昔むかし、一人の女の子が住んでいました。
女の子は毎日毎日泣いていました。
鳥たちの歌う青空は灰色に染まり、水平線の続く美しい海も枯れはて
風に舞う花びらいっぱいの草原も荒れ地になっていきました。
どういうわけか、女の子が好きになった物は必ず終わってしまうのです。
「どうして私が好きになる物はみんな終わるの?だから私は一人なのね、きっとみんな私が怖いんだわ」
荒れ果てた大地の向こうへ沈んでいく太陽すらも
女の子は自分のせいだと思い込んで泣いていました。
そんなとき、小さくしゃがんだ背中の後ろから、一人の青年が現れました。
「どうしたの?何か悲しいことでもあったの?良かったら僕に聞かせてくれないかな?」
女の子はうつむいたまま青年にこう言いました。
「あんたもどこかへ行ったらいいわ、私は全てを終わらせる女、きっとあなたも消えるわよ。」
こう言えば、この変り者も立ち去るだろう
そう思っていたのですが、青年は女の子の隣に座り込みこう言いました。
「ちょうどいいや、僕も消えたい所だったんだ、さぁ今すぐ消してくれよ」
女の子はあっけにとられ、怒って青年に言いました。
「ふざけないでよ!冷やかしてるの!?太陽が沈むのを見たでしょう?」
女の子は立ち上がり、涙を拭いながら歩き始めました。
いつまでたっても、どこまで行っても、青年は女の子の後ろを着いてくるようになりました。
それも、不思議な事にとても笑顔で着いてくるのです。
「しつこいわね!解ったわよ、私の力を見せてあげる!」
どんよりとした雲に包まれた夜空に向かって女の子は言いました。
「私は月なんて大嫌い、今夜のような曇り空が大好きよ!」
するとどうでしょう、さっきまで明かり一つ無かった空は満天の星空と優しい月明かりでいっぱいになっていました。
口をあけて夜空を見上げる青年に、女の子は言いました。
「どう、これが私の力、消えたくないなら帰ってよ!」
振り向き、歩こうとした女の子は、大きな石につまずきました。
思わず目を瞑った女の子でしたが、不思議な事に痛くありません。
ゆっくりとまぶたを開くと青年が、そっと優しく女の子を抱き抱えていました。
「なるほど、こりゃ凄いや、お月様が出たお陰で、安心して夜道が歩けるよ」
ふと我に帰った女の子は、青年の手を振り払い言いました。
「離してよ、あんたなんかいなくたって転ばなかったわ!」
女の子はぷんぷんしながら、再び歩き始めました。
晴れ渡った満天の星空の下、青年はぽつりと言いました。
「どこまで行くの?ちょっと疲れたよ、何だか喉が渇いたよ」
「だったらそこでじっとしていればいいじゃない、私に消されずにすむわよ」
すると青年はニコニコしながらこう言いました。
「僕は水のないこの小川が大好きなんだ、海もないからどんなところにだって歩いていける。」
それを聞くと、女の子は意地悪そうな顔で言いました。
「私はあんたの好きなもんなんて大嫌い、だから海や小川に流れる水も大嫌い!」
するとどうでしょう、空から大きな雨が勢いよく降注ぎ、みるみるうちに、小川には水が流れ、枯れはてた海にはさざ波の音が戻っていました。
雨水でずぶ濡れの女の子が言いました。
「これであんたの好きな渇いた海はなくなったわ!さぁ、小川の水を飲んだら、どこかへ行っちゃえばいいんだわ!」
青年は傘を開いて女の子に寄り添いました。
「こんな雨じゃ風邪ひいちゃうだろ?ほらっ、一緒に傘に入ろうよ。」
女の子は顔を真っ赤にしていいました。
「馬鹿にしないでよ!後悔するわよ、私をもっと怒らせたいの!?」
それでも青年はニコニコしながら、女の子を傘に招き入れました。
雨が止み、傘をしまうと、女の子は再び歩き始めました。
すると、青年は地面に座り込みこう言いました。
「とても気持ちよさそうな岩だ、鬱陶しい草花もないし、僕はどこでも眠れるこの荒れた大地が大好きなんだ」
気持ちよさそうに背を伸ばすと、青年は頭の後ろで腕を組み、地面に横になりました。
女の子は呆れた顔で青年に言いました。
「私がこんなに苦しい思いをしているのに、あんたは本当にいい気なもんね!」
すると青年はいいました。
「君も横になったらいいよ、このゴツゴツした岩も気持ちがいいよ」
女の子は怒鳴って言いました。
「私はあんたの好きな荒れ地なんて大嫌い、花いっぱいの野原や、柔らかい芝生の草原なんて大嫌いよ!」
するとどうでしょう、どこからともなく草花の緑が生い茂り、辺りは一面花畑になってしまいました。
「これであんたの好きな荒れ地はなくなったわ、眠れるようなゴツゴツした岩でも探しに、どこか遠くへ行ったらいいんだわ!」
ところが、どういう訳か、女の子のクシャミがとまりません。
すると青年は、彼女の顔を優しく抱き止せ言いました。
