ここがパーティーの会場ならば、宴もたけなわといったところだろう。仄明るいオレンジ光がそっと輪郭を浮かび上がらせる店内。
客の入りは八部ほどで、その視線のほとんどは店の奥に設置されたスタンドマイクで歌うリリィさんに向かっている。周囲を包み込むような優しい歌声と、室内を遊泳する音符達に皆がうっとりと浸っていた。
例外といえば、つい先刻まで僕たちが座っていたソファーに凭れ掛かるニックとグレイグ、それとカウンター席に移動した僕とケイくらいのものだ。
打ち合わせもそこそこに飲み会へとシフトしたこの集まりは、一通りの説明を受けたミクが抜けた時点で実用的な意味を失った。クリスはミクを車で家まで送っていき、未成年のいなくなった残留組はいよいよ本格的に酒を飲み始めた。
しばらくは世間話や音楽の話題に花を咲かせていた四人だったが、ニックがどれだけウォッカのことを愛しているか語り始めた途端に話が妙な方向に流れはじめた。
寡黙だったグレイグが酒が入って口が軽くなったのか、ウイスキーがいかに興味深い飲み物であるかを熱弁すると、負けじとニックがウォッカこそウイスキーの起源であると主張し、微妙に論点のずれた議論が繰り広げられた末、二人はウォッカ愛とウイスキー愛をかけて酒飲み勝負を敢行したのだ。結果、両者グロッキーで今は生きた屍になっている。
ケイの勧めで早々にカウンターの方へ席を移した僕らは、アツくなる二人をそっとしておいて各々のペースでグラスを空けていた。
「一年か」
軽く揺らしたワインの波紋に目を落として、ケイは言う。ファッションモデルのように整った容姿の彼がワイングラスを持つ様は、ことさら絵になる。横で似合わないカクテルをちびちびやっている僕とは雲泥の差だ。
「何の話?」
「お前との付き合いだよ、カイト」
ちらとこちらを見て、ケイはぐいとルビー色の液体を喉に流し込んだ。
「そうか。もう一年になるんだ……」
「“まだ”一年だろ」
「はは。そうだね」
軽く汗をかいたグラスを握り、僕はケイとの出会いを思い出す。
彼との出会いは、ポリヴォラに無数あるバーの一席だった。ここに越してきて半年以上経ち、僕が街に馴染み終わる頃。
たまたま座った席の隣で、ケイは今日のようにワインを飲んでいた。今と違い、噛み締めるように一口一口含むのではなく、水でも飲んでいるみたくがぶがぶとやっていた。後で本人に聞いた話だが、その日は付き合っていた女性に振られた日だったらしい。つまり自棄酒だ。
僕がコップを半分まで減らす間にボトル一本空けてしまうのだから、けっこうな無茶をやっていたことになる。案の定ケイは早々に酔いつぶれてしまった。そのときの僕は、そこの店の常連一歩手前程度にはなっていたので、見かねたマスターから彼を送っていってやってくれないかと頼まれた。
軽く一杯、と思って立ち寄っただけだったし、特に断る理由もなかった、というかぶっちゃけ暇だったから僕はその頼みを引き受け、マスターから住所を聞いてタクシーを呼び、ケイを自宅まで送っていった。
相当ぐらついていたけれど記憶はあったらしく、その後偶然再会した街中で礼とばかりに昼食を奢られてから、ケイと僕はちょくちょく会ったり話をしたりするようになったという訳だ。
ことさら有名人ぶらない彼との付き合いは気楽で、もともと顔の広いケイはケイで僕をさっさと友人カテゴリーに入れてしまったらしい。そんな風に、僕らはけっこうフランクな関係を築いてきた。仲はそこそこ良い方だと思う。だけど……。
「気になってたんだけどさ」
「ん?」
ほろ酔い気分の僕は思い出を隅に追いやり、視線を隣のケイに向ける。
「どうしてこんなに協力してくれるの?」
仲は良いといってもあくまでそこそこ。そんな僕にここまで手を貸す義理もなし、ケイとミクも特に親しいわけでもなさそうだ。なのに彼はせっせと僕らの世話を焼いてくれている。何故だろうとずっと引っ掛かっていた。
ケイと僕の目が一瞬交錯する。
「昔、つっても大して前のことじゃねえが……」
ケイがグラスをカウンターに置き、静かに切り出すと同時にリリィさんの歌が終わった。拍手が鳴り、アンコールの声が上がる。
「俺も楽譜(スコア)の焼き場を見に行ったんだ」
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水面に揺れる...透明なターコイズブルー/初音ミク、音街ウナ

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Burstout
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