04
 半壊した建物から出てきたとき、下のみんなは勝利の雄叫びをあげ、空に向かって銃を乱射していた。
 僕を含めて十数人くらいの部隊は、大人の指揮官の他はみな十八歳以下だった。一番年上のオデルが十八歳になったばかり――だったが、どうやら向こうで死んでいるみたいだ。一番下は十一歳のチャールズ。僕らは簡単に死に、同い年くらいの新兵はいつでも入ってくる。
 三年も四年も生き続けられる者はまれだ。
 僕はもう、この部隊の中では単独行動を任されるくらいには古株になっていた。
「――カル。よくやったな」
 部隊に戻ってきた僕に気づいて、指揮官がそう声をかけてくれた。
 嬉しくて、誇らしくて、つい笑みがこぼれてしまいそうになるのをこらえる。これ以上みんなにうとまれるのはゴメンだ。
「サー」
 必要以上に形式ばらず、無表情に徹して僕は頭を下げる。
「車両の積み荷を確認します。まだお下がりください」
「――わかった」
 なんとなく僕の態度を察したのか、指揮官は薄く笑って離れる。
 背後に向き直ると、十四歳のオコエ――実際には、正確な年齢は本人も知らない――が、車両の運転席から政府軍の正規兵の死体を引きずり下ろしていた。
「……待って」
 オコエを引き留め、僕は自動小銃を構える。
「カル、どうしたの――」
 オコエが言い終わる前に死体の腕が動き、太ももの拳銃を引き抜く。
 予期していた僕は引き金を引いて、死んだフリをしていたそいつを永久に黙らせる。
 急な銃声に、みんなが一斉にこちらを向いた。
 が、状況を見て納得したのか、それも一瞬のことに過ぎなかった。
「……」
「気をつけて。確実に死んでるってわかるまでは、なにが起こるかわからない」
「う、うん。わかったよ、カル」
 僕はオコエにようやく浮かべられた笑みを見せ、軍用トラックの背後に回る。
 トランクの扉を四、五人で囲む。
 他の二台の軍用トラックも同様だ。
 トランクの中が物資だけとは限らない。
 僕は扉の前に立って自動小銃を構える。
 扉の両脇には、チャールズとベスが取っ手を握って合図を待っている。
 僕は二人にこくりとうなずいて見せる。二人は重い取っ手に苦労しながら、なんとか扉を開けた。
「――動くな」
 僕の第一声はそれだった。
 軍用トラックの中に、一人の中年女性がいたからだ。
「やめて、お願い。殺さないで……」
「手を上げろ。ゆっくりだ。そうだ。……よし。出てこい」
 カンガと呼ばれる極彩色の大きな生地を身にまとった姿は、ソルコタではよく見る伝統衣装だ。
 青と橙色のギザギザ模様だ。それにどんな意味があるのかは知らない。
 ……それをつけてるからといって、許していい相手かどうかは別だ。
 この車に乗っていたってことは、東のカタ族の人間ではない。西のコダーラ族の人間だ。僕の村を焼いたやつらの味方ってことだ。
「私たち、慈善事業をしているのよ。車に積んでいるのも、子どもたちの予防接種と、教育を行うために――」
「黙れ。いいから降りるんだ」
 僕の言葉にも、そいつはめげない。
「あなたもまだ十三、四歳でしょう? 武器なんて持っては――」
 引き金を軽く絞る。
 軽い反動にけたたましい音。
 トランクの内壁に弾痕が刻まれた。
「――ひっ」
「次は当てる」
 身体をびくりと震わせ、そいつはやっと黙った。
「……ふん」
 手を上げたまま、そいつはやっと車から降りる。そこでようやく他の車を見たが、人が乗っていたのはこの車両だけだったようだ。
 車両の中に大量にあるのは段ボール箱だった。中身までは確認しない。それは指揮官や導師の仕事だ。僕たちが勝手に中身を見るのは、導師への裏切りになる。
 車から降りた女を自動小銃の銃口でつつき、少し歩かせてから指揮官の目の前で膝をつかせる。
「……」
「……お願い。お願い……殺さないで……」
 女を見下ろす指揮官の視線は、横にいる僕まで恐怖を感じるほどの、すさまじい冷たさと怒りのこもった視線だった。
「カル」
「サー」
「……殺せ。西洋に染まったコダーラなど、生かしておくだけ無駄だ」
「イエス、サー」
「お願い、やめて! 私はあなたたちと――」
 銃声。
 ヒトからモノになったそれが倒れ、どす黒い液体が広がる。
 僕は淡々と、雑音を撒き散らす大元を絶った。
「よし。全員、そこの倒れたトラックを起こせ。この三台の軍用トラックを持ち帰るぞ」
「サー。イエス、サー」
 僕らの声がこだまして、めいめいに倒れたトラックに集まる。
 僕の自動小銃の銃口から立ち上る硝煙が、今回の戦闘の終了を告げるのろしとなった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

イチオシ独立戦争 4 ※二次創作

第四話

ようやく出てくる主人公の名前。

登場人物と読者の価値観のギャップが出るように書いているつもりです。

私たちにとっては残虐で、非道で、全く受け入れられない行為だけれど、登場人物たちにとっては普通で、当たり前のことで、わざわざ目くじらを立てるほどのことでもない、というような。

きっとこれって、よくあることなんだと思います。

中東や中央アフリカなんかの紛争地域の出来事であったり、国内の事件であったり……、両極端なそれらはどちらも、ニュースでは簡潔にまとめられ、断片的にしか取り上げられません。
どんな話題にせよ、実際の状況を俯瞰的に、網羅的に情報を得るのはかなり難しいです。
そこでの片寄った情報を元に声高に意見を押し付けようとするのは、ものすごく傲慢で、ものすごく滑稽な行為ではないかと思ったりします。

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投稿日:2018/08/25 18:17:18

文字数:1,917文字

カテゴリ:小説

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