「おやおやこいつは困ったな、折角きれいな花畑でも、クシャミばっかじゃ苦しいだろ?」
顔を真っ赤にした女の子は手を振りほどくと、つんのめって言いました。
「余計なお世話よ!気やすく触らないで!あんた本当に消すわよ!」
それでも青年はニコニコしながら女の子に着いていくのでした。
それからも二人は、どこまでもずっと歩いていました。
ところが、時々でしたが青年は苦しそうにうずくまるようになりました。
「無理しないで帰ればいいじゃない、私といると本当にいつか消えるんだから!」
ちょっと心配そうに女の子が言うと、青年は地べたに腰掛けたまま言いました。
「なんて爽やかな夜だろう、熱くて眩しい太陽が昇らないお陰で、僕はどこまでも歩いていけそうだ。」
笑いながら息を切らす青年を見て、女の子は困惑して問いました。
「じゃっ、じゃあ太陽が昇ったら、あんたはどこにも行かれずに、どっかで休んでいられるのね?」
青年は優しいいつもの笑顔で、コクリと1回頷きました。
目を閉じて、女の子は大きく深呼吸し、星空に向かって言いました。
「私は太陽なんて大嫌い、だって何でも照らすんだもの!」
遠い遠い水平線の向こうから、まばゆい太陽が昇り始めました。
太陽を映し出す大海原、果てしない空に、オレンジ色に染まる雲。花は咲き乱れ、優しい朝がやってきました。
これで青年もどこかへ去ってくれるだろう
そう思い、振り返ると、青年は花畑の中でうずくまっていました。
「どうしたの!?ねぇっ!こうすれば帰れるんじゃなかったの!?」
女の子に抱き抱えられ、青年は言いました。
「見てごらん、この青い空を、どこまでも続いているだろう?見てごらん、昨日までの荒野がどこもかしこも花だらけだ、ほらっ、聞こえるだろう?打ち寄せる波の音が。ほらっ、朝日が昇る、君が終わらせたこの世界に初めて昇る太陽だよ。」
しゃべればしゃべるほど、青年の体は朝日の光に透けていきました。
「そうよ、いなくなればいいんだわ!こんな苦しい切ない思いもきっと全部あんたに会ったせい!あんたなんて大嫌い!」
真っ赤な顔で泣きじゃくる女の子を青年はそっと抱きしめました。
「もう泣かなくていいんだよ、終わらせる君が今こうして終わるんだから。」
すると青年はますます透明に透けていきました。
それでも、女の子は青年を思い切り抱きしめ叫びました。
「あんたがいたから、こんなに空が青いんだよ!あんたがいたから、こんなにきれいな花が咲いてるんだよ!あんたがいたから、この世界も… …私の大好きな世界も帰ってきたんでしょ!!」
青年はだまったまま、彼女を強く抱きしめました。それに答えるように、女の子は強く抱き返しました。
「でも…あんたがいなくなったら…あんたのいない世界なんて…あんたがずっといてくれれば、私はこんなに泣かずに済むのに!あんたなんて大嫌い!一生私の側から離れなければいいんだわ!」
女の子の最後の嘘は叶うことはありませんでした。女の子は青年を愛していたのです。
止まらない涙のほほをなで、青年はそっと女の子にくちづけを交わし言いました。
「ありがとう…大丈夫、いつも僕は一緒だよ」
青年はまばゆい朝日の中へ消えていきました。
青年が消えてもなお、女の子はぎゅっと優しいその面影を抱きしめるのでした。
こうして新しい世界は、一つの恋によって再び周り始めたのでした。
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ご意見・ご感想
オボロン
ご意見・ご感想
ポンDEみっくさん、はじめまして、オボロンといいます。
「大っ嫌いな世界で」拝見いたしました。
好きなものが終わりを迎えてしまうという不思議な設定を、
うまく物語りに取り入れられおり、その発想に感服しました。
すばらしいアイデアだと思います。
自分も文章を書いていますが、こういった視点をなかなかもてないでいるため
毎回難儀しています。
ポンDEみっくさんの作品で勉強させていただきます。
もし気が向いたら自分の作品も見ていただければ幸いです。
それでは、これからも創作活動がんばってください。
2010/05/13 22:56:29
異議ありP
ご意見・ご感想
わーツンデレミクたn(ry←
改めて読んで感動しましたっ(´;ω;)!!
設定も斬新で、かなりいいと思います!
2010/02/06 11:01:05
ポンDEみっく
>ツンデレ
たっ、たまたまそういう設定になっただけなんだからね、フンっ!(爆
最初は歌詞を作る為に
アイディアを練っていたんですが
自分は文章の要約が苦手なので
小説になったんです。
それでも、この作品にメッセージを頂けてたので本当に嬉しいです^^
感無量です♪
´∀`)ノ ありがとう?
2010/02/06 13:08:34