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  • 非営利目的に限ります

最後のリボルバー Ⅰ~『あなた』視点~

mothyさんの『最後のリボルバー』
大好きです!><

閲覧数:246

投稿日:2010/04/25 16:10:40

文字数:1,289文字

カテゴリ:小説

